勝手に群青って言ってろ

辛口聖希

風の報せ

 風が教室に入って来た。

 入って来た窓へと目を移す。カーテンは揺れ、押さえを利かせていなかったプリントは教室の空を舞う。やがて、身体を大の字に広げ床へと着地する。

 水色の風は僕の頬を優しく撫でる。涼しく、少し冷たい秋風は冬の訪れを予告している。そんな気がした。

 しかし、僕は何故、風に思いを馳せるのだろう。

 こうして、机を並べて、ペンを動かし、先生が黒板へ書いた文字を書き写す。

 それはひどく、退屈でつまらないものではないか。これに、疑問を感じているということは僕は少なからずこの現状に退屈を抱いているに違いない。

 風が僕の頬を少し撫でる。おだてられている気もすれば、慰められている気もしなくもない。その風の感触と言えば、幼児のとき秋口にだけ遊んでいた、あの女の子のことを思い出した。

 活発な子で、ショートカットが良く似合う子であったことは記憶している。しかし、女の子は小学校に上がるのを置きに、何処かへと越してしまった。場所は知らない。その子の名前を本当は知らない。

 誰かに呼びかけられるように、突風が窓から入って来た。ノート、教科書、ペン、筆箱、机に乗っているもの全てが宙に浮いた。

 しかし、隣の女子が押さえている。小さな紙切れは唯一飛んでいなかった。女子は指に力を入れて、飛ばないように努めていた。

 それも、束の間。続いて突風が吹いた。

 「あ!」

 女子は小さく鼓膜を破った。

 瞬間、ラブレターが空を持った。

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