第86話 黒幕登場?
「くくっ。あぁそのとおりだ。この私が貴様に蟲を寄生させた」
「何でそんな真似をした?」
突如現れた男にキングが問う。改めて見ると奇妙な姿をした男であった。肌は紫に近く頭からは二本、湾曲した角が生えている。
だが何より印象的なのはその手だった。体と比べ両手だけが化け物じみていてかなり大きい。
「決まっている。神木と称されるロードスは我が魔王軍にとって邪魔以外の何物でもないからだ」
真っ黒に染まった目を向け男が言った。魔王という響きにキングの表情も変わる。
「魔王――まさか魔王が? でも、魔王は倒されたんじゃ?」
ウィンが緊張した面持ちで言った。この世界には確かにかつて魔王が存在した。
だがそれも異世界からやってきた勇者の手で倒された筈であった。
「あぁそうだったな。間抜けな魔王が一人無様にやられたんだったか。どこの馬の骨とも分からない勇者にな」
ククッと男は不敵な笑いを見せる。その発言には含みが感じられた。
キングの表情も曇る。勇者はキングに多大な影響を与えた存在だ。勇者について残された資料も旅をしている間に読み尽くし、そしてキングが扱う球技にしても勇者が残したスポ根漫画を読んだからこそ会得することが出来た。
しかし目の前の男は同士である筈の旧魔王も、そして勇者さえも蔑んでいるようだった。
「勇者様は俺にとっても特別な存在だ。馬鹿にするような発言は聞き捨てならんな」
「そうか。だったら教えてやる。その勇者が勝利を収めたのも魔王の中でも最下位の雑魚が相手だったからだ。もしこの私、魔王ハンドが相手だったなら勇者如き存在相手にもならなかっただろうさ」
そう言ってハンドが片手を上げわきわきと指を動かした。
「ちょっと待て。さっきから聞いてるとまるで魔王が一人じゃないみたいじゃないか」
ハスラーが口を挟んだ。彼がそう思ったのもハンドがかつての魔王を最下位と口にしたからだろう。
それはつまり位付けされる程度には魔王が存在するということでもある。
「そのとおりだ。我ら魔王は唯一の主、大魔王様に忠誠を近いし存在。その数は一人二人ではない。もっともかつて大魔王様が封印された影響で我らもしばし眠りにつくことになったのだがな」
それを聞きハスラーとウィンは随分と驚いているようだった。
「まさか大魔王がいるとはな」
「キュッ! キュ~!」
ボールも驚いているのかキングの頭の上でポンポンっと跳ね続けていた。
『――ここに来て新たな魔王の復活。かつて勇者が現れた時には大魔王の復活こそ阻止しましたがまさか――』
ふとロードスの声が頭に響いた。どこか狼狽している様子も感じられる。
「もしかしてロードス様は大魔王について知ってるのですか?」
アドレスが尋ねた。今の話しぶりから何か知ってそうと感じ取ったのだろう。
「当然であろう。ロードス様はこの里の御神木であるぞ。長い間この地を見守っていて下さったのだ。当然わしらでは知らないようなこともしっておる」
「なるほど――」
長老の話にキングがうなずいた。
『長老の言われている通り、私は長年この地を見守ってきました。ただし大魔王の封印については私ではなく私の祖父が関わったことですが』
「そ、祖父……それって一体どれだけ前なのかな?」
「そもそもロードス様の年って幾つなの?」
ロードスの話にアドレスとウィンは疑問が浮かんだようだ。
『――随分前のことです。私は最近生まれたばかりなので』
「わしよりは長生きですが――」
『最近、生まれた、ばかり、なので!』
何故かロードスが最近を強調した。年齢に関しては敏感なご様子である――
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