SEVEN💉PAIN

鷹山トシキ

第1話 8の字

 2019年10月

 男の死体には8の字の傷跡があった。犯人はデリンジャーを使ったに違いない。俺は20年刑事をしているが、一度だけデリンジャーを手にした犯人に遭遇したことがある。

 あれは5年前、2014年の8月2日に起きた。

 麻薬取引の現場でギャングたちが皆殺しにされる事件が発生した。


 名古屋署の捜査の結果、元自衛隊員の青木勇が有力な容疑者に浮上する。青木はかつて愛する家族をギャングに殺されたことで、自らの正義に基づき、また自身の復讐のため、街の悪党たちを次々と血祭りに上げた。

 その中には俺の幼馴染の上島英太郎もいた。

 かつて青木と同じ部隊にいた愛知県警の緒方勝男は青木を追う。一方、青木に部下を殺されたマフィアのボス・北見邦夫も組織を総動員して青木を追う。

 青木はデリンジャーを使って北見を始末した。8月12日、名古屋港で俺は青木を逮捕した。

「ホシは青木の知り合いですかね?」

 名古屋署の刑事課長、毛塚光一が言った。まだ20代の青二才、東大卒のエリートだ。

「知るかよ?」

 俺は今年の4月から愛知県警の本部長をしている。去年まで豊橋署にいたが、これからは広いフィールドで仕事が出来る。

 毛塚が尻をポリポリ掻いている、ケツが痒いらしい。


 ガイシャの正体は栄の裏カジノ『ウラノス』の用心棒として働く元軍人の佐伯翔太。佐伯は、同業者の鈴木誠一郎がもちかけた合併話を断ったことにより、佐伯の雇い主である相馬龍彦と、相馬の息子で共同経営者の珍太が殺される。チンタっておかしな名前なので、俺はヤツの顔を見る度に笑っていた。 

 佐伯は、珍太の妹である月子、そして恋人の手島時子を連れて香港中を逃げ回る。殺しは鈴木だけの仕業でないと感じた佐伯は独自に捜査を開始し、やがて背後に『桂馬』という組織があることを知るが、そんなとき時子が敵の魔の手にかかってしまう。

『桂馬』のボスは名古屋署の元刑事で中村ニックに捜査のイロハを教えた沼津根津雄だった。

 

 1999年4月に着任したとき、俺はまだまだ世間の恐ろしさを知らなかった。青春時代、犯罪とは無縁に生きてきた。子供の頃に見た『あぶない刑事』の影響で刑事を志した。『犯罪者は殺してはならない』警察学校の教官で、恋人の野崎葉月の言葉をモットーにしていた。だから、いつもステゴロだった。

 

 中村が刑事になった頃、広瀬文也は名古屋の繁華街をブラブラしていた。ネオンが宵闇の街に瞬く。広瀬は犯罪者の金品を盗み貧しい人々にそれらを与える、義賊だった。知多半島にある廃墟をねぐらにしていた。

 そんな彼も恋人・辺見ほのかを愛するうち泥棒から足を洗うこと決意、名古屋へ一緒に向った。そして、地元の有力者・松木光男の経営する派遣会社に就職する。初仕事の日、食品工場に向かったが、足蹴にされていた麦原メリーはそこで上司の桃井安則を射殺、財布から5万円を奪い、広瀬を脅して車を運転させ逃走。

「ワタシ、メリーさん、今アナタの後ろにいるの」

 警察の包囲網を掻い潜り逃走する中で負傷、広瀬は気を失う。

 そして気がつくといつの間にか警察署に連行されており、雇い主の松木が殺害されたことを知らされた。

 白髪頭のオッサン刑事、湯島に取調室で胸ぐらをつかまれた。

「オマエがやったんだろ!?さっさと吐かないと殺すぞ?」

 湯島はリボルバーの銃口を、鉄パイプで殴られたときに負った頭の傷にねじ込ませた。 

「ウギャアッ!!」


 松木はビルの屋上から転落死した。

 中村が連続殺人事件を追っている最中、広瀬は助手と共に名古屋港近くの廃屋で拳銃の組み立てをしていた。


 そんなある日、密造した拳銃が犯罪組織の麻薬密輸に利用されているということを知る。秘密を知ってしまった彼は組織には命を狙われ、麻薬Gメンの横田ワサビからは組織の仲間だという疑いをかけられてしまう。


 しかも彼の助手の野崎葉月は組織によって殺害されてしまうのだった。怒りに震える広瀬と中村は組織への復讐を誓う。

 妻の死は俺が最初に覚えた痛みだ。

 

 俺は黒いライダースジャケットを羽織り、佐伯を殺したホシを探した。気づけば10月も終わりだ。毛塚はダブルモンクストラップシューズをはき、ポロのスーツでビシッと決めていた。

 俺たちは佐伯の生まれ故郷である栃木県・塩原温泉郷にやって来た。

「ここの温泉は806年に発見されたそうですよ?」

 毛塚は旅行雑誌を読んでいた。バスに揺られている。通路側の俺は退屈でイライラしていた。JR西那須野駅からバスで24分、俺たちはもみじ谷大吊橋にやって来た。

「日本最大級の規模らしいですよ?全長320メートル、幅は1.5メートル」

 毛塚はまだ旅行雑誌を読んでる。

 橋を渡るのに300円かかる。

「いい商売してんなぁ?」

 俺は苦笑した。この吊橋を渡った先に佐伯の家はあるらしい。

 俺は思わず足を止めた。見覚えのある後ろ姿がそこにはあった。

「横田ワサビ?」



 



 

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