第18話 冤罪

「……着いた……ここ……」


「おお……デッカ……」


 案内されて着いた寮は、とても大きい建物だった。

 俺は今日からここで暮らすことになる。

 どんな奴らがいるのか、楽しみでもあり不安でもあるな。


「じゃあ……入ろう……」


「おう」


 大きな期待と楽しみ、そして不安を持ってドアを開ける。

 ドアを開けたその先には――


「……遅かったわね……二人で何をしていたのか教えてくれるかしら……?」


「そうそう……包み隠さず、な……」


 ……鬼の形相をしたアテナさんと見知らぬお兄さんが立っていた……


「ア、アテナさん……なんでここにいるんですか……?あ、あと、めっちゃ怖いんですけど……」


「私がここにいるのは私がこのクラスの担任だからよ……そんなことより、何をしたらこんなに遅くなるの……?あの後直ぐに寮に向かっていればもっと早く来れたはずだけど……?」


「そ、それには……深いわけがありまして……」


「お前はなんで遅れたんだ……?ローズ……。そこの男に何もされてないか……?」


「うん。何もされてない。遅れてごめんなさい。お兄ちゃん」


「え!?ロ、ローズのお兄さん!?」


「うん。私のお兄ちゃん」


 驚いた……この人がさっき話してたすごい兄なのか……

 にしても……クソイケメンだな……。少女漫画に出てきそうな容姿だ。

 ローズも可愛いと思うし、この家系は顔がいい家系なのだろうか。


「……おい貴様……ミツル・カツラギといったか……ローズに何もしていないだろうな……。もし貴様がローズに手を出すような真似をした場合、容赦なくお前を殺す……!!」


「は、はい……肝に銘じておきます……」


 ……ローズのお兄さん、めっちゃシスコンじゃねえか……

 イケメンが台無しだろ……


「それで……?二人して遅れた理由は……?」


「そ、それは……実は道に迷ってしまいまして……」


「え?そうなの?あの距離で?」


「だ、だって詳しい場所知らなかったですし……」


「……あれ?もしかして私、寮の場所言ってなかったかしら……?」


「は、はい……」


「ご、ごめんなさい……それは仕方ないわね……」


「……なぜローズと一緒に来た……?」


「それはですね、ここまでの道を案内してもらいまして……」


「……本当か……?ローズ」


「うん。本当。寮の場所を聞かれて、案内して欲しいって言われて、名前を聞かれた。その後少し話した。」


「……何を話したんだ?」


「それは……言いたくない……」


「な!なぜだ!?」


「……恥ずかしいから……」


 ……その気持ち分かるわ〜……

 言えないよなあんなの。恥ずかしくて。

 俺もアテナさんに言いたくないし、ローズも兄に言いたくないんだろうな。


「お、お兄ちゃんである俺に言えない……だと……!?そ、そんな馬鹿な……。……はっ!!こいつになにか言われたのか!?」


「?うん。自分の気持ちを言ってくれた」


「自分の気持ち……?っ!!……ま、まさか……ナンパされたのか!?」


「は?」


 何言ってんだこの人……

 ……も、もしかして、俺がローズに告白まがいなことをしたと思ってるのか!?


「……ミツル……ローズさんをナンパしたの……?」


「いや何言ってんすか!俺はナンパなんてしてませんよ!」


「どうなんだ!?ローズ!?」


「?ナンパって何?」


「初対面の人に名前を聞いて、遊びなどに誘ったりする行為だ!!……いや、まてよ!!名前を聞かれて話している時点で、こいつにその気があったことは確実じゃないか!!」


「……ミツル……貴方……」


「え?いや、ちょっ!」


 濡れ衣なんですけど!?

 ローズの兄、思考単純すぎだろ!?

 ……でも思い返してみれば確かにナンパぽかったかも……

 いやいやいや!!遊びに誘ってないからセーフ!!

 ……セーフだよね?

 ……その前にナンパしたことないし、彼女もいたことないからどこからがナンパなのかわかんねえわ……

 ……あれ……?目から汗が出そうだ……


「……ローズは部屋に行きなさい……ほら、鍵だ。二人一部屋だから、ルームメイトと仲良くな」


「う、うん……分かった……ミツルは……?」


「こいつにはまだ話さないといけないことがある……早く行きなさい」


「その通りよ。早く行ってローズちゃん」


「は、はい……」


 ローズが階段を登り自分の部屋に向かった。

 ローズの兄はローズの姿が見えなくなったのを確認し、ゆっくりとこちらに顔を向けてきた。


「さて……ナンパについて詳しく教えて貰おうか……!!」


「い、いや、だから俺はしてないんですって!そんなナンパなんてするわけないじゃないですか!」


「何ぃ!?ローズがそんなに可愛くないと言いたいのか!?」


「そ、そんなこと言ってないじゃないですか!可愛いと思いますよ!」


「そうだろうそうだろう!!……ってやっぱりナンパしてるじゃないか!!」


 ああああああ!!この人めんどくせぇ!!なんて言ったら納得するんだよ!!

 このままじゃ埒が明かねえ!!


「だから!してませんって!」


「ミツル……いい加減にしなさい……」


「アテナさんまで!?」


「……私のローズをナンパしたこと、万死に値する!!」


「な!?ロ、ローズさん、ナンパされたのですか!?」


 俺でもアテナさんでもローズの兄でもない声が一階に響いた。

 恐る恐る声の主を見ると、そこにはローズと見知らぬ赤髪セミロングの女子生徒が立っていた。

 恐らく、ローズのルームメイトだろうが……

 これは……まずい……!


「その通りです!!この男は私の……いえ、貴方のルームメイトとなったローズ・ラウトをナンパしたのです!!」


「あ、貴方……何を考えているのかしら!?ローズさん!安心してください!私がそばにいますから!」


「……大丈夫……ミツルは何もしな――」


「早く部屋に戻りましょう!先生方!このことは私から生徒全員に伝えておきますわ!会議室を使用してもよろしいですか?」


「ええ。もちろん。生徒への注意喚起の方、よろしくお願いします」


「お任せください。先生方はその男を頼みます」


「もちろんです。貴方も十分お気をつけください。なんといっても王女様ですから」


「分かりましたわ。ではよろしくお願いします」


 彼女はそう言って、ローズと共に階段を駆け上がって行った。

 ……終わった……

 ……俺の学園生活が……

 ……俺の新たな青春が……

 完っ全に終わったああああああああ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る