Spiral of The Deoxyribonucleic Acid of The End & Beginning of The WORLD.

唯月希

Session/a


 長い髪が、真っ白の細い腕に導かれてたなびいて、毛先をしなやかに優しく、妖艶に振るわせるけれども、それを見届けるのは傍観者たるその者しかない。

 照明などない。けれども床や壁に走った稲妻のような光が不適に照らし出す。その、ヒト。

 偶像。

 彫刻。

 象徴。

 共通意識。

 集合的無意識。

 そう呼ばれている神は、確かに、明らかにそこに存在していた。

 まん丸の円を形だった円卓。周囲には13の円柱が椅子のように配置されていて、しかしそこには誰の姿もない。

 円卓の上、その真ん中に、そいつは体育座りしていた。

 暇を弄んでいるのだろう。自分の長髪の毛先ばかり気にしている。

 床と壁には、デフォルメされた雷のような光が走り、まるでライブステージの演出のように赤や白、青や紫の色彩をグラデーションさせているが、規則性はまるで見出せない。その稲妻の、一本一本が、固有波動を持っているように、脈打つように、その光は流れていた。

 円卓に座り込むそいつの背後には2つの扉があるが、どこに続いているのか見当もつかない。

 そして、その部屋には時を告げるものは何もなかった。まるで無関心とでもいうように、そいつー彼女、と容姿では判断できるそいつは、意にも介していないようだ。

「はぁ」

 声が漏れる。いや、ため息と表すべきか。

「なんであたしはこうも」

 一拍。

「万能なのだろうかね?」

 不遜も程を知れというような発言が繰り出されるが、しかしそれを指摘するものなどその部屋にはなかった。

「その気になれば、今一つの宇宙を作ることも消すことも容易いというのに、なぜにこれほどまでに、退屈なのかな?」

 誰に問う。宛先のわからない言葉が空間の空気を震わせるが、果たしてそれは空気なのか。

「キミたちは…」

 言い終わるとほぼ同時。

 円卓の中心に座り込む少女ー紛うことなき神の目の前に、青と白と緑のグラデーションが施された球体が現れる。

「楽しいかい?」

 指で側面を突くと、それはその指からのベクトルに従って、くるくると時計回りに回り回る。

「ひひひ。楽しいのかなぁ」

 少しだけ狂気まじりの声で笑った後で、目をひん剥いてその球体の一部を凝視する。

「だとしたら…」

 息を吸って、目を瞑る。

 そして、次の言葉を放ちながら、

「消してやろうかな?」

 と、まるで神に祈るような心地でいい放つが、彼が祈り祀ることできる神はいない。

「でもまだなんだよなぁ。もっと進化して、もっともっと争って。もっともっと可愛くなってもらってからでないと。でないと、ボクがつまらないだろう?」

 くるくると、まるで水面に浮かぶボールのように、その球体は先ほど与えられた運動エネルギーをまるで減衰させることなく回転を続けている。その球体を愛でるように、試すように、諭すように、そいつはつぶやいた。

「壊すのはそれからでいいのだよね。簡単だし、いつでもできるし。今の所は、図書館の書物にある成功パターンからもずれていないし。うまいこと、新たなルートに進んでくれると嬉しいなぁ」

 美味しく焼けろよ、と目の前の網の上で焼かれていく肉に言っている様だ。まるで楽しみそうな、そのつぶやきは、しかしやはり誰も観測していない。

「あれから君たちの世界では何年経ったかな。こっちはまだ半年くらいだから…400年くらいか。まだそんなもんかー。進化も絶滅もあまりないなぁ」

 そんな観察日記でもつけているのかというようなつぶやきが漏れ出た時。扉をノックする音が部屋に響いた。声以外の物音は一切なかったため、やけに大きく聞こえた気がした。

「そのノックは…ブラフ君だね。入っていいよ」

 来客に入室を告げると、球体はふっと搔き消えるようにして一瞬でその姿を消す。

 いくつもに分かれた宇宙をーいくつもに分けた宇宙を全て一括管理する、あらゆる源である、万物の根源を全て管理する、ガフの部屋。

 その管理人に、祈る神はいない。

 彼女こそが、全ての宇宙の創造神。

 全ての神の、神である。




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