29 三ツ目地底人娘2


 突然眩しさを感じ、目が覚める。

 腕で顔を多い、僕は慌てて飛び起きた。

 手のひらで目の部分を覆って光が入らないようにして瞬きを数度繰り返す。

 目に感じた刺激が収まってきたところで周りをみると、まだ暗い時間帯だった。

 が、僕は下から照らされていた。


 光源は、彼女の額だった。第三の目の瞼が閉じたり開いたり。

 目の光量自体も増減を繰り返している。


 寝言ならぬ寝光りというやつなのだろうか。


 彼女は横を向いて腕を抱えるように寝ている。

 偶然顔を見合わせるような耐性になったときに彼女の額から照射されたのだろう。


 彼女の額に手を当てて、瞼を閉じるように撫でる。

 瞼の裏から光が大きくなったり小さくなったりするのが透けて分かった。

 意識すれば光を出さなくしたり光量を増やしたりもできると彼女は言っていたが、無意識だと呼吸に連動するようだ。


 夜を共にするのは初めてだ。

 とはいえ体を重ねた訳ではない。

 自分を意気地なしだとは思うが、初めてのキスで充分だ、と思うのはやはり意気地なしの証左かもしれない。


 初めて出会ったときはこんなにも好きになって愛おしくなって、こんな関係になるとは思わなかったが、人生とは分からないものだ。


 ……寝ている、か。


 ほっぺたを指先で弱くつつく。

 柔らかい。

 自分のをつつくと、その違いはよく分かる。

 ハリがあるのによく沈む。

 布団やマットのような硬い柔らかさではなく、ふわふわのクッションのようだ。

 だが肌のハリがすぐに戻ろうとして僕の指を押し返すのだ。

 僕の頬はここまで柔らかいものではない。


 寝るときでも額の目に髪が掛からないよううなじで纏める髪型は素朴でいい。

 肌に色素が乏しいので日焼け止めが必須だと言っていた肌は肌理も細やかで凄くさわり心地がよく、太くて荒い髪とは好対照だ。

 ただ、髪も肌も白いのは変わらないか。


 彼女が起きているときはこう、気恥ずかしかったけど、今ならちょっと大胆に行けるかも知れない、と僕は思い、寝る前のリベンジをすることにした。


 キスを成功させたが、その前に距離感が分からずちょっと速いスピードで合わさったので彼女と僕の歯で唇を挟んで痛かったのだ。

 かといってゆっくりやるには見つめ合うため気恥ずかしい。


 とはいえ、何事もチャレンジだ。


 僕が挑戦しようとしたところで、彼女は「ぅん……」と身じろぎし、寝返りを打つ。

 丁度仰向けになってくれた。


 都合が良い。


 彼女の頭の脇に片手をついて、もう片方の手で彼女の額の目を閉じさせた。

 彼女を見つめる。

 いざやるとなると、躊躇ってしまうが、長い事やっては起きてしまう可能性がある。

 素早く丁寧に、だ。


 だが速過ぎては二の舞だ。

 直前までスッと近づき、ゆっくりとくっつけるのだ。


 彼女の唇まであとセンチ。

 あとちょい……。

 ゆっくりと触れ、た。

 触れてからもほんの少しだけ押しつけるように深く、合わせた。


「……んっ!」


 というところで彼女の両腕がハネ上がり、僕を抱きしめるように拘束した。


「むー!」

「んっ、むぅ」


 離れさせてくれない。

 両腕を使って土を掘るせいか、彼女の腕は見た目より強い。


「ちゅっ」


 彼女が吸い付いた唇を、離す。

 チューの語源となった音が出た。


「もーあなた意気地なしかと思ったら大胆なんですね!」


 彼女はやたらハイテンションだ。

 そういうとちゅっ、ちゅっ、と僕の頬に唇を付ける。


「お、起きてたの?」


 恐る恐る聞く。


「あなたのちゅーで起きました!」


 ちくしょうやるんじゃなかった。


「さあこのまま続きいきましょう! れっつどっきん!」

「ちょ、それはまだ早っ」

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