20

そのままなすすべなく地面と平行に吹き飛ばされるシサキ。10メートル近く飛ばされた後、地面に転がるように落ちた。

「────ウグッ……!」

なんとか立ち上がろうと腕で身体を支えようとするシサキ。だが腕に力が入らず、再び地面に崩れ落ちた。

(な、なんて威力……! たった一撃でこのダメージとは……)

グラつく視界で何とか姉を見つけようとする。

「いったぁ……。お、お尻打っちゃった……」

先ほど投げ飛ばされた位置辺りにミサキが座り込んでいた。一緒に投げ飛ばされたとはいえ、追撃を喰らっていないミサキはダメージも少なそうであった。

(な、ナメていた……。正直に言って、ナメていた……!!)

こんどこそシサキは立ち上がった。苦しそうに息をしながらまともに蹴りを受けた左腕をさする。もしかすると折れているかもしれない。それほどの痛みが続いていた。

(これは訓練じゃない……。実戦だというのに……)

イーリスの助言を疑っていたわけではない。イーリスのパワーは何度も間近で見せてもらっていた。そのイーリスと並ぶレベルの筋力を持っている、という話を聞いた段階でもっと警戒しておくべきであった。

(……)

だが、どこか心の中でそんなことはないという慢心があったのだろう。

その慢心はどこから生まれたのか。

相手がアルノードだからか?

相手が我が自慢のクロックナンバーに何度も敗走している弱小チームだからか?

姉が無敵と自負している姉妹のコンビネーションがあると思っていたからか?

……自分たちが選ばれたエリートだと己惚れていたいたからか?

(……全部ですね)

原因を上げたらキリがないほど思い当たる。自分でも呆れるくらいどうしようもなかった。

(ですが、それ以上に……)

いつの間にか離れたところにいるミサキは敵方3人に囲まれていた。シサキのいる位置からでもオドオドとしているのがわかる。

そしてそんなミサキを男3人は困った表情で見下ろしていた。

(なぜ急に強くなったのでしょうか……)

シサキは走れない身体を引きずるようにミサキの元に向かった。

 ◇

「愛と正義の戦士、ソフィア降臨! ですっ!」

どこからともなく現れたソフィアがきめポーズと共にそう高らかに言い放った。

今さっきまで雫とシルバーの間を流れていた殺伐とした空気は息をひそめていた。

「そ、ソフィアさん!?」

「ほう……」

驚いた様子の雫と、ニヤリと不敵に笑ったシルバーは互いから目を離し、ソフィアの方を見る。

「あ、あれ……。決めポーズ、失敗しましたか……?」

二人から変な感じに注目されたソフィアは自分の決めポーズが悪かったのかと誤解していた。

「い、いやそうじゃなくて……。あっ、準備終わったのね……」

「ハイッ!! お待たせしました! なんとか、神機を展開出来ましたよ!」

ソフィアが満面の笑みでそう答えた。

「一瞬、アイツらが来てくれたのかと思っちゃったなー……」

雫が頭を抱える。雫が考えていた以上に状況が最悪になっている。

「……ようやく来たな、小娘。その雑魚だけでは退屈していたところだ」

シルバーが心底楽しそうにソフィアに話しかける。

「な、なんですかぁ! やるんですか! 容赦しませんからねッ!!」

最初にシルバーと出会ったときとは違い神具を持っているからか、ソフィアはシルバーに向かって強気にそう言った。

「ハハッ……。随分と頼もしい助っ人じゃあないか」

「黒川君、黒川君! なんか褒められてる気がします!!」

「バカにされてんだよ……」

「なんですって! ムキーーー!!」

バカにされたソフィアが怒りの地団駄を踏む。

「……コロコロと表情の変わる面白いやつだな。……さて、仕切り直しだ。一対二、これで多少は面白くなるか?」

シルバーが何かを振り払うかのように刀を振り回し、そして静かに構え直した。

「さあ、いつでも来るがいい」

「い、い、行きますよ! いいんですね!?」

ソフィアもヴァルハニーロを構える。だが、緊張しているのか、握り方を変えたり足の左右を入れ替えたりして落ち着かない様子である。

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