第4話)最後の晩餐

PM21:15/篠原恵子×中田静香

「よし、乗ろっか!」

 漸く到着した電車がドアを開けてウェルカムの意を示すと、静香先輩は明るい声で。そう、きっと、努めて明るく。こんな私なんかに、そんなお気遣いで話かけてくれました。「………」それなのに、です。この私ときたら、動揺してしまって無言のままでなってしまいました。はい、静香先輩。と、下のお名前込みでお返事してしまいそうになったからです。静香先輩を私だけのモノにデキるんだと既に激しく期待してしまっている私は、実際にはまだ先輩としか呼べていない中にいるのに、いつも心の中だけでしかそう呼べていないのに、そんなの………早くも彼女気取りかよ、って。そんなふうに思われちゃいますよね。考え過ぎでしょうか? いいえ、調子に乗るな。ですよね………。静香先輩がわざわざ話しかけてくれたというのに、きっと努めて明るくそうしてくれているというのに、とんだミステイクです。静香先輩との会話のチャンスを自ら潰してしまうという痛恨の自爆によって、瀕死のダメージを浴びた私は、体力ゲージは赤色点滅、その残量は目に見えて僅か、必殺技のチャージなし、残機なんてある筈もなく、ふらふらのしょぼしょぼです。だから、ただただ静か先輩の後ろを着いて行くのが精一杯でした。「………」でも、それでも。私が静香先輩の恋人なんだという想いを、捨てるつもりはありません。だって………私との逃避行を選んでくれたんだもん。この逃避行が静香先輩にとって迷惑極まりない道連れでしかない事くらい、そんな事くらい充分に判っています。私のせいで静香先輩はこんな事になっていると、そんなのちゃんと自覚しています。でも、私は静香先輩の優しさに甘え、静香先輩の優しさを利用して、この機会に静香先輩を完全に独占するつもりです。ずっとずっと、独り占めしていたいんです。もうこのまま、片時も離れたくないんです。この道連れの逃避行は、またとないチャンスなんです。「………」静香先輩にとっては迷惑極まりない事態なので、それは申し訳なく思っていますが、私にとっては………人生最大の幸運です。静香先輩を自分だけのモノにしたいという欲望が私という私を掌握し、そして支配しようとしていて、どろどろとした腹黒さを、私という私に行き渡らせようとしている。調子に乗るなと突き離されて、優しくしてもらえなくなってしまうかも。と、先程は口を閉ざしてしまいましたが、そんないつもの私は瞬く間に消滅させられている最中です。欲望に侵食され尽くす事を良しとした私が、この欲望こそが自我となるのは………もうすぐかもしれません。


 だって、

 残された時間は僅かでしょうから。


「わざわざ都会へ夜遊びに繰り出すような人間は皆無なのかぁ………どうしたんだよ、せめて若者達ぃー! って、平日なんだから帰ってくる前に都会で遊んでるか」

 きっと、私を明るくさせようとしているんでしょう、静香先輩はそう言って私に微笑む。嬉しくて微笑みを返そうとしましたが、上手くいきませんでした。って、ううん。そうではありません。このままでいたら、もっと優しくしてもらえるかな。と、思ってしまったんです。だって、静香先輩はいつも優しいから。いつだって、気にかけてくれるから。それでついつい私は、甘えようとしてしまう。私は、静香先輩に気にかけていてもらいたいんです………部長を殺めてしまったくらいの、情熱で。


「こら、めぐみ。暗いぞ? そんな表情してないで笑ってごらん? 静香さん渾身の面白トークだったんだぞぉー」

 と、静香先輩が覗き込んでくる。思ったとおり、願ったとおり、欲したとおりに、気にかけ続けてくれている。その優しさがなければ、私は今頃………部長に。私は今日まで、ずっと。あの部長からセクハラ行為を受け続けてきました。そして、それを耐え続けてきました。我慢し続けてきました。何度も何度も触られたりしてきましたし、後ろから抱きついて耳や首筋を刺激してきたり、強引に唇を奪おうとまでしてきたり、セクハラはその酷さをエスカートしていくばかりでした。それは吐き気がするくらいの数々で、連続で、毎日で、嫌悪感を隠しきれなくなるくらいで、苛めよりも酷いと今でも思っています。でも、それでも私は………へらへらしながらどうにかヤメてもらうしかありませんでした。私は派遣社員です。しかも、役立たずの。部長に逆らえば、簡単にあの会社を辞めさせられてしまいます。何処に行こうと失敗続きで、学歴だって乏しくて、何の取り柄もない私です。いつクビにされても当たり前ですし、実際にそういう経験ばかりだった私ですから、そんな私にきっぱりと拒絶する勇気なんて皆無でした。きっと、たぶん…………そんな私だからなのでしょう。すぐに、当たり前のようにあからさまに触ってくるようになりました。誰もいない給湯室などでは、下着の中にまで手を入れようとしてきたりする事だってありました。そして遂に、仕事帰りにはっきりと言われました。せめて、性欲処理の道具として貢献しろ、と。そんな言い方されるなんてあんまりだと思いましたが、それでも何も言えず、それが当たり前だと言わんばかりに私を誘ってくるまでになっていました。静香先輩が助け続けてくれなければ、きっと。私は抗えきれず、部長に言われるがまま………と、いつかそうなっていたかもしれません。静香先輩が気にかけてくれていなかったらと思うと、想像しただけで絶望感に襲われてしまいます。特に今日の事なんて、静香先輩が来てくれなかったら今頃は、それを耐えなければならないその始まりとなっていた事でしょう。


 私………、

 犯されるところだったんです。


 その時、部長に残業を命じられた私は、資料保管室というお部屋にいました。何かの資料や帳簿らしき書類が乱雑に並んでいる、そんな棚だらけの狭い室内です。滅多に使用される事のない、だから人の出入りが殆ど見られない、ただの一度すらも立ち入った事がないという人ばかりであろう其処で、そんなカビ臭くて薄暗い資料保管室というところで、一人。部長に命ぜられた雑用をしていました。ただの派遣社員で、いつも失敗ばかりの私ですが、例え雑用でも会社のお役に立てるなら。と、何の疑いも持ちませんでした。棚に並ぶファイルを年度別に仕分けしろという指示であっても、です。おめでたい女ですよね、私って。おバカですよね、私。ホント、自分でも嫌になるくらいです。私はそれを、真面目に、せっせと、一生懸命に頑張っていました。他の人が聞いたら笑うか呆れるかするでしょうが、私はお役に立てているんだという充実感を得てもいました。でも、要領も悪い役立たずな私ですから、気づけば夜も遅くとなってしまいました。ただの雑用にいつまで時間をかけているんだ、と。これでは、また怒られてしまうかな。そんな事を考えながら、焦りながら、早く終わらせようと精一杯に整理していると。がちゃ、と。何の前触れもなく、ドアが開く音が聴こえてきました。残業なんですと静香先輩には告げていましたので、もしかしたら心配してくれていたりとかで来てくれたのかなと期待してしまったのですが、残念ながら私の視界に入り込んできたのは部長の姿でした。わざわざこんな時間まで居残って、私がちゃんと取り組んでいるかチェックしに来たのかな。それとも、いつまでかかっているんだと怒鳴りに来たのかな。と、入室してきた時はそう思いました。でも、心の底から嫌悪したくなるような部長の笑みを見て、私は漸く背筋が凍るような想像に達しました。そして、そんな私の予感は大当たりでした。私が其処で残業させられている事は、誰も知らないと言われました。私のタイムカードは、勝手に定時退勤にしてあるとも言っていました。その上で部長は、私に性欲処理の道具となる事への諦めを促してきたのです。勿論の事、そこまで用意周到に事を運んでいたのですから、流石に必死に抵抗してもヤメてくれる筈がありません。私は簡単に捕獲され、捕食されゆく運命となりました。所詮は男と女です。でっぷりと大きな体躯をした男性である部長と、少しばかり長身の方ではあると言っても華奢で非力な女性の私。力ずくで制服を脱がそうとしてきたので、ボタンは簡単に弾け跳び、中に着ていたシャツも一緒に引き剥がされ、脱げた靴はどこかへと転がっていき、スカートを捲し上げられ、ストッキングは引き裂かれて、スカートではない状態でスカートは残っているものの、後は下着のみという状態にされてしまいました。無力さを覚えずにはいられませんでしたが、勿論の事それで終わってくれる筈もなく。そんな姿の私に乗りかかるようにして抱きついてきた部長は、私の唇を奪おうとしてきました。必死に顔を背け、両の手で部長の顔を引き離したので、なんとか免れる事が叶ったのですが、意識がそれにのみ集中していたせいで、ブラジャーをズラし上げられてしまい、露わとされてしまうに至りました。荒い呼吸と嫌らしい笑みがどんどん大きくなっていく部長は、ケダモノにしか見えませんでした。私はこれからこんなヤツに弄ばれてしまうのかと思うと、悲しくてたまりませんでした。羞恥と屈辱に塗れた絶望を覚えさせられて、きっとこの先も毎日のようにそうなってしまうんだ。と、悲観するしかなくて。惨めに生きていかなければならないその始まりを、これから私は味わわされてしまうんだ。と、目の前が真っ暗になっていく。私はこんな事さえも、私はこんな事までも、このまま受け入れなければならないのか。そう思うと、涙が溢れ零れて止まらなくなる。こんな事まで耐えなければ、生きる事を許されないのか。そう思うと、必死に抵抗しても無力な程に敵わない現実から、身も心も消してしまいたくなる。でも、それすら許される筈もなく。当たり前の事ですが尚も抵抗を続ける私を煩わしいとばかりに、部長は平手で頬を数回に渡って叩いてきました。そして、それによって恐怖の方が増大してしまった私は、力の限り拒絶するという意思が呆気なく萎んでいきました。私から抵抗する力が抜けて気を良くしたのでしょう、部長は私の右の胸を鷲掴みにすると、そこへゆっくりと顔を近づけてきました。もう、諦めるしかないのかな………と、私は諦めかけました。でも、その時。私の脳裏に、静香先輩が浮かんできました。静香先輩………こんなの、イヤだよぉ………私、ヤダよぉ………静香先輩、助けて………助けてください、静香先輩………私、こんなの………こんなの、こんなの、こんなのなんて、やっぱり。


 イヤだぁああああああー!!


 すると、静香先輩に対する想いの強さが、私の精神を奮い立たせました。私は渾身の力を振り絞り、あの男を突き放す。たぶんきっと、私は諦めの境地で脱力してしまっていましたから、部長は油断していたと思います。完全に、そして存分に、ゆっくりと、そしてたっぷりと、そんな私を味わう事にのみ集中していたと思います。気弱な私がそれほどまでに拒絶するなんて、そんな事は思いもしていなかったのだと思います。力の限り突き放した反動で呆気ないくらい簡単に私から離れていき、体勢を整える事なくそのまま、埃だらけのデスクの角に後頭部を強かに打ちつけると、呻き声をあげながら埃の溜まる床へと倒れ込みました。鍛冶場の馬鹿力、それとも火事場の? 学の無い私ですから判然とはしませんが、兎にも角にもそんな言葉を思い出してしまうそんなあまりの展開に、私は呆然となってしまいました。今にして思えば、その時にその場から逃げ出してしまえば良かったのでしょうが。呆然となって思考停止してしまった私は、晒されたままの胸を反射的に両の腕で隠すのが精一杯でした。部長は、ゆらゆら。と、呻きながらも立ち上がる気配を見せていました。良かったのか悪かったのか、そんなの悪かったに決まっています。後頭部をデスクの角に打ちつけたのですから、それでいっそ死んでくれていたら。少なくとも静香先輩に、あんな迷惑をかける事にまではならなかった筈です。勿論の事、私が逃げ出せていればという場合も同様に、です。部長は鼻血を流しながら、そして後頭部を擦りながら、トラウマを植え付けるに充分な形相で私を睨みつけてきました。その表情に怯えてしまって少しも動けなかった私は、再び簡単に捕獲されてしまいました。私はただただその場で、そこには居ない静香先輩に助けを求め続けるだけでした。弄ばれるよりも、殺されてしまうかもしれない。と、直感した私は、乱暴さが格段に増した狂暴さで抑え込まれた事で、失禁してしまうくらいの恐怖を覚えるに至りました。過呼吸にでもなって意識を消失してしまうなではないかという程に呼吸する事さえも困難な状態に陥った私は、ただただその場で、静香先輩に助けを求め続けるだけでした。



 私のめぐみに何してんだあああぁー!!



 すると。これ以上ないというくらいの恐怖に、何から何までが朧気になっていた私に、それでもはっきりと聴こえた声。それでもしっかりと耳に届いてきた、その声。いつだって穏やかなあの人から、そんな怒鳴り声を聴いた事なんて一度もなかったのですが、それでも私が、その声の主が誰なのかを聴き間違える筈がありません。私に覆い被さっていた部長に向かってそう叫びながら、そしてたぶん同時に飛びかかるや否や、いつ拾ったのか部長が自ら外して放り投げていたネクタイを部長の首に巻きつけ、そして勢いよく私から引き離してそのまま、振り返る暇すら少しも与えず、防御らしき挙動を起こさせる猶予など僅かも許さず、部長の首を後ろから、そのネクタイで、力一杯に締め上げてくれたんです。声にならない呻き声をあげながら必死の抵抗をしている部長と、お構いなしに渾身の力で締め続けている静香先輩。でも、やっぱり男と女です。静香先輩も私と同じくらいの身長ではありますが、モデルさんのようなスレンダーな美人さんですから、静香先輩を背中に乗せるようにして簡単に立ち上がった部長は、静香先輩を背中に乗せたまま激しく後退りしてそのまま、その先に並んでいる棚へと勢いよくぶつかる事で逃れようと試みたようです。ものすごい音がして、二人もろとも棚ごと倒れ込むくらいの激しさでした。これもまた、今にして思えば。私はかなり、天然さんなのかもしれません。私はその時、その光景を見た私はその時、このままだと静香先輩が殺されてしまうかもしれない。と、そう思いました。あれは、そう。その事への怒りが、その憤りが爆発したんです。私を玩具にしようとした事へのそれではなく、静香先輩を傷つけている事へのそれ。間違いなく、そうでした。私の心に宿ったあれは、静香先輩を傷つけている事へ向けての完全なる殺意でした。


 私の静香先輩に何するんだぁー!!


 はっきりとは覚えていないのですが、無我夢中で私は、部長の両足にしがみつきました。すると、強かに棚に強打しようがそれでも止めようとしない静香先輩による渾身の猛攻撃に、消耗してもいたのでしょう。もしかしたら、鼻血が見られていましたから、デスクに後頭部を強かに打ち付けた影響が出現していたのかもしれません。無我夢中でも判るくらい呆気なくバランスを崩し、そして再びその場に倒れ込みました。申し訳なくも、静香先輩もろとも倒れる事になってしまったので、静香先輩を部長と床によるサンドイッチの具にしてしまうに至りましたが、それでも静香先輩は絞め続ける手を緩めようとはしません。頼もしすぎる形相と力強い気合いで、静香先輩は部長を最期にしてやろうとしている。確実に、完全に、完璧に、終わりにしようとしてくれている。私はその時、漸く部長への恨みが込み上げてきました。だから私は、私の持てる限りの力で静香先輩とは逆の方向へと………その時の私って、プロレスラーさんみたいだったかもしれません。だって、下着一枚でしたから。あ、それだと男性の方になってしまいますよね。やっぱり、私はおバカだ。兎にも角にも、上半身は完全に丸出しで、下半身は下着のみ。そんな姿なのにまるで意識なく、恥じらいなく、躊躇なく、あきらかな殺意を持って、ここで絶対に殺してやる、と。間違いなくそうするつもりで、部長の両の膝に自分の両の腕を回し入れ、そして脇で挟むようにして足を掴み、持てる力で怒りと憎しみのまま引っ張り続けました。


「めぐみ………んっ」

 え、あ、こんな私にキスしてくれた………嬉しいなぁー。「はう、う………センパイ」こんな私に、うん。こんな私なんかの事を、静香先輩は身を挺して守ってくれたんです。どのくらいそうしていたでしょうか。もうとっくの昔に、部長は息絶えていたと思います。がくがく、と。たぶん、痙攣のような震えを幾度か見せていたのですが、そうとは気づかず力を緩めませんでした。そして、全身の力が抜けて、ぐったり。と、なったままでいる事に漸くといった感じで気づいた私達は、そこで力を緩め、脱力して、暫し呆然となっていました。もう二度と動く事はない筈の、横たわってぴくりともしない部長を凝視したまま、肩で大きく息をしながら座り込んでいる静香先輩と、同じく肩で息をしながら上体を起こし、静香先輩を見つめる私。程なくして静香先輩が私に視線を移してくれたので、そのまま見つめ合う事になり、二人は熱いベーゼを………ではなく。そこで漸く、私は裸に近い状態にある事を思い出しました。反射的に丸くなって恥ずかしい部分を隠す私に、静香先輩は。


 遅くなって、ゴメンね。


 と、女神のような微笑みを向けてくれました。その言葉によって、来てくれるつもりだったんだという事が判った私は、嬉しくて嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくて、絶望の淵から救ってくれた安堵感が、ぶわっ。と、膨張していきました。怖かったよぉー、と。まるで、飼い主に寄っていくワンちゃんのように静香先輩に近寄ると、甘えるような素振りでしがみついた私は、それこそ。わんわん。と、泣きじゃくりました。すると、静香先輩はそんな私を優しく抱きしめてくれて、よしよし。と、頭を撫でてくれました。静香先輩の胸に顔を埋め、泣きじゃくりながらも私は、でも確実に、でも着実に、間違いなく高揚していました。静香先輩に抱きしめてもらえたままでいるという状況を、少しでも長く体感したいが為に泣いていましたから。途中からは、完全に。そんな想いのままゆっくり顔を上げると、すぐに静香先輩と目が合いました。そこには、静香先輩の事しか視界に入らない世界がありました。それ程までに素敵すぎる世界なんて、この世の何処にあるとのいうのでしょうか。静香先輩は優しく微笑んでくれていました。こんな私に、です。あんな事をさせてしまったこんな私に………もう私は、静香先輩だけしか見えません。もうこの先、静香先輩だけを見ていきたいし、静香先輩さえいてくれれば他には何も要りません。私達は人を一人、殺めたばかりです。そして、殺めたそれはただの塊となってすぐそこに転がっています。普通ならそんな状況、ただただ一目散にその場を離れるとかしちゃうのでしょうが、その時………私は、静香先輩を求めました。部長が私にしたかった筈の事を、私は静香先輩に求めました。何故かしらその一部始終を、塊となったとはいえ見せつけたくなったのかもしれませんし、ただただ本能的に眼前すぐ先の静香先輩を欲してしまったのかもしれません。それは、静香先輩にのみ望む欲情です。ずっとずっと、静香先輩にだけ望んでいた淫らな欲求です。静香先輩は女性ですから、普通に考えれば恋愛対象は男性でしょう。まだたった一度ですが、それでも関係を持てたからとベタベタすれば、避けられてしまうかもしれません。勿論の事ですが嫌われたくなんかないので、社内で噂になるという程度で抑えてきました。計算高く、ズル賢く、自分が渇望する未来の為に、努めてそうしてきました。でも、私はこの時。隠すとか隠さないとか嫌われるかもとかなんて考えず、ただただ恋焦がれる静香先輩を、たまらなく欲していたんだと思います。生命の危機に直面すると子孫を残そうという意識が働いて、そういう感情に至る傾向にあるとか言いますし、目の前にいるのが恋焦がれる静香先輩ですから尚更に、そういうモードが発動したのだと思います。大好きなら同性でも発動する筈ですし、静香先輩の赤ちゃんなら私のお腹にも宿る。と、思いたい。でも、静香先輩はそんな私に気づいてはくれなかったようでした。もしかしたら気づいていたのかもしれませんが、そんな場所で、そんな時に、ましてや、よりにもよって、そんな事を? と、思ったのでしょうか。それとも、静香先輩にとって二度目の経験となるのでしょう同性とのそれに、興味を覚えなかったのかもしれませんし、その相手がまた私だという事に魅力を感じなかったのかもしれません。私は静香先輩との初めてが男の人を含めても初体験だったので、静香先輩からすると楽しくなかったのかな………頑張ったんだけどなぁー。あれからもう一週間も経つというのにお誘いはありませんし、私から素振りを見せてみてもスルーですし。でも、あの場所が普段から殆ど出入りがないのは、室内の埃の加減とカビの匂いからだけでもなんとなく判りましたし、何よりも部長が私を弄ぶ為に更に更にそうしておいたでしょうし、夜ですから尚更にして誰も来ない筈です。あの時のように静香先輩を導く事だって一生懸命に頑張りますし、シャワーなんて無いので埃で汚れたままの身体ではありますが、私の事を………あ、そっか。私、漏らしていましたね。すっかり忘れていました………そういう事、どうして忘れちゃうのかな。憶測で決めつけて、それを事実として受け止めて、そして感情的になって、挙げ句の果てに見境がなくなる。反省しなきゃ、です。


 これからの、自分の為にも。


 兎にも角にも、です。静香先輩は私の頭を、ぽんぽん。と、優しく撫でるのみで立ち上がり、裸同然の私に自分の上着を肩掛けさせると、無残な姿となった私の制服を縫う為に、自分の制服のポッケからコンパクトな簡易お裁縫セットを取り出し、弾け飛んだ私の制服のボタンやその他を縫い始めました。それはそうですよね………ティッシュで拭いただけの私の私ですし。静香先輩のそれでしたら私は構わないですが、私のそれなら私もイヤです。あ、そういえば。お部屋を出る前に濡れた床を拭かせてもいました、私。抱いてもらいたいのに抱いてもらえなくて落ち込んでいましたから、そのショックでなのか失念している事だらけです………もしかしたら静香先輩、ドン引きしていたかな。今もホントは、まだドン引きしているかな。でも、さっき、キスしてくれましたし。許容範囲って事で、見逃してくれたのかな。だとしたら、そうでありますように………よし、静香先輩にかけてもらうプレイでお詫びとしよう。何はともあれ、静香先輩は私とは立場が違うので制服ではありませんが、すくなくとも私は帰宅の際は更衣室で私服に着替えます。なので、あの場合において早急にするべき事は資料室からすぐさま立ち去る事だと、その事に静香先輩も私も後になって気づきましたが、その時は流石の静香先輩も冷静なままとまではいかなかったのでしょう。更衣室で私服に着替えるというのも、あの場面では悠長すぎる行為かもしれません。制服のまま出歩いていては目立つでしょうし、ハロウィンですか? とか、言われちゃうかも。本職じゃい! と、静香先輩なら答えそうですけどね。って、そんな事よりも。今にして思えば、静香先輩は既に先の事を考えていたのでしょう。すっかり夜でしたから誰にも見られずに会社を後にしましたし、更にはこうして此処まで来れましたし。


「めぐみ………私が守ってあげるからね」

 えっ、あ、あ、静香先輩………もしかして、プロポーズしてくれたんですか? えへへ。って、そんなワケないですよね。期待はしちゃいますが。ううん、そんなワケないと思ったそばから実のところ、かなり期待しちゃっておりますよ、私。やっぱり、許容範囲って事でイイですよね? 私のめぐみに何してんだぁー、って。私の、って。そう言ってくれていましたもんね。都合の良い事は覚えているんですよ、私。「センパイ………大好き、です」だから私は、そのつもりの感情を乗せる。発したその言葉に、静香先輩への想いを乗せました。気持ちを抑える事を平然と拒否して、あからさまに溢れ零れ受け止めてもらおうとする。更には、受け入れてもらおうとまでする。そう望み、そう願い、それを祈る。そして、解答を待つ。だから私は、静香先輩を見つめ続ける。「………」正直に言うと私は、罪の意識を少しも感じていません。静香先輩への申し訳なさという意味での罪の意識なら、それならとてつもなく大きいのですが、部長へのそれは全くと表現しても構わないくらいにありません。それどころか、仇を討てたような清々しさです。今日は金曜日ですから、明日は勿論ですけど土曜日です。そして、日曜日へと続きます。土曜と日曜は会社はお休みになりますから、休日出勤の忙しい何方かがいたとしてその人が偶然にも発見してしまうとか、真面目な守衛さんが真面目に見廻りとかしなければ、そして月曜になって、部長遅いね連絡ないけどでもアイツ居ない方が平和だよねお得意様んトコでも行ってんじゃねとか、そういう扱いでいてくれたら、露見はもっともっと遅くなるでしょう。私を弄ぶ為に見つかり難い場所をわざわざ更にそうしたという、そんな部長の悪意ある用意周到さによって、上手くいけば早期の発見が免れるかもしれません。希望的観測ですが、私は静香先輩にしか残業もあの場所も告げていませんし、駆けつけてくれた静香先輩と助けられた私は、夜遅くだった事もあって会社を出る間の姿を誰にも見られていません。社員は定時で帰りましょう、ですからね。常に監視を怠らないという守衛さんではなさそうですし、監視カメラをそこかしこに設置する程に、セキュリティー面を重視する会社ではありません。それに、埃が溜まっていたりカビの匂いがするくらい誰も来ないような場所を監視する意味はないですし。更に言えば静香先輩と私は、私のせいで少なからず噂になっている。あの二人、デキてんじゃね? と。自分で言うのも悲しいですがかなり陰湿にイジメられていましたので、私が出社してこない原因を特に自己保身とかで、イジメを苦にして来ない方を加味した証言より、二人で駆け落ちの方を積極的に証言してくれれば、死体が発見されても、私達と結びつける事は………。


 これは、

 ワンチャンあるかも、ですか?


「私も大好きよ、めぐみ………」

 あ、好きって言ってくれた。じゃあ、お嫁さんにしてくれますか? 約束してくれますか? 信じちゃいましたからね? 棄てたら死んじゃいますからね? 私の好きはプロポーズくらいの意味があるんですからね? 私もって事は、お嫁さんにしてあげるって事ですよ? 絶対に離れてなんかあげませんからね? おっと、これは失礼しました。おもいきり舞い上がっちゃいますた。舞い上がり師匠です、ますただけに。マスターってね、あはは。浮かれていますね、私。「センパイ………」このまま、ずっと、静香先輩と二人きりで暮らせたらなぁ………って、そんなのあまりにも都合が良すぎて、それこそドラマやムービー、アニメや夢の中の世界のお話しですね。「ん? んんっ、ん、っ………」え、え、もしかして、此処でシテくれるですか? 今になって、スイッチ入っちゃったですか? でも、あそこよりもリスク高いと思うんですけど? たしかにこの車両には私達の他には誰も居ませんが、後から誰か乗ってくるかもですよ? それに、あっちの車両には女の人が三名ほど見えますし、その奥の車両にも居るかもですよ? 移動してきちゃったりしたらどうするんですか? きっと途中でストップしますよね? ゴール寸前でおあずけってなるかもですよね? 寸前で中止がどんなに切ないか、同じ女子なら判りま、あ、あ、静香先輩もしかして、誰かがこちらに来たり乗ってきたりしても、このまま続けていれば気まずくてどっちかの車両に移動するだろうとか、考えています? それとも、私はこんなにも可愛い女の子を抱いているんだぞ羨ましいだろぉーって、見せつけちゃうおつもりとか? そ、そそそっ、それなら嬉しかったりも、する、か、な………ううん! それって恥ずかしいトコを露にされて尚且つ刺激されて更にはそれに完璧に反応しちゃっている私が、広く晒されちゃうという事になりますよね? 静香先輩って、実は頭にドが何個も付くような、そんなかなりのエスさんなのかな………って、そん、そっ、そそっ、そそそれは流石に恥ずかしいかもですよぉー! あっ、ちょ、えっ、そこは、触られちゃうと、声、が、出ちゃい、ます、から、ダメ、です、よぉ………それに、まだ………拭いただけですよ、そこ………あうう、嬉しいよぉー。も、もう、誰かに見られたって、どう思われたって、そんな事………どうでも、イイや………だって、だって、これが………最後に、なっちゃうかもしれないし。


 現実って、

 そんなものですもんね………。


 ………、


 ………、


 ………、




PM21:00/河合梨花×藤本美里

「やっぱり私達………とんでもない事をしたんですよね」乱暴なご主人様でしかなかったアイツとの毎日から、永遠に脱却する事が叶ったという現在に至れたのは、正直に言い捨ててしまえば、これで漸くせいせいした。と、いった晴々とした心持ちではあるのですが。その為に被る事となったその代償は、今後の人生を徹底的に左右しまくる程に、それ程にあまりにも大きな大きなもので、これもまた正直なところ、私はまだ。その事実に、正面から向き合えずにいました。それにしても、こんな状況にまでイッキに加速してしまうだなんて、感情の起伏というのは怖いモノですね。独りぼっちなんかではないという事がこれほどのチカラも持つだなんて、恐ろしいモノですね。もう、自分自身をこの世から亡くしてしまおう。と、いう逃げの手段。それしか、そんな手立てしか、そんな考えしか思いつかなかったのに、美里お姉さまという運命の赤い糸の先を見つけた途端、アイツに殺意を抱いてそのまま消し去ってしまうという答えにまで辿り着いたのですから。極論へと達した筈が、真逆の暴論へと瞬間移動したかの如く針を振るだなんて。そして更には、それを実行に移してしまえただなんて。短時間でそこまで我が身を持っていったその原動力は、自分自身でも気づいていなかった程の憎しみと、図らずも出逢えてしまった至極の存在、それと、その二つが合わさる事で芽生えた自我の解放なのでしょうか。それが新たなる形成なのか限界からの崩壊なのか、哲学者でも数学者でも科学者でも技術者でもない私なんかでは、如何とも判然としませんけどね。


「これからを考えようよ、ね?」

 ですが、どうやら。美里お姉さまは、そんな私とは正反対のようです。掴み取るべき未来、それをしっかりと見据えているみたいです。脱却がゴールではなく、その為に支払った代償からも脱却し、その上で自身が望む報酬を得る。それこそが本当のゴールであり、そして正真正銘、本物の、本当のスタートなのだ、と。「………そうですよね。ゴメンなさい」たしかに、そのとおりですよね。向き合わないままでいれば、知らん顔で過ぎ去っていく。と、いう類いの事なんかではないのですから………と、言うよりも。そのままでいる方が、悪い未来にしか繋がらないのですから、目を背けずに、その対処法を吟味しなければならないのですよね。だから私は反省しつつ、素直に謝りました。そして、そんな美里お姉さまを改めて、頼もしく思いました。そう、これは私が望んだ事への足がかりでしかない。そう思えば、こんな大それた事さえ糧にしてやる。と、行く末への恐怖よりも未来への期待の方が、激しく勝るというものです。そう考えれば、こうして息を潜めるようにして身を寄せ合うというこの現状が、身体の芯から私という私の至るところに、期待に胸を膨らませるような熱を帯びさせてくるようでもあります。そうでした、私はいつも、土壇場になるとヒヨってしまうのです。狙い以上の成果を上げて更には、その狙いが翻って盤石なモノになろうとしているというのに。


「謝らなくてイイから。私も内心では同じ気持ちだし」

 そんな私の弱音に際して美里お姉さまは、まるで天使様のような、いいえ。最早この私にとっては女神様のような表情と声色で、こんな私を元気づけてくれました。しかも、こんなどうしようもない私の手まで握ってくれて………えへへ、温かくて凄い気持ちイイ。私は途端に元気を取り戻し、更に邪な妄想に捕らわれていく。現金なモノですね、私って。当初の目的に向かって、邁進していく気まんまんな自分を取り戻しましたよ。「なんだか………ホッとします」美里お姉さまでしたら、私の理想を具現化してくれるに違いありません。と、言うよりも。その理想の体感が叶うような気がして、秘めていたこの思いが現実味を帯び、更には強くなったと言うべきでしょうか。美里お姉さまって、真面目な人でもあるのでしょうね。実直で、真摯。そんな印象も、見受けられますし。先程も、丁寧に丁寧を重ねる感じで愛してくださいましたし。あ、先程までの弱音は、所謂ところの賢者タイムというヤツだったのかもしれません。って、それは独りで耽ける際の果てにある事でしたっけ。とんでもない事をしてしまったという実感から、衝動的に美里お姉さまとの繋がりを求め、美里お姉さまのおかげ様で、私は独りぼっちなんかではないという確信を得るに至り、その安堵の気持ちが芽生えた事で今度は、それを失う事への恐怖を、美里お姉さまを失う事への多大なる恐怖を感じたのでしょう。だってこれは、行く宛のない逃避行なのですから。「………」私達が覚悟を決めて戻ったその時、アイツは眠っていました。飛び出した私を、少しも気にしてはいませんでした。どうせすぐ、戻ってくるに決まっている。だからその時、キツいお仕置きと共にまたいつものように、道具として散々に弄んでやろうとでも思っていたのだと思います。いつも、そうでしたから。それで結局は、その幾ばくかの快楽に屈してきましたから。怒られない為に、叩かれたり蹴られたりしない為に、初めはそれらの為であった筈なのに、それなのにいつしか私は、得られる快感に惨めに溺れてしまいました。乱暴に犯される毎日だったのに、それでもその中にもある快楽にだけは、それだけには虜となっていたのです。ですが、そんな私にだって自尊心はありますし、理想だってあるのです。どちらにしても、得られる快感は同じ筈? ううん。違うね。違いますから。違いますとも。激しく違いますよ。その前後にあるであろう甘い時間や、その最中にもあるであろう甘いやりとり、そしてその後にもなくてはならない甘い温もり、それらを加味すれば、乱暴で自己中心的だったアイツによる快楽なんて、今ではもう何の未練もありません。もう一度、言いますよ。私にも、自尊心はあるのです。


「ホント? それなら十全ですなぁー♪」

 覚悟を決めたワリに、そのワリに美里お姉さまの背中に隠れ、そして怯えるだけだった私は、身体のアチコチや記憶に植え付けられた恐怖によって美里お姉さまの背中に、こそこそ。と、隠れているだけだった私は、美里お姉さまの渾身の覚悟をその身に浴びて目を覚ましたアイツが暴れ出しても、まだ。それでも、恐怖が勝って怯え続けていました。土壇場になって、ヒヨる。そんな私だったのに、当事者は私の方なのに、美里お姉さまは。アイツに振り払われそうになりながらも、それでも。アイツの首を締め続けていました。ですが、そこは女と男です。そのチカラの差がモノを言う展開にシフトチェンジするのは、目前といったところでした。当の私は、やっぱり怖くて動けないまま。正直に言うと、報復が怖かったからです。きっと、逆転される。そうしたら、私はどうなるんだろう………私の覚悟なんていうモノは、結局のところそれまでどおり、そんな程度のモノでした。


 けれど、でも。


 私はある局面から、そんな自分を完全に打開するに至りました。その局面とは、美里お姉さまの言葉でした。『リカちゃんを苦しめるヤツは、私が許さないんだからぁー!』美里お姉さまは、暴れるアイツにそう叫びながら、尚も向かっていったんです。私はその時、そんな美里お姉さまに、私の理想を見ました。完全に、そう確信しました。思惑でしかなかった期待がその時、現実の事として実を成したんです。「お姉さんって、呼んでもイイですか?」私はそれを今、実現しようと試みている。


「うん。イイよ」

 そしてそれが今、実際にこうして、現実となろうとしている。手に入ろうとしている。それがすぐそこ、すぐここにあるんです。私は人生最大のチャンスを、最初で最後の大チャンスを、引き当てる事が叶ったのです。「美里お姉、さぁん………」それを具現化してくれるのは勿論の事、美里お姉さまのみです。体現してくれるのは唯一人、美里お姉さまのみです。


「リカ、ちゃん………」

 そして、美里お姉さまに溺れる事が許されるのは勿論の事、この私だけの特権です。これもまた唯一人、この私のみなのです。「この車両………二人っきりですね」姉と妹という役割は、家族的な情を深める手助けとなるでしょう。そして、その上で得られる快楽の数々は、その結びつきを強く、深く、大きくしてくれる筈です。しかも、有り得ないくらいにとんでもない罪を犯した間柄ですし。その事実は特に、これからの結びつきにプラスの影響を及ぼしてくれるに違いありません。


「えっ、と。あ………そうみたい、ね」

 結局のところ、他人でしかない恋人という間柄よりも、同じく親友という関係よりも、家族という結びつきは強く、深く、そして大きいものです。それに加えて何より、同性という秘匿性。それも、私達の絆を解き難くしてくれる筈です。皮肉にもアイツとは、家族という関係だったのが災いとなりましたけどね。「誰か来る前に、もう一回だけ………」得られる快感を得る相手との距離をそうするだけで、得られる快感は如実に増し、得られる頻度は確実に増え、それで得られた快楽は、他では得難いくらいの甘い密となるのです。


「リカちゃん………それって、その………」

 と、美里お姉さまは戸惑いを見せる。でも、躊躇っているワケではない。こういうシチュエーションに慣れていないだけ。「梨花………って、呼んでください」だから私は、ダメ押しで更に踏み込み、静かに目を閉じる。んっ、ん………やっぱり、ほら。思ったとおりです。期待したとおりです。まずは、既成事実を一つ。それは先程、衝動的とはいえ駅のおトイレで完遂しました。駅のおトイレ、クセになるかもしれません。美里お姉さまが、私のツボを探って見つけて刺激するという巧みさをお見せになりますもので、それはもう気持ち良すぎて、かなりヤバい表情になっていたと思います、私。呆けてしまって覚えてはいませんが、どうしても漏れ出てくる声を押し殺す事に成功していたのかどうか、性交だけに。って、失礼しました。反省はしません。それは、兎も角としまして。あとはそれを、二つ三つと増やしていって、更には深めてもいって、それでそのまましがみつくのです。そのまま寄生してしまうのです。美里お姉さまにはこのまま、私のご主人様になってもらいましょう。と、私はそう決心したのですから。


 私が欲しかった存在は、

 優しく愛してくれる人。


 そして、その上で私を、

 温かく導いてくれる人。


 アイツは、いつだって自分勝手でした。私が果てるのを見て蔑みたい時は、しつこいくらいにシテくれましたが、最大の問題は、私の中に押し入ってから果てるまでが、呆気ないくらいに早いという事。ネットの猥談を見て、もしかして。と、思って挿入してからの平均時間を調べてみましたところ。図書館にも行って書籍などでも検索したりしてみましたところ、アイツは………情けないくらいに早すぎでした。アレの大きさについてはアイツとしか経験がないので、アイツのでも別段これと言って構わなかったのですが、あまりにも早いというのはどうも、ね。そのワリに、まずは口でさせようとするもんですから、更に早くなる始末でしたし、ちゃんとしないと殴られますから、ちゃんとしないといけませんし、それで放出に至ってしまうと、満足して更におざなりになってしまいますし。ですが、それでも一度放出した後の二度目は長持ちすると書いてあった筈ですが………ま、もうイイか。兎にも角にも、威張り散らして気に食わないとすぐに暴力に出るアイツは、たしかにトラウマとなるくらい怖くて仕方がなかったのですが、私は実のところそれをもって見下してもいました。きっと、たぶん。怖いクセに蔑んだ目を隠せない私に、アイツは気づいていたのかもしれません。だからと言って、それが暴力を増長させる原因だったと、そんなふうにアイツを擁護する気は全くありませんけどね。あの外面の良さにも本心では呆れていましたし。「………」それにしても、です。アイツがもうこの世に存在しないと決定した途端に、私の方こそこんなにも増長してしまうのですね。この言い様ですもの。私の奥底には、こんなにも醜い私が潜んでいたのですね。ですが、そんな事もどうでもイイのです。もう、どうでもイイ事なのです。これはたまたまですが、ネットの猥談で、たまたま。そう、たまたま。たまたま見つけてしまった事を、思い出したんです。女性同士の場合の行為は、ある意味では終わりがない。と、いう記事を。たしかに、そう言われてみればそうかもしれません。盲点でした。私には縁のない世界だと、あっさりとスルーしておりました。私はアイツの奴隷として、せめてアイツからどうにか貪るしかない、と。実のところ、すっかり諦めていたのだと思います。


 つい先程までは、ね。


 共犯者。同じ性別。姉と妹。優しいお姉さま。頼りになるお姉さま。しかも、美人さん。きっと、こんな私をリードしていってくれる事でしょう。共犯者であるというこの結びつきは、この先においてもかなり強いモノな筈ですし、同じ性別という関係は限りなく、お互いをより深く判り合える筈ですし、今ここでこうして姉妹となった私達の絆は、とてつもなく固くなりました。つまるところ私はもう怯える事なく、溺れてしまえるというワケです。強めの睡眠導入剤を処方してもらい、鎮痛剤も処方してもらい、それを常備薬のように服用しなければならないような精神状態とも、これで永遠にさようならです。私はそのとおり、美しい里に足を踏み入れたような心持ちです。美里さん、藤本美里、ふじもと・みさと。年齢は三つ年上で、背丈は私と然程変わらない。長めのショートカットの黒髪で、肌の白い、活発でボーイッシュな感じがする、そんな綺麗な女性。設定するならば、お兄さまのようなお姉さまでしょうか。優しくて、頼りになって、いい匂いがする、そんなお姉さま。完璧だよ、じゃなくて。十全ですよ、でしたっけ。ね、私のお姉さま?


 あはは!!


 ………、


 ………、


 ………、




PM21:10/橋野麗菜×村瀬雛子

「大丈夫だから。ね?」それにしてもあの部長のヤツ、どんな表情で無様な水浴びを続けているんだろうか………あのパワハラオヤジの惨めな醜態、もっとしっかりと、この目で見ておけば良かったよ。邪魔者が、一転して協力者に………と、言うか最後の最期に最強の道具となってくれたんだから、今はもう妬みも恨みも吹き飛んでしまったよ。言ってみれば、うん。気分がイイ。あんな事まで雛ちゃんにさせてしまうくらいに追い詰めた事は、絶対に許してあげないけれど………激しく高揚しちゃっております、今の私。


「レナ………私、どうしたらイイのかな」

 はうう、可愛いなぁ………このツンデレのデレな感じ、ホントたまらんすなぁー。と、ツンデレのツンが長かっただけに、しみじみ。早くまた、二人きりになりたいなぁー。って、でへへ。これからの私は、雛ちゃんのデレの方をもっと、デレどころかデレデレなくらい、もっと、もっと体感デキるのだから、これはもう鼻息ふんがぁーさんなのです。あ、デレデレなのは私の方か。「このままでイイから。このままで全く問題なし」一応は室内を散らかしてきたし、貴金属や金銭の類いはなるべく持ってきたし、雛ちゃんのモノは全て回収した筈。髪の毛とかは日頃から雛ちゃんが綺麗好きで掃除を欠かさなかったみたいなので大丈夫だと思うし、出来る限り考え得る最善を尽くして物盗りの犯行っぽくしてきたけれど、実際のところどうなのかな。指紋とかはそんなところにってトコにあったりするだろうから、雛ちゃんが捜査線上に浮かぶと怖いね。取り敢えずのところ、あの場所から出てくる時に、誰にも私達の姿を見られてはいない筈だし、入るところも見られていないみたいだし、上手くいけば………なんてね。日本の警察のみなさんは、そんなに甘くはないよね。発覚するのが一秒でも遅くなる事を、ただただ願うばかりってところかしら。知らないフリをして今までどおり、過ごす。そして、雛ちゃんは昔からずっと私と付き合っていて、私の部屋で同棲している。と、そんなふうに示し合わせておけば、長く同性愛を続けているのに目の前のマンションで男と不倫関係にもあるとは、なかなか結びつかないかなと思ったんだけど。私とそういう設定なのは嬉しいけれど、普通の顔して職場に行ったりとかは自信が無いって雛ちゃんは言うし、そうなると不審に思われて即効で容疑者にされちゃうかもだから、却下するしかない。と、なると。長く同性愛を続けていてっていう設定を残して、遂に駆け落ちした。と、するしかなく。それで、こうしているワケだけど、殺人事件と時を同じくして二人して消えるってのは、怪しいよね………。


 けれど、でも。


「ゴメンね、ホントに………ゴメンなさい」

 雛ちゃん、謝らないで。折角、漸く、こうして。念願の愛しの雛ちゃんを自分のモノにする事が叶ったのだから、私は幸せだよ? けれど、そう返しても雛ちゃんは………ありがとう、ゴメンなさい。って、言うんだろうなぁー。雛ちゃんは自分に厳しいところがあるからね。私も道連れで警察に捕まっちゃうとか、考えているのだろう。たしかに、数時間で終わりだなんて事にはしたくない。例え数日間くらいは叶っても、数年間に及べとしても、永遠でなければイヤだよね。この高揚感よ、そして、この幸福感よ、永遠に。ですよ………うん。前の時は雛ちゃんが泥酔状態だったから、だから叶うに至ったというだけで、おかわりは望めず、待て若しくはおあずけでもなく、酔わせて抱くみたいな事をしたからだろう線を引かれ、距離も置かれて、哀れエンド・マーク。敢えなくラブ・イズ・オーバーそしてゲーム・イズ・オーバーだったもんなぁー。あ、雛ちゃんも私の事をずっと好きだったって言ってくれていたのだから、それならあの時どうして避けられちゃったのかな、私………私も私で酔っていたし、とんでもない事しちゃったのかな。そっちのドン引きだったのかな。思い当たるフシがあるだけに………怖くて訊けない。


「もう謝らないで。大丈夫だから、ね?」

「うん。レナ、ありがとう………嬉しい」


 結局はそんな事しか言えなくて、こちらこそゴメンなさい。それなのに嬉しいだなんて、こちらこそ嬉しいよ。前回の時は自暴自棄で泥酔状態の雛ちゃんだったからこそ叶ったと言えばそのとおり、それ以上でも以下でもないし、勿論の事それ以外でもない。実のところ、雛ちゃんの事が好き過ぎて度が過ぎてしまい、兎にも角にも雛ちゃんを堪能したいという邪な思惑の方が、私の大半を占めていた。だから、酔っていたとはいえ雛ちゃんが私を受け入れてみようと歩み寄ってくれたのかもしれないあの奇跡の流れだったのに、まずは雛ちゃんをこっちの世界に引き込む事を最優先にするべき筈がその努力を怠り、あろう事か優しくリードするなんて夢のまた夢で、興奮し過ぎてまずはシャワーを浴びてからとかさ、若しくは徐々にさりげなく服を脱がしていきながらとかさ、そんな余裕はまるでなしで、服をズラして露出させてそこを片っ端から、みたいな感じだったもんね。ハナタレちゃんでしたよ、全く。だから、雛ちゃんに線引きされてしまったんだろうなぁー。あの痛恨の失敗を後悔せずにはいられない私ですから、この千載一遇にしてたぶん最後であろう、そして最大でもあろうラッキーチャンスを、二の舞にする事だけは避けようと努めました。だから、雛ちゃんを骨抜きにしてしまうくらいに、愛情たっぷりに尽くして尽くして尽くしまくった。もう私、あの頃のガキっちな私ではありませんから。経験だって、それなりに積んでおりましたし。私によって昇天する、雛ちゃん。それはつまり、私なんかによって昇天までしてしまうという事を、イヤとは感じていませんよぉー。と、いう事。更に言えば私を、受け入れますよぉー。と、いう事。もっと言えば、雛ちゃんも私を頂上へと導いてくれたし、マジで幸せ感じ過ぎてオシッコ漏らしちゃうところでしたよ、あはは。幸せ過ぎて自然と泣いちゃいましたもん。子供みたいに。あ、それなら私は、まだハナタレちゃんですね。それはそれは、なんともお恥ずかしいかぎりです、なんてね。麗菜のお嫁さんになれたらイイなぁー。って、言ってくれた事、雛ちゃんはもう忘れているんだろうね。まだ、子供ちゃんだった頃の話しだけどさ。二人だけの秘密の戯れとして、雛ちゃんとは目眩く桃色な事を何度も繰り返していたのだけれど、雛ちゃんはそんな思い出にも一回も触れないし、それらを私達が結ばれた一つ一つとカウントしてはくれていないんだろうね。お互い思春期を迎えて、そんな事を無邪気に求め合っていた事への恥ずかしさを覚えてしまって、どちらからともなく話題にさえしなくなっていったんだっけ。あれはそういう行為で、そういう事を求める為で、しかも女の子同士で、それをしっかりと自覚する年齢になって、それでも得ようとしたら………嫌われるかもしれないと思っちゃうよね、やっぱり。少なくとも、私には踏み込む勇気はなかった。雛ちゃんは、どう思っていたのかな。今にして思えば、同じ気持ちだったのかな。だから、ただの一度すら話題にもしないのかな。それとも、古い記憶として本当に、すっかり。そして、ぽっかり。と、忘れちゃっているのかな。けれど、私としては大切な想い出だし、それはもう完全に、はっきりと、さ………こほん。何はともあれ、兎にも角にも。雛ちゃんは私の恋人であるという、この現実。それをとんでもなく噛み締めている今、私は存分に幸せだよ。この度合い、世界一だと思っております。世界の中心で、叫びまくりたい心持ちです。永遠に片想いのままなんだろうなぁー。と、思っていた人。その人が遂に、私の恋人。そしてもうすぐ、私のお嫁さん。つまるところ、私のモノ。永遠に、永久に、私だけのモノ。この先にある、べりーすうぃーつな未来………私はもう、私を抑えられません。


「私はいつも、雛ちゃんの味方だよ」

「レナは優しいね………ありがとう」


 勿論の事、抑えるつもりなんてございません。私は雛ちゃんの事を、愛して愛して愛してやまないのだから。雛ちゃんの事が、愛しくてたまらないのだから。愛しくて仕方がないのだから。愛しくて愛しくてどうしようもないのだから。狂いそうな程に、ね。だから、私が幸せにしてみせますよ。だから、癒してみせますとも。だから、癒し続けてみせますから。一秒たりとも、苦しみや悲しみを感じさせたりしません。雛ちゃんは、私の全てだから。雛ちゃんは、私の全てなんです。


 ずっと以前から。


「じゃあ、さ。傍に居てくれる?」

 うるうるとした瞳で、不安そうに、けれど真っ直ぐに、雛ちゃんが私を見つめてくる。そんな上目遣いで見つめてくるのは、反則だよぉー。「ヒナちゃん………勿論ですよ!」ああぁーもぉーたまんない抱きしめたい幸せすぎですよぉー!


「ずっと、私の傍に居てくれる?」

 わお、感激の極み。愛しの雛ちゃんから、まさかの逆プロポーズ。こんな日が来るとは………夢ならそのまま眠っていたい。けれど、現実なら。って、現実だからこそ、今度は私が雛ちゃんを守る。「うん、雛ちゃんの傍に居る」私、またまた泣いてしまいそう。嬉しくて、瞳うるうるさんですよ。こんな事なら、ボイスレコーダーをセットしておけば良かったよ。雛ちゃんは、もう忘れているよね。こんなにも、こんなにも、狂おしいくらいにこんなにも、私がアナタを大好きになった理由なんて………。


「レナぁ………大好き」

 雛ちゃん! あぁー、幸せというのはこんなにも幸せなんだね。これが幸せなのか。幸せ、恐るべしだよ。雛ちゃんそんなに見つめないで。その表情、その声色、そしてその上目遣い。それだけで昇天してしまいかねない、幸せの三点セット。自然とヨダレが出ちゃいそうですよ。パブロフの犬、でしたっけ。雛ちゃんを視界に捉えると、条件反射でヨダレが、じゅるる………いやその、ドン引きされちゃうよね。あ、そうだ。そんな事より早く返さないと、だったよ。「私も………好きだよ」あ、顔が火を放射するかも。傍に居るよ。って、それなら言えるのに、好き。とか、愛しています。と、なると。緊張の度合いが爆上がりしまくりになる。子供の頃の私は言えていたのに、どうしてこうなんだろうか。あの頃の私みたいにちゃんと言えていれば、言えてさえいれば、もしかしたらもっと早くに、雛ちゃんがこんなにも傷つく前に、さ。ねぇ、雛ちゃん………私ね、雛ちゃんのおかげ様によって、今もこうして生きていられるんだよ? 雛ちゃんの身体に残る大きな傷痕、それは私を庇って負った傷だ。あんな酷い傷痕が残ってしまっている事に、私はつい先程になるまで気づけないままでいた。まだお互い幼かった頃、少女というより少年だった私が調子に乗って高い場所から転げ落ちそうになったのを、雛ちゃんがその身を犠牲にして守ってくれなければ、もしかしたら私は死んでいたか、それとも顔とかに大きな怪我を負っていた筈で、私のせいで雛ちゃんは大怪我をして、雛ちゃんのおかげ様で私は擦り傷程度に済んだ。雛ちゃんは、自分が飛び降りようとして怪我をしたと言い張り、庇ってくれようとしたから私に怪我をさせてしまったと、まるっきり逆の事を言って内緒にしてくれた。私が怒られてしまうのを防ぐ為に、全てを自分のせいにしてくれた。人差し指を口にあてて、しぃー。と、言ってくれた後のあの笑顔。それを、私は絶対に忘れない。雛ちゃんは、私の女神様だ。本来であれば雛ちゃんは、それを理由に私の事を奴隷のように扱っても構わないくらいなのに、それなのに雛ちゃんは決してそんな事はせず、思い出話しとして声に出す事もなかったから、あの事を不意に思い出す事さえないんだね。と、思っていたのだけど。雛ちゃんを抱いた時に、漸く判った。雛ちゃんが裸のままだったから、見つけた。あんな大きな傷痕が残っていて、それでも忘れているだなんて、そんな事あるワケがない。思い出したくなくても、思い出してしまうに決まっている。雛ちゃんは忘れたフリをしていてくれたんだ。恨みもせず、罵りもせず、私の事を気遣って………雛ちゃんは私の女神様だ。と、心の底からそう思う。私は部長と違うから。だから、永遠の愛を誓います。私は、雛ちゃんだけのモノです。ずっと、大好きでした。そう、ずっと前から。これから先も、ずっと。だから………もしもの時は、雛ちゃんの罪は私が被るから。私が守るから。捕まっちゃうんだろうからさ、やっぱり。日本の警察は優秀だもん。


 だから、

 もう少しこのまま浮かれさせてね。


 大好きだよ、雛ちゃん。


 ………、


 ………、


 ………、




PM21:05/石井 麻里香

 がたん、ごとん。がたん、ごとん。と、いう音の他には何も聴こえない。都会の方へと向かう側の車両だというのに、がらん、がらん。都会のネオンに冒険の旅に出るような人は、もうとっくの前に繰り出しているという事なのかな。それとも都会に闘いに出てそのまま、闘いの疲れを癒やしているのかしら。とは言え、すれ違う反対車両の方も、すっからかん。な、ワケで。通勤と帰宅のラッシュを過ぎてしまえば、こんな田舎町を走る電車なんて、こんなものなのかしら。しかも、そのラッシュだってすぐに収まるみたいですし。通勤やその他の移動手段としては、その殆どを自転車やスクーターに頼りきっている毎日なので、気にしてみた事なんてなかったけど、こうしてシートに座って目を閉じていると、こくん、こくん。と、心地よい睡魔に襲われてしまいそうになるのも頷けますね。今の私の精神状態では、所謂ところの寝たフリというヤツをしているだけですけどね。俯いた状態で顔を隠し、耳から届く音に神経を尖らせ、印象に残らないように努めている。ま、今のところまだ私の他には誰も見当たらないのだけど。気にし過ぎよね、と。顔を上げると、窓に映る自分と視線が重なった。案外と落ち着いているような、意外にも冷静な感じを保てているような、そんな澄ました表情の私が、お主も役者よのぉー。と、にんまり。私の脳裏でその表情を変える。そうかもね、と。軽い溜め息を一つ、ほろり。四年も役者してきましたからね、こちとら。露見しないように、困らせないように、努めて、努めて、努めた続けてきたその結果が、これ。何ヤッてんだかだよね、全く。「がたん、ごとん」がたん、ごとん、かぁ………。電車って、どれもこれも、みんな、こんなふうに同じ音がするのかしら? と、不意に思う。田舎町を走る三両編成の電車の中で、キャリーバッグなのにそれを両膝に乗せ、ぽつん。と、シートに座っている女。そんなワケ有りまくりの女が一人、がたんごとんを思う。「って、小説。売れるかしら?」苦笑しながら、ぽつり。そして、きょろ、きょろ。と、首から上を動かしてみる。キャリーバックで顔を隠しながら、こっそり。と、そうしているので、他の車両の事情は詳しくは判らないままなのだけれど、五つ前くらいの駅で乗った時には、たしか。隣の車両に女性が御二人、既に並んで座っていたような気がする。そして、その御二人様が降りたような様子は見ていない。電車が各駅に停車する度に、きょろ、きょろ。と、辺りを見回し見渡していたのだから、たぶん見落としてはいない筈。残りもう一つの車両の方は、誰もいなかったような気がする。で、この車両には未だ私のみ。だから、誰かに見られているなんていう事もない。そんな事は判っているのに、これでもう何度目になるんでしょうか………何気なく。を、装いながらも右。そして、左。と、見回し見渡す。落ち着かない心を抑えきれず、故に持て余している。表情は冷静さを取り繕ってはいるのだけど、内心ではそんなものです。気を紛らわせてみようとアレやコレや意識を振り撒いてみても、そわそわ。だからなのかな、何気なくを装えていると思っているのは実は自分だけで、周りからはバレバレだったりするのよねなんていう、あるある。その光景が脳内に浮かんできて、私自身を虐め続けている。「誰もいないんだから大丈夫………よね」うん。違う事を考えましょう。「落ち着こうよ、私。何か他の事を考えてみるとかしてさ」と、わざわざ声にしてみる。その方がなんとなく、落ち着けるような気がしないでもないような気もしないでもない。って、どっちだよ。そもそも、シートに腰を下ろしてそのまま、キャリーバッグを膝の上に乗せ、抱きかかえるようにして持つ。って、どうなのだろうか。さりげなく顔を隠せるし、良い考えだわ。と、思ったものの。よくよく考えてみると、さりげなくなくね? 今更、もう下ろせないよ。そんな事をしようものなら、もしかしたら目立っちゃって、そのまま怪しまれちゃうかもしれないしさ。って、誰も居ないけどね。いつも私はこうしているのでございますですけど、何か? みたいな、そんな強い精神力は欲しいかも。あ、それはそれでそんな人、おもいっきり目立っちゃうか。ううぅー、誰もいないし開き直って、このキャリーバッグでスケボーしてやろうかしら………楽しい、かも。と、きょろ、きょろ。再確認してみる。やっぱり、誰もいない。椅子の下から、ふんわり。と、吹き出してくる温かい風。天井の所々から吹き出してくる、温かい風。車内を明るく照らす、灯り。それらが今、私の為だけにある。この車両の端から端、キャリーバッグでゴー。ヤッてみたい、かも、しれない。と、ごくり。おもわず喉が鳴る。きょろ、きょろ。よし、これはチャンスだと思うよ! あらヤダなんて贅沢な事ですこと、おほほ。



 ぷしゅーっ。



「あうっ!」電車のドアが開く音がして、驚いて現実に戻る。現実逃避を目指して気持ちを落ち着かせようとしているうちに、何度目かの駅に停車していたようらしい。キャリーバッグを床に置き、お尻をシートから離していた私は、ほんの一瞬だけ胸のあたりが、どきっ。と、しながらも。何事もなかったかのようにして再び腰を下ろす。座り直しただけですといった感じで、お澄まし。見られたかな。バレたかな。と、焦燥してしまったものの。それは、ほんの一瞬の出来事として処理され、過去へと流れていきました。誰も乗ってこなかったから、です。ちらり、と。見た感じでは、ホームにも誰もいないようです。


 ぷしゅーっ。

 ドアが閉まる。


「ふぅ、やっぱり………」おもわず、ホッとする。おもわず、ホッとしてしまう。電車が走り出して再び外が暗くなると、そんな私と目が合った。そんな私がどんな私か見たくなくて、その先に見える景色に集中してみる。窓の外は、暗くなったまま。暗いまま、明るくなる気配を一向に見せない。進行方向の遥か向こうが、辛うじて輝いているのみ。と、いう事は、私はまだまだ暫く、車中の人という事になります。都会の光はまだまだ先のようです。って、時刻表だともうすぐの筈なんだけどね。自転車やスクーターと違って一直線ですし、スピードも違うから、電車に乗り慣れていない私にはなんとも判然としないけど、あんな遠くに見える都会まですぐなんだね。そういえば、都会に出る事すら久し振りですし。「………」私は今夜、最愛のあの人と駆け落ちをします。都会に出て深夜バスに乗り、私達の事を誰も知らない所へ向かうの。その為の切符を二枚、既にもう買ってあるんです。このバッグには当面の衣類その他を詰め込んでいて、思っていたよりも上手くいかなかったものの、スペースを強引に作ってなんとか詰め込む事に成功した、あの人も。胴体と切り離した断面がなんというか、ずたずた。そんな感じになってしまったのは激しく残念なのだけど、初めての試みにしては上手く事を運べた方なのではないでしょうか? と、暫定的とはいえこの件は納得する事にしました。けれど、まだ問題が残っています。なるべく長く保存状態の良い感じをキープするには、どうすればイイんだろう? と、いう事です。ネットで検索してはみたのだけど、それだと今すぐ実行するには材料が足りないんですよね………弘前市に着いたら、またあらためて考えよう。取り敢えず、今のところは匂いが漏れなければ良し。私は、ふと。ではなく、意図して。自分の左手の薬指に視線を移す。そこには、あの人に貰った指環がある。証しになる筈だった、そうなる筈だった、そうなる事を考えずにはいられなかった、嬉しくて仕方がなかった、そんな幸せのそれがある。私はただただ、幸せになりたかった。たぶんきっと、秘匿のままではあったのだろうけれど、それでも平凡な毎日となった筈で、それで充分すぎるくらい幸せだと思えていたと思う。だってそれが、私の願う幸せだったのだから。



 ぷしゅーっ。



「………!」うぐっ、と。私はおもわず息を飲む。私が座っているこの車両に御二人、女性が乗り込んできたからだ。しかも、そのうちの御一人と、ばっちり。目が合ってしまった。だから私は、慌てて俯く。途端に、どくん、どくん。と、鼓動が早まる。まだ、私を見ている? どくん、どくん! え、もしかして、私の正面に座るつもり? どくん! どくん。あ、通りすぎたか。良かったぁ………って、私以外は誰もいないのに、どうしてわざわざ正面に座るのよ。そんな人、そうそうお目にかかりませんけど? 私ったら、何を考えているんだか。あ、この車両の端に座りましたか。しかも、なんだか、二人の世界って感じ? そういえば、手を繋いでいたもんね。それなら、私の事なんて気にしないよね。ほっ。と、したりなんかして。あ、あの女性って、たしか………。



『先程、踏み切り内に動物が進入したとの知らせがありました。なので、安全確認の為に暫く当駅に停車します。まことに申し訳ありませんが、このままお待ちください』



 あらヤダ………。



「………」ドアが閉まらないなぁー、と。発車しないなぁー、ちっ。と、思っていたら。私の奥底から滲み出る、そんな機微とは裏腹に、悠長とも言えるような、そんなアナウンスが流れてきた。ラッシュ時に見られるような、身動き困難な立ちっぱなし状態ではなかったのは幸いでした。と、思えなくはないのだけど、早く遠ざかりたいこの時にこんな事態というのは迷惑な話しです。そもそも、自転車で通学していましたし、スクーターで通勤していますので、ラッシュって美味しいの? そんな感じですけどね。あ、それはそうと。ラッシュの時の混雑ぶりを見るにつけ、想像するにつけ、思うのだけど。半透明の円柱の容器にぎっしりと詰め込まれた、爪楊枝。に、なった気分がするかも………って、そんな事よりこの状況です。いやはや、動物さんには困ったものです。そわそわしたりとか、八つ当たりしたりとかして、それで目立つのは避けたいし………手持ち無沙汰、です。もう、発車時間に間に合ってくれればイイか。と、思いながら。ちらり、視線を揺らしてみる私。「………」うん、やっぱり見覚えがある。つい先程、目の前を通ってこの車両の端に向かい、そこに腰かけた二人。そのうちの、一人。私と目と目が合わなかった方。明るい茶髪のスレンダーな女性。彼女は、たしか。私と同じマンションに住んでいる人だったような気がする。挨拶程度であれば、何度か交わしたような記憶もある。この駅から乗ってきているし。って、それはそれで女性と二人で乗り込んではこないか。それに、あのくっ付きようだしさ。それなら、仕事終わりとか? 普通にオフィスレディーさんとかなら明日はお休みだろうから、職場の同僚とこうして都会の方に………それにしては明るい茶髪すぎない? そんなに厳しくない会社も増えてきているみたいだし、別に変ではないか。って、今ここでたまたま見かけただけという情報のみしか手持ちのカードがないのだから、どんな可能性だって考えつくよね。何を考えているのやら、です。どちらにしても、何度か見かけた事があるのはたぶん間違いない筈なのだから、向こうも向こうで私に見覚えがあると記憶しているかもしれないけど、目が合った方の人は知らない方の人だし、私には気づいていないかな。と、なれば。このまま大人しくしているのが、賢明だという事になりますよね。気づかれないままの方が、私にとっては都合がイイのだから。どうか、そのまま気づかないままでいてね。


 それはそうと。

 それにしても。


 かなり落ち込んでいるように見えたのだけど、それもただの気のせいなのかしら。もしかしたら、彼氏さんと喧嘩でもしたのかしら。同じマンションのあの女性だとしたら、あの彼氏さんらしき人とは年齢が離れているように見えたし、今になって考えてみると、不倫とかだったのかもしれない。と、思えなくもない。と、なると。あの部屋は、密会の場所とかなのかな。そうだとすると、わざわざその為の部屋を借りているだなんて、お金持ってんなぁー。あのおじさん、お金とか持ってそうだったしね。って、飛躍しすぎかな。けれど、同一人物かどうかは別としても、そっか。あれは、不倫かもね………。


 あらヤダ、

 私と同じじゃないの。


 って、たぶん、そこまでは、ね。だって、まさかその後も私と同じように、あんな事までは流石に、さ………それはそれとして。すぐ隣で、ぴったり。と、まるで寄り添うようにしてくっ付いている女性の方は、やっぱり初見かな。なんとなくお見かけしたような記憶もあるのだけど、記憶がなんとなく過ぎて思い出せない。さっき、ばっちり。と、視線が重なっちゃったから残像は鮮明なのだけど、その残像を頼りにして記憶を辿ってみても、見かけた事があるような気がしないでもないという、未解決事件その後も未だ手がかりなしのあたりに停滞しているから、もう思い出せないからそのまま気のせいかもという答えにすり寄ろうか。なんだか、仲良さそうな感じだし。二人で歩いているところとか、見かけたのかもね。あ、それならそれで密会場所であのおじさんと不倫の関係という線は消えるか。だとすると、人違いかな。密会場所に別の人なんて呼ばないもんね、フツーは。そうだね、別人だね。それに、やっぱり、さ。なんか、あの二人………ワケありな感じが、びんびん。と、するし。ビアンとか? あの人、デレている感じだし。けれど、似ているんだよなぁー。あんな美人さん、なかなか見間違えないと思うんだけど。あ、バイとか? それならそれで私の推理も………ま、どっちでもイイか。私には関係ない事だし。いや、その。興味なら、あるんだけどさ。私も、まだ十代の頃になら。アレはアレで、ね。ハマると、ヤバいし。


 はう、う………って。

 欲求不満かよ、私は。


 おもいっきり欲求不満ですけど、何か? って、何はともあれ。この車両だって、がらがら。の、私一人きりなのに。それなのに通りすぎて、わざわざ車両の端まで行って座るだなんて。離れていてくれた方が都合が良いのはたしかなのだし、向こうにも事情があるんだろうね。「………」私は私でまさに事情ありありだから、そんな事でさえおどおどして訝しく思ってしまう。あっちの方に行ってくれて助かったのに、どうしてそっちの方に行くのかと不安に思ってしまう。あんな事をして、更にこんな事までしておいて、何を今更………小心者なんだから、全く。あんな事をするつもりではいたのだけど、その後の事までは実のところ、用意周到で準備万端とはいかないままだし、流石にそこまでは腹を括ってはいなかったみたいだね、私。けれど、それはそうだろう。と、自分自身を擁護してあげたくもなる。だって、あんな事もこんな事も初めての経験なのだから。不倫からの、駆け落ち………この世の中はそんなに上手くはいかない。色々で様々な事情が絡み合い、そして重り合って、時には嘘で塗り固めようとしたり、或いは本音で繋ぎ止めようとする。そういう意味で言えば、私は失敗した。騙されていた。言ってみれば、そう。


 都合のイイ女だった。


 私は………試す事にした。何年も我慢し続け、耐え続け、忍び続けている事に、疑問を抱くように、ううん。疑問なんて、もう何年も前からあった事。ただ、それを見ないようにしていただけ。考えないようにしてきただけ。信じようとしてきただけ。信じたかっただけ。積み重ねてきた想い出が、とてもとても大切だったから、それを嘘だと思いたくなかった。ただ、それだけの事。けれど、だけ。だけ。だけ。その、だけ。が、いくつも増えてくると。だけ、ではなくなる。あれもこれも、それも。それが例え、あの人………この人という存在を始まりとした事であろうと、たった一言でも疑問を告げてしまえば、投げかけてしまえば、求めてしまえば、棄てられてしまうかもしれない。と、想像しただけで。それだけで、恐怖にも似た不安に苛まれてしまう。そして私自身が、ぐらり。と、脆くも崩れていきそうになる。けれど、このままでもいつかは壊れてしまうだけです。だから私は、この人を試す事にしました。賭けをしてみる事にしたんです。「………」一旦は確認してみて、それで安心したかったから。嘘でも良かった。良くはないけど、それでも良かった。その時に安心する事が叶えば、それ以後は暫くそれを信じて生きていられるから。それこそ本当にそれだけ、だった筈なのに。この人が駆け落ちを持ちかけてくれたその時、ほんの少しだけ疑いの気持ちが芽生えました。嬉しさの方が比べものにならないくらい大きかったのは当たり前の事なのだけど、あまりにも躊躇なく言うものだから。え、いつもと違う。と、そう直感してしまった。『じゃあ、じゃあ、切符は買っておくから、日にちを決めてほしいな………』だから、そう告げてみた。ホント? 嬉しい! で、終わるのではなく。大丈夫なの? 難しいんでしょ? と、気遣う事もなく。この人が呆気ないくらいに躊躇いなく駆け落ちだなんて言うから、そんないつもと違う事を言うから、安心の保険ってヤツなのかな。私もいつもとは違う私で、そう告げてみた。すると、思惑が裏目になって返ってきました。すぐに取り繕ってはいたものの一瞬だけ、ううん。刹那だけ、あきらかに動揺していました。焦燥していました。そんな表情を、私に見せてしまうに至りました。駆け落ちという言葉を出しておいて、それとはあからさまに違う感情を晒け出したんです。巧く隠せたと思ったのでしょうが、なんとか誤魔化せたと思ったのでしょうが、もう。四年ですよ? 判らないワケないじゃないですか。あ、そうなんだ………。そんな筈はない。と、何度も振り払ってきたのに。そんな自分に、ほらね。と、別の自分が嘲笑っているような気がしました。大丈夫よ、待ってるから。と、言うだろう。そんなふうに思っていたのかな。嬉しい! そう言ってはしゃぐだろう私に、やっぱり難しいかも。と、後々になって言うつもりだったのかな………いつもみたいに。絶対に見たくなかった現実を思い知らされた私は………それでも、憎めませんでした。


 それなら、

 どうしてこんな事を?


 そんなの決まっている。これが、私がこの人を永遠に独占する方法だったから。愛していると私に囁いてくれる方の、この人。そんなこの人を独り占めしたままでいる為の唯一の方法が、これ。そう、殺めてしまえばイイのです。助けてほしい? 勿論ですよ、その男から助けて差し上げますとも。許してほしい? そうですね、四年もかかっちゃいましたもんね。何でもするから? そうですか、それなら話しは早いですね。話し合おう? もう、四年も話し合ったじゃないですか。狂っている? そうですね、私はアナタに狂っていますよ。だって、こんなにも。そう、こぉーんなにも愛しているんだもん。私の事、愛してる? ねぇ、愛してる? そうですか、愛していますか。私だけですか。それなら、一緒に行きましょう。来ないんだろうなと思っていましたので、こうしてお迎えに上がりました。ほら、切符も二枚。既に、このように用意してあるんですよ? あ、一枚だけで済みますよね。そそっかしくてゴメンなさい、ぺこり。え、俺は関係ない? 俺も被害者? 俺も騙されていた? だから、私と同じ? うーん、たしかに。そう言える。かも、しれませんけど………私が何をしに来たのか判ってらっしゃるのに、そのままスルーなんてしちゃったら、そうしたらアナタ、警察さんに通報するに決まっていますよね? え、しない? 約束するから? えっ、とぉ………あの、ね。アンタは邪魔者なんですよ、判ります? わざわざ言わせないでよ。



 逃がすワケないでしょ、バカなの?



「………」これでこの人は、もう誰とも出会えなくなる。だから、浮気心は芽生えない。だから、余所見もしない。だから、奪われない。ほら、私だけのモノです。身体ごと拐うのは無理だったので、泣く泣く首から上のみにしました。だからもう温めてはもらえないし、囁いてもくれないし、笑顔を向けてもくれない。周りに見せつけるかのようにして、寄り添って歩く事も叶わなくなってしまいました。けれど、それはこの際もう仕方ありません。潔く諦めました。それこそ、我慢し続けましょう。耐え続けましょう。忍び続けましょう。だって、それはそうでしょ? もうこれで、棄てられるという不安に苛まれる事はないし、嘘を吐かれる事もないし、独り占めデキるし、安心していられるのだから。あ、前言補足しなきゃですね。都合のイイ女、それは昨日までの私の事でした。だって、今の私は新しい私ですから。



 ぷしゅー。



 あ………ドアが閉まっただけか。やっぱり、テンパっているようです。私って意外に落ち着いているなぁー、なんて。自分としてはそんなふうにも思っていたのだけど、必ずあった筈の再始動を告げるアナウンスにさえ、全く気づいていないんだもん。って、女性が御二人。また二人連れで乗り込んできました。記憶している限りでは、二人連れの女性がこれで三組。そして、私は一人。私からしてみれば、私は少なくとも独りではないのだけど。それにしても、三組とも何だか仲が良さそうで羨ましいかぎりです。あら、そっちの車両に行きますか。どうしてわざわざ、って………また、考え過ぎですね。



 がたん、ごとん。



 まだ、先は長いのに。

 いやはやです………。


 ………、


 ………、


 ………、





          最後の晩餐、おわり

          最期の審判へと続く

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