天使のララバイ 悪魔の鎮魂歌

帽子少年

第一章 落ちこぼれの悪魔

「たくちゃん、ひなちゃん。そろそろ寝ましょうね」


リビングでテレビを見ながら騒いでいた孫たちに声をかける。

時刻はもうすぐ九時を回る。まだ五歳であるたくとひなには十分遅い時間だ。


「えー、まだ眠くないよー!」


たくが駄々をこねる。その様子が愛らしく、ついつい甘やかしてしまいそうになるのだが、つい先日もそうやって甘やかし、彼らの母親に怒られたばかりなのでそういうわけにもいかない。


「もう遅いし、明日もおじいちゃんと遊びにいくんでしょ?早く寝なさい」

「はーい、分かったよ…」


たくもひなもちょっとすねたように寝室へとはいって行く。


「ねえ、おばあちゃん」


ひなが寝室の扉に手をかけながら振り向いた。


「なんだい?ひなちゃん」

「あのね、ママはいっつも寝る前にご本読んでくれるの。おばあちゃんも読んでくれる?」


困ってしまった。うちにあった絵本は全てたくとひなの母親であり、自分達の子供でもある美穂に譲渡してしまったからだ。


「ごめんね、ひなちゃん。うちにはご本無いのよ」

「そっか、じゃあお休み。おばあちゃん…」


たくとひなは心底残念そうに寝室へ入っていった。

このままではさすがに可哀想だと思い、たくとひなを思わず呼び止める。


「ご本はないけど、おばあちゃん面白いお話知ってるから聞かせてあげようか?」

「面白いお話!?聞きたい!!」


たくとひなが食いついてきたので満足げに微笑み、それじゃあ。と自分も寝室に入る。


「面白いお話ってどんなの!?怪獣とか出てくる?」


とたくが目をキラキラと輝かせ聞いてくる。


「残念だけど、怪獣は出てこないねぇ」

「じゃあ、どんな話なの?」


ひなも興味津々でこちらを覗いてくる。


「私が若い頃、お友達から聞いた話なんだけどね。ひなちゃん、たくちゃん。悪魔って知ってるかい?」

「「悪魔?」」


ひなとたくの声が揃う。


「そう、悪魔」

「俺、知ってるよ。悪いやつなんでしょ!俺がやっつけてやる!」


とたく。

ひなは怖い話をされると思ったのか、少し不安げにこちらを見ている。


「そうだね、悪魔っていうのは悪い魔物って書いて悪魔って読むんだ。確かに悪い印象があるかもしれないね。でもね、そうじゃない悪魔もいるって知ってるかい?」

「悪くない悪魔?そんなのいるの…?」

「ああ、もちろんさ。人間だっていい人間と悪い人間がいるだろ?悪魔だっておんなじさ」

「で、で、どんな話なの?」


怖い話ではなかったと気づいたようで、ひなが続きを催促してきた。


「これは、おばあちゃんがお友達から聞いた話なんだけどね。昔々、あるところに落ちこぼれの悪魔がいたの。彼はドジでマヌケでいつもヘマばかり。だけどね、とっても優しくて勇気のある素敵な悪魔なの。彼の名は、リク…」




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