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「このあいだの話を忘れたの? あなた達は私の下で働いてもらうのよ。……軍人としてね」
「冗談じゃなかったのか……」
雫が頭を抱える。
「ちょ、ちょっと待ってよユノちゃ~ん」
珍しく大人しくしていたケインが口を開く。どこか混乱しているようであった。
「なに? 黒川雫から話を聞いてなかったの?」
「いや……。ざっくりとは聞いてたけどさぁ……。軍人って。オレっちたち、まだ学生よ?学校にも行かなきゃいけないし、働けなんてそんな……」
珍しく狼狽えながらまともな事を言うケイン。
「わかってるわよ。黒川雫にも簡単に説明したけど、別にこの神霊世界に住めって言ってるわけじゃないのよ。今までどおり学校に行って、普通に生活してもらって構わない。……でもそうね。学校が終わった後とか休みの日に私からの『おつかい』に行ってもらいたいだけよ」
「そのおつかいっていうのが神具を見つけることなんですか?」
勝平が緊張気味に訊ねる。
「……まあ今回はね」
視線を逸らしながらユノはティーカップに手を伸ばす。
「……なにかまだオレたちに言えないことがあるんじゃないか?」
微妙なユノの返答を怪しんだ雫が視線を鋭くする。ユノはティーカップを持ったまま視線を雫に向ける。
「ないわよ。『おつかい』行ってきて欲しいだけ。……ほかに質問は?」
「その『おつかい』とやらに行くだけなのになんでオレたちを軍属にする必要があるんだ? わざわざそんな面倒くさいことしなくてもいいだろうに」
ティーカップを口元に運ぶユノの手が止まった。
「……私もこの立場上、気軽に人にお願いできないの。貴方たちを軍人扱いすれば私からの命令ということで自由に動かせるの」
「つまり……。私用で動かせる駒としてオレたちを使うつもりなんだな?」
「……ま。そう思ってくれて構わないわよ」
ユノの手が再び動き出し、ティーカップに口を付ける。
「そう言われちまうとなんか気にくわねぇな」
カービーが不機嫌そうに腕を組んでユノを睨みつける。
「要は雑用係で、アンタのオモチャって事だろ? 俺らは自分たちだけでやってきたんだ。それをいまさら────」
「そんなに悪い話じゃないと思うけども」
カービーの言葉を遮り、ユノがそう言いながらネスに手を振って合図を出した。待ってましたと言わんばかりにネスは立ち上がると小走りで事務机まで駆け寄り、机の上から何かを取った。そして再び小走りでソファまで戻ってきた。
「ハイこれ! ……あれ? もう渡しちゃっていいのよね?」
「ええ。配ってちょうだい」
ユノにそう言われたネスは雫たちの前のテーブルに封筒を五つ置いた。
「一人ずつ貰ってね! 中身は同じだから!」
笑顔で雫たちにそういうネス。戸惑い気味の雫たち五人はお互いの顔を見あいながら恐る恐る封筒に手を伸ばす。
「……あん? なんだこりゃ」
一番早くに手を伸ばしたカービーが封筒の中をのぞきながら首を傾げる。
「……? どこかの紙幣ですかね?」
いままで静かに雫たちのやり取りを固唾を飲んで見守っていたソフィアがようやく口を開く。ソフィアが封筒から取り出したそれは言葉通りどこかの紙幣のようであった。
「これって……。『ルード』か!!」
雫が興味深そうに紙幣のようなものを観察している。さっきまでの警戒心の籠った瞳ではなく、子供のような好奇心に溢れた瞳をしていた。
「ええそうよ。それは『ルード』。私たち精霊が使うお金の単位よ。それの紙幣ね」
雫だけでなく、五人全員が興味深そうにルード紙幣を見ている。
「マーベルから教えてもらったことはあったけど、実物を見るのは初めてだ……」
雫が感慨深げにつぶやく。
「一、二、三、四、五……。五万────ルード? ぶんありますよ!!」
ソフィアが興奮しながら紙幣を数えている。
「黒川君! 一ルードって何円なんですか?」
「えっと確か……」
「今だとちょうど一円くらいね」
雫が答えるより先にネスが答える。
「つ、つ、つまり、五万円もあるんですか!? こんな大金、持ったことありませんよ!!」
ソフィアが驚いて目を丸くしている。
「ヴェジネさんちってお金持ちなんじゃ……」
「意外と庶民っぽいよねソフィアちゃん」
勝平とケインが冷静にツッコむ。
「感動するのはその辺でいいかしら」
ユノが仕切りなおすように咳ばらいをしてから話始める。
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