21 シザーハンズ娘1
手が使えない、というのは存外に不便に見える。
彼女の場合、手があって不自由ではないのに使えないのだからその感覚はより一層だと思う。
が、あまり不便は感じないらしい。
彼女は指が刃物になっている。
骨や爪の形が変形して刃になっているのだ。
カシンカシンと威嚇するように慣らすのは怖いのでやめてもらいたい。
「うん」
彼女は素直に答え、いそいそと指の刃物に鞘を被せていく。
普段から刃を露出して僕と抱き合ったときに怪我をしてしまう、なんてことはない。彼女が今被せているように、鞘がある。
指の一本一本に自分が手作りした鞘を着けているのだ。
鞘を全ての指に付け、その上から手袋をすることで鞘が落ちるのを防いでいる。
長い指を持っているシルエットだ。
そんな指で器用に普通の人と殆ど同じ仕事をやってのけるのは凄いと思う。
ただ携帯電話の扱いは非常に苦手らしい。
iPhoneとか使えないようだ。鞘は木製なので画面が反応しないのだ。
「ん……」
彼女は非常に寡黙で、何を求めているのかよく見ないと分からない事がある。
けれど、どれもよく見れば分かるのは身体全体を使った仕草が多いからだろうか。
手袋をせずに鞘を嵌めた両手をこちらに差し出している。
いつもは自分でこなすのにどうした。
僕がそう聞くと、彼女は頬を軽く染めた。
「偶に、甘えてもいいでしょ」
この子。
身長も僕より高くて、美人さんなのに。
僕は彼女の膝に置かれている手袋を手に取る。
前に聞いたが右左の区別があるらしい。
指の曲げやすさの関係で、手の平側が薄いそうだ。
手袋に親指を入れ、生地を指で挟むと、確かに薄い方と厚い方があるようだ。
僕が手に取ったコレは指の配置からして左手用か。
「左手出して」
僕は彼女の左手をとり、彼女の5本の指を纏めて手袋の中に入れる。
なにこれすごい入れにくい。
鞘の先っぽが細いので手袋の指に2,3本纏めて入る。
僕は悪戦苦闘しつつもなんとかそれぞれの指に1本ずつい入れ、手袋を彼女の手にぴったりと合うように嵌める。
「ん」
彼女は嬉しそうだ。
右手は少し慣れたのか、すんなりと嵌めることができた。
「ありがと」
形の良い唇が動いて、上弦の弧を描く。
なんだか照れくさくなって。僕はさっさと立ち上がって彼女に背を向けてしまった。
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