第29話 ララとユニコーン

 その魔熊の後ろ姿にララは声をかける。

「お母さんと会えるといいね!」

「りゃあー」


 ララの服の中からもぞもぞ出て来たケロが鳴きながら首を傾げた。

 ケロは「どうして倒さなかったの?」と聞きたかったようだ。

 だが、ララは誤解する。


「ケロちゃん、保護したい気持ちはわかるけど、きっと熊飼うの禁止だから」

 いくら常識のないララでも、街中で熊を買うのがダメなことぐらいはわかった。


「それに野生の生き物はなるべく野生のままにした方がいいんだよ」

 きっとお母さん熊が近くで探しているに違いない。

 そうララは考えてから、気が付いた。


「あれ? ダニの成長具合から数年間、咬まれていたとすると……」

 熊は成獣になるまで数年かかるが、親離れは一歳ぐらいでする。


「大きさ的には子熊だけど、お母さん熊とはぐれていたわけじゃないのかも?」

「りゃぁぁぁあ」

 どうでもいいと言わんばかりに、ケロはあくびをした。


「さてさて、材料の採集を再開しようね」

「りゃりゃ」


 それからララとケロは、さらにどんどん森の奥深くへと進んでいく。

 そうしながら、素材を集めて行った。


 一心不乱に素材を採集していると、周囲から生物の気配が少なくなっていった。


「どうしたのかな? 変な感じ」

「りゃあー」


 虫の気配はあまり減っていない。むしろ増えたぐらいだ。

 鳥も上空を飛んではいる。だが低い位置にはほとんどいない。

 そして、獣類の気配は、ほとんど皆無と言っていい。


 ララが困惑しながら、採集を続けるときれいな泉が見えた。

 泉の近くには白くて美しい角の生えた馬がいる。

 普通の馬よりも二回りぐらい大きかった。


「あ! ケロちゃん、ユニコーンだよ!」

「りゃぅ」


 ユニコーンは処女じゃないものを見かけると殺しに来るという性質がある。

 それは人族だけでなく、ユニコーン以外のあらゆる種族に適用される。

 加えて、ユニコーンはとても強力な魔獣だ。

 そのためユニコーンがいると、周囲の生態系がおかしくなると言われている。

 だから姿は美しいのに、害魔獣に指定されている。


「獣の気配が少なくなったのは、ユニコーンのせいだね、きっと」


 虫は小さすぎるから見逃される。

 鳥は上空を飛んでいる限り、ユニコーンの角が届かない。

 だが、多くの獣は、ユニコーンに殺害されたのだろう。


 ララがユニコーンの様子をうかがっていると、ユニコーンもララの方を見た。

 目が合うと同時に、ユニコーンが

「HIAOOOOOOOOOOO!」

 ものすごく大きくいなないた。

 そして、まっすぐにララ目掛けて突撃してくる。

 正確にはララではなく、ケロを目掛けて突撃してきた。


 ケロはオスのドラゴンだったのだ。


「HIIIIOOO!」

「ほいっと」

 ララはユニコーンの角使った攻撃をかわす。

 同時に右手でユニコーンの角を根本付近で切断した。


 ユニコーンの角は非常に硬い。

 鋼鉄製の剣や斧では、剣や斧の方が折れてしまうだろう。

 だからララは右手を魔力で覆い、鋭い刃のようにしてスパッと切った。


「hin……」

 途端にユニコーンは大人しくなる。


「ユニコーンは角を落とすと、生えてくるまで大人しくなるんだよー。あ、そうだ」

 ついでとばかりにララはユニコーンのたてがみと尻尾の毛も切っておく。


「角もだけど、ユニコーンの鬣と尻尾の毛は錬金術の材料になるからね!」

「りゃあー」

「全部切ったら可哀そうだから、鬣と尻尾の毛は少しだけもらっておこう」


 ララが採集している間、ケロは暇だったのだろう。

 ララの肩から、ユニコーンの頭の上に移る。

 そして、角の根元あたりをぺちぺちと叩いた。


 雄がユニコーンにそのようなことをすれば怒り狂って暴れまわるのが普通だ。

 だが、角を落とされたユニコーンは「hooo……」と鳴くばかり。

 普通の馬より大人しいぐらいだ。


「しばらく大人しくしているんだよ」


 そんなことを言いながら、ララがユニコーンの鬣を優しく撫でていたら、

「「「「「HiiiiiiiiiiiiHUOOOOOOOOOO」」」」」

 ユニコーンの不気味な嘶きが周囲に響き渡る。


「結構いるね。この辺りに生物がいないのはユニコーンの群れがいたせいかな?」

 凶暴なユニコーンと言えども、一頭ではさすがに周囲の生物を全滅させるのは難しい。

 だが、群れならばこの辺りの生物を全滅させるのも、さほど難しくないだろう。


 ユニコーンの群れはララ、いや正確にはケロを目掛けて走ってくる。

 かなり離れているのに凄い殺気だ。


 ユニコーンは仲間意識が強い。

 角を落とされた仲間の復讐をしようとしているのかもしれない。


「ユニコーンは執念深いから、逃げてもずっと追ってくるかも」


 こうなったら全員の角を落とすしかあるまい。

 そうララは決心して、ユニコーンの頭に乗っていたケロを抱いて自分の肩に乗せる。


 その直後、ユニコーンの群れがケロを目掛けて殺到する。

 群れの総数は十頭だった。

 ユニコーンの群れの中では、大きな群れと言っていいだろう。

 そして先ほど角を落としたユニコーンより、どの個体も体が大きかった。

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