第58話 侵入者(2)
「ハッハァ!いいぜいいぜ!愉しくなってきたなァ!!」
「もう少し静かに戦え」
乱撃乱打。
ガルバーが獣のような身のこなしを駆使して短剣を鋭く差し込んでくるが、イツキはそれを的確にはじき返してみせた。
だが、ガルバーも手を緩めることなく確実に手足を狙ってくる。
この人数差、少しでも動きが鈍くなれば追い込まれるのはイツキの方だ。ガルバーもそれをわかって攻撃を振っているのだろう。
異常なまでの殺気は相変わらずだが、過度に踏み込み過ぎることなく間合いを適切に管理している。
挑発的な態度をしただけあって、相当な実力の持ち主だ。
「そらよ!【
ナイフを深緑に輝かせると、至近距離で
威力はそれほどでもないが、隙の少ない確実な手札だ。
「(やはり、無闇に大技を振ってはこないか………相当戦い慣れているな)」
戦いにおいて絶対的な力である
それは、威力に伴う“隙”だ。
敵が手練れであればあるほど、わかりやすい
このガルバーという
イツキは深緑の斬撃を短剣で全てはじき返すと、その手腕を改めて心の中で褒めた。
「ハッ、やるじゃねぇか!モグラ野郎!」
「ああ、お前も大した奴だ」
さすが貴族の依頼を受けるだけあって、しなやかな身のこなしには油断も隙もない。
対して、イツキは周囲の
…………このままだと少し分が悪いか。
そこで、それまで防戦を続けていたイツキが攻勢に出た。
「ふっ――――――!!」
ギアを一段階引き上げると、短剣を叩き付けるように力強く振り切った。
それまで順調に攻め込んできていたガルバーのナイフを押し返し、その懐へと潜り込むように姿勢を低くする。
イツキが取った手段は、とにかく攻める。それだけだ。
だが、速さと重さが桁違いに常人離れしていた。
「ぬお………っ?!」
その異常なまでの速さと威力に、今度はガルバーが防戦一方となる。
少しでも隙を見せればナイフを遥か彼方へはじき飛ばし、一撃で命を奪い去るような冷徹な銀閃。
イツキが誰よりも優れている点は、反応の速さと絶大な威力だ。
「や……ろおおおおおおおおお!!」
押し切られそうな間際で、ガルバーも負けじと剣戟の速度を上げる。
目にも止まらぬ刃の乱舞。
冷徹な短剣と殺気立ったナイフがぶつかっては真っ赤な火花を散らせる。
石畳には次々と傷跡が刻み込まれ、刃が交わる度に空気がビリビリと振動していた。
周囲の者たちは門から先へ行くことはおろか、そこに近付くことすら叶わずにただ茫然と立ち尽くすしかなかった。
それだけこの両者の戦いは荒々しく、何人も介入する余地すら残っていなかったのだ。
「
狼は叫んだ。
闘争本能に火を焚き付け、目の前の獲物を喰い千切らんと牙をむき出しにする。
だが、冷徹な守護者は一切の動揺をすることなく、恐ろしいほど冷静に敵の動きを見定めていた。
「―――――――そこか!」
「ちぃぃっ……………!!」
イツキの短剣がガルバーのナイフを綺麗にはじいたことで、その体勢が僅かに乱れる。
ガルバーが舌打ちをしながら距離を取ろうとするが、この
「吹き飛べ……ッ!!」
イツキはガルバーのナイフを持った腕が跳ね上がったタイミングで強く一歩踏み込むと、その足を軸にして強烈な蹴りを放った。
もし直撃すれば、病院送りでは済まない絶対破壊の一撃だ。
だが、そこでガルバーは乱れた体の動きに逆らうことなく、ぐにゃりと曲芸師さながらの身のこなしで体を下へ沈み込ませた。
「なんだと………?!」
「そう簡単にやられるわけねぇだろうが…ッ!!」
予想外の行動に、イツキの表情に初めて驚きが生まれた。
ガルバーは地面すれすれまでしゃがみ込んでイツキの蹴りを躱すと、今度は全身をバネのようにして跳ね上がる。
そして、そのまま宙返りの要領で逆立ちをすると、勢いに任せて踵を思い切り振り下ろした。
「どりゃああああああああああ!!」
ついに勝機を見出したガルバーが雄叫びを上げて全力を注ぐ。
蹴りを躱されて崩れたイツキの体勢からはどう頑張っても受け止めることも避けることも叶わない――――はずだった。
「だが、まだ甘いな」
「んな…………っ?!」
イツキは体が完全に流れてしまっているにもかかわらず、たった片手でガルバーの足首を難なく掴み取ってみせた。
それを見たガルバーも思わず驚愕に目を見開く。
そのままイツキは間髪入れずに足首ごとガルバーの足を巻き込むと、両手でぐるりと振り回してから他の
「う……うおおおおおお……っ!?」
情けない声を上げながら、ガルバーは仲間の
そして、イツキは再び定位置へ戻ると、先ほどまでと変わらない姿勢で静かに短剣を構えた。
その表情に焦りや疲れなどは微塵もなく、ごく当たり前とでも言いたげな涼しい顔つきのままだ。
「クソっ……野郎ぉ……!」
圧倒的な地力の差。
常人から見れば両者とも規格外の達人だが、それでもイツキとガルバーの間には明確な隔たりがあった。
これだけの人数差に加えて、相手はリスクを背負っているにも関わらず、まるで攻め切れない。
それも相手は
屈辱という他ない。
だが、それでも野に放たれた狼は何も得ることなく引き下がるわけにはいかなかった。
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