02 単眼娘のいる日常2


「ねぇ」

 僕が本を読んでいると、彼女に呼ばれた。てこてこと危なげに歩み寄ってくる。これで更に視界も狭いらしいのに転ばないのは不思議だ。

「んっ」

 ちょっと腰を曲げ、上目使いで僕を見る。ちょっと狭いけど可愛いおでこを突き出す彼女。前に一度やって上げたのが気に入ったのか、ここのところ頻繁にこの要求をしてくる。それは良いのだけれど、彼女の上目使いはその、迫力がある。目が大きいからだろうか?

 僕は微笑んで、本を閉じる。右手を開けて、彼女の顔に添え、親指の腹で彼女の大きな目の横を撫でた。人間なら、目に直接当たるところだが、単眼である彼女のそこは柔らかい肉の裏にすぐ骨がある。強く押せば割れてしまいそうなほど華奢な彼女だが、頭蓋骨が硬いのは人間も彼女たちサイクロプスも同じらしい。

「んぅ」

 気持ちよさそうに目を閉じ、顎を引いておでこを前に出す。彼女の眉毛は一本だ。左右が繋がっている、訳では無く、もともとこういう眉毛なのだ。長く弧を描く眉毛で、中央より少しだけ右よりにつむじがある。右巻きの小さなつむじ。彼女たちの習慣で、大きめの眼球を誇りや汗から守るには必要不可欠なのだ。そのためか手入れをする者は少なく、大抵はぼさぼさ。でも彼女の眉毛は整えられている。僕が整えた。といっても櫛を入れる程度でいい。太眉と大きな目が可愛いのだ。

 何もしてこない僕に不安になったのか、彼女が首を少しだけ傾げて、ふるふると目を少しだけ開いた。それを見計らい、僕は彼女の額に口づけをする。大げさに音が出るよう、強く吸う感じに。

「はぅ」

 普段は見せない眼球の上部分も見せつつ、きゅっと瞳孔を小さくする。ふるふると震え、真っ赤になったほっぺたを僕に見せないよう両手を頬に当てた。でも指の間から見えてるよ。小さな唇が震え、とても愛らしい。

 そんな可愛い表情をすぐにいつもの半目無表情に戻し、彼女は顔を逸らす。ほっぺたが赤いままだよと指摘すると、後を向いてしまった。

 とても愛おしいので、彼女の後から抱きしめてあげた。

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