§1-02 聖探の儀(後編)
それはアリエラが12歳になった年だった。
ルヴェールもアリエラもともに7歳の時に魔法の才能を開花させ、9歳の頃にはそれぞれ3属性の魔法を使えるようになっていた。
そのとき、ライナスは丁度7歳。姉達が魔法を開花させた年齢だったけれど、一緒に訓練していても一向に魔法が使えなかった。
それを見た姉達が、とんでもないことを言い出したのだ。
「そういえば、使われた魔法をその身に受ければ覚醒しやすいって話、知ってる?」
目をきらきらさせながら、そんなことを言い出すアリエラをみて、ライナスは青くなっていた。
「いや、姉様。さすがにそれは無茶というものでは……」
「ほんと? 丁度、私、回復魔法も使えるようになったし、ちょっとくらいなら平気かな?」
「いや、あの。ルヴェール姉様?」
ライナスは話が転がっていく方向に、なにか危険なものを感じ取っていた。
「そりゃ、そのお歳で回復魔法が使えるなんて、ルヴェール姉様の才能は凄いと思いますよ? でもそれとこれとは……」
このままでは、なにかしら酷い目にあいそうな予感が津波のように押し寄せてきていたライナスは、口籠もりながらも姉達に撤回を促そうとした。
「なら、大丈夫ね!」
「ちょ、ちょっ、待って下さいアリエラ姉様!」
「よーし、じゃまずは火からいくね!」
「ええ? いきなり攻撃が強力そうな火ですか?! って、本当に撃つわけ!?」
すぐに、姉たちの笑い声とライナスの悲鳴が轟き渡ることになった。
服を焦げ焦げでボロボロにしたライナスに話を聞いた両親は、呆れたような、笑いをこらえているような複雑な様子で、それでも一応子供達を叱ったのだった。
とはいえ、その後も、似たり寄ったりの「特訓」をライナスが受け続けたことに変わりはない。
ついでに言うと、火魔法は使えるようにならなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そのエトワは、現在、ニコニコしながらライナスを抱きしめていた。
「そんなことはありませんよ。12歳で魔力ランクがC+なら大したものです」
実際のところその通りで、一部の特別な人たちを除けば平均はEくらいだ。ちなみに最低はG-。もっとも貴族だけを見るならD+かC-くらいが平均的といえるが、それでもC+ならまあまあと言えた。
二人の姉の方が異常なのだ。
「まあね。それにライナスは魔法なんか大して使えなくても立派な領主になると思うよ? 狡賢いから」
「姉様、それは全然ほめ言葉になっていません」
「だってそうじゃない? 今回だってアリエラ姉様の話を、あんな風にまとめちゃうなんて」
「いや、それは……」
そのとき、教会の方から、おおという歓声が聞こえてきた。
何事だろうとそちらを振り仰ぐと、素早く偵察に行ったルヴェールが戻ってきて原因を告げた。
「デルフィーヌ様が、水・聖の2属性で、ランクがBを告げられたみたい」
デルフィーヌ=ダリウス。彼女はダリウス辺境伯の3女で、今年の目玉とも言える存在だ。
新誕祭(新年に行われるイベント)の挨拶でちらっと見た時は、水色のまっすぐな髪を肩で切りそろえていて、まるでお人形みたいだったっけと思い出しながら、ライナスは、さすがに優秀なんだなと感心した様子でその話を聞いていた。
「デルフィーヌ様の順番が来たと言うことは、そろそろ終わりね」
領主である辺境伯の3女よりも後ろとなると、公爵か王族くらいだが、そういう身分の人は、大抵王都で行われる儀に出席する。
それを聞いたライナスは『これから懇親会か。んー、面倒くさいな』などと考えて、軽くため息をついた。
「ライナス、そのめんどくさそうな顔はやめた方が良いよ」
ルヴェールが呆れたようそれを見て釘を刺した。
「あんたたちが主役の会なんだから。さぼっちゃだめだからね」
「わかっていますよ」
懇親会には、12歳になる子供を持つ貴族の、12歳以上の家族は大体招待されている。
12歳の子供の正式な社交界デビューであるのと同時に、ダリウス辺境伯を中心とした北部グループの、家族ぐるみのお披露目会みたいなものでもあるからだ。それに当の本人が面倒などという理由で出席しないというわけには、さすがにいかなかった。
「そういえば、アリエラ姉様は?」
「姉様は、ほら、タルカスがあれだから」
「ああ。頑張って欲しいですね」
「なによ他人事みたいに。あんたが黒幕でしょ」
「いや、だから姉様その言い方は……」
後に誰ともなく『タルカスの受難』と呼ばれるようになるその事件の始まりは、今を遡ること丁度1期(60日)、アンテの29に訪れた。
---- 設定 暦と時間 ----
ベリタス王国の暦は、1年が6期に別れていて、それぞれの期に名前が付いています。1期が60日。
1(アンテ) 1-1が新誕祭。人は皆数えで歳をとる。
2(ドゥクス)2-29が春分。聖探の儀が行われる日。
3(トロワル)3-59が夏至
4(キャトル)
5(サンク) 5-29が秋分
6(シスレ) 6-59が冬至
時間は、1日が12刻で。1刻は2時間。
春分の、日の出から日の入りまでを6分割したものを1刻と定義し、日の出から0刻~5刻。日の入りから6刻~11刻としています。
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