デミヒューマン娘のいる日常

藤村文幹

01 単眼娘のいる日常


 彼女は一つ目だ。いわゆるサイクロプスというやつである。


 よく顔の半分ほどもある眼球を持つと言われる彼女たちだが、そこまで大きな目は持っていない。とはいえ、人間の眼球の1.5倍はあるので、ドライアイが気になるそうだ。


 彼女たちは基本的に目を半分までしか開けない。だから彼女にじっと見られると、なんだか睨まれているような気がして落ち着かない。頭を掻いて乾いた笑いを返すと、慌てて顔を背ける。顔の筋肉が人と違うらしく、彼女は表情を変えるのが苦手のようだ。彼女の唇が大きく開いたり、弧を描いたりというのは数える程しか見たことがない。


「ばか……」


 照れ隠しなのだろうか。頬が赤くなっている。


 半目で表情を変えない、なんて言うと、無表情で無愛想なんてイメージが付く。だけど、少なくとも彼女は違う。彼女は目で表情を変えるのだ。目が大きいからだろうか?


 瞳がふるふる震えている。潤みも増えた。恥ずかしがっているようだ。


 彼女の瞳は良く動く。顔の中央にあるからか、視界が狭いらしい。足場が悪くても彼女が転ぶところは見たところがないので、本当に視界が狭いのかどうかは分からないけど。


 たまに


「好きだよ」


 って前触れもなく言うのが好きだ。そうすると彼女は大きな目を見開くのだ。


 普段下半分しか見えない目が見開かれ、こっちをじっ、と見る。瞳が大きいので瞳孔がきゅっと小さくなるのが分かるのだ。ふるふると身体全体を震わせ、そのまま動かなくなる。しっとりとしたほっぺたが赤く染まってリンゴかモモみたい。


 しばらく待っていると、彼女は二通りの反応を示す。


 ぱちぱちと瞬いて、大きく息を小さな口で吐いた。今回はこっちの反応か。


「わ、わたしも」


 顔を背けながら小さく呟いた。小さな声だけれども、しっかりと届く澄んだ声が僕は好きなのだ。

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