第1章 悩めるおっさんと頑固王女

第1話 幸運は泥沼の始まり

 おかしいと思ったんだよ。

 何の取り柄も無い一般人のおっさんが、異世界の女神様に召喚されるとか。


「君の小説…氷都市でアウロラ様から聞いた話とそっくりじゃないか」


 世界的有名人、元フィギュア選手のミハイルがどういうわけか、私の拙い小説を読んでくれてたとか。いったい、どういうご都合展開なのかと思った。

 ミハイル本人から聞いた話によれば、彼は日本のゲームソフトやサブカルチャーが大好きで。私が小説を投稿している某サイトの、立ち上げ当初からの常連だという。


 可能性としては、全く有り得ない話ではない。ネットの世界ではときに、意外な出会いもある。

 特に、一般人のみならずアメリカ大統領や世界的大企業にまで幅広く使われている一言ミニブログでは、その傾向が強い。


「偶然の一致とは、考え難いです。あの『勇者の落日』から生還した、運命の三人…クワンダ、アリサ、ミキの証言とも重なる部分が多々ありますから」


 私を「夢召喚」した異世界バルハリアの女神、アウロラはそう言っていた。正確には、神ではないとも言っていたが。氷都市の市民から、祭り上げられてるだけと。


 なお、重ねて幸運なことに。私が経験したのは「地球に帰れなくなる」タイプの召喚ではない。もしそうだったら、この小説投稿SNSで新作を発表するなど不可能だ。

 帰れなかったら、たぶん。どこかそのへんで野垂れ死んでるだろう。異世界もののライトノベルで良くあるチートなど持たない、ただのおっさんなんだから。


 ただの一般人というと、語弊があるか。

 私の名前は、伊能イノウ篤敬アツタカ。大人の発達障がい、注意欠陥多動性障害A D H Dを患っている無職のおっさんだ。精神障がい者2級であり、健常者ですらない。

 近年、メディアで再び注目されている「氷河期世代の引きこもり」に該当する。結構よく外出してるけど。


 そんな私が、なぜ異世界に召喚されたか。

 ひとことで言うと、事情聴取である。


 誤解しないでもらいたいが、私が何か犯罪をやらかしたわけではない。だいたい、地球にいる私が、どうやって異世界で罪を犯すのか。


 私が、氷都市に呼ばれた理由。

 それには、世界の裏側で起きている…ある驚くべき自然現象が関わっていた。

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