10
「やれやれ……。私は彼女じゃなくてバンテージと一戦交えたいんだけどね」
美智はそう言うといつの間にか握っていた日本刀を両手で構える。
「選り好みしてる場合かよ大佐!」
カービーはポケットから出してそのままにしていたガラス玉を手で握りつぶす。するとそこから淡い光が溢れ出て、巨大な剣の形を成した。
「オメェらも準備しろ!」
カービーがそう言い終わる頃には手元から光は消え去っており、巨大な大剣────『グレモール』が握られていた。
「出来れば穏便に済ませたかったんだけど……」
そう言いつつも勝平は足元にガラス玉のようなものを投げつけた。
するとそこから四つの光の塊が現れ、勝平の両腕、両肩にまとわりつく。そして光が弾けるように消え去ると勝平の両腕にはそれぞれ先端に巨大なスパイクの付いた鉄パイプのようなものが二つずつ、そして両肩にはまさしくキャノン砲と呼ぶにふさわしい外見をした筒が備わっていた。
「いくよ!」
そう言うと勝平は足をしっかりと地面に固定した。すると両肩のキャノン砲からレーザーのようなものが発射され、バンテージに向かって一直線に飛んでいった。
「当たるとでも思っているのか?」
バンテージは体を捻るようにその場でジャンプして攻撃を回避した。そのまま近くの建物の残骸跡に着地しようとする。
「いいねぇ、勝平! 言動と行動が一致してなくてサイコーだぜッ!」
だがそれより早く駆け出していたカービーがバンテージに迫る。
「喰らいやがれェッ!!」
カービーは大きく振りかぶったグレモールを着地しようとしていたバンテージめがけて横薙ぎで切りはらう。
「相変わらず突進的な攻撃しか出来ないのか貴様は」
グレモールがバンテージに当たる直前、バンテージは真横から迫っているグレモールの腹の部分に手を着き、跳馬をするようにその場で体を丸めて一回転をし、攻撃を回避した。
そのまま回転のエネルギーを利用してバンテージはカービーの顎を蹴り上げた。カービーが後ろに仰け反る。
「グウッ……!」
「ほら。今度は胴ががら空きだ」
地面に着地したバンテージは動きを止めずにむき出しになっているカービーの腹に鉄山靠を叩きこんだ。ガタイの良いカービーであったが、あっけなく吹き飛ばされる。
「グ────ッハ……」
「カービー君!」
後ろに回り込んでいた勝平が吹き飛ばされてきたカービーを自分の体で受け止める。
だが勢いを殺しきれず、勝平も巻き込まれる形で倒れこんだ。
「アハァハ!! ざまあないわね!!」
こちらも、美智に肉薄していたイーリスが巨大なハンマーを振り回していた。それを美智は冷静なまなざしで見切り、回避している。
「ちょお、皆さん!? まだオレっち準備出来てないって!」
ポケットの中からガラス玉を探すのに手間取っていたケイン。やっとのことで見つけたガラス玉を慌てて足で踏みつけて砕く。
「ほぉ。一人準備が出来ていないマヌケがいるな」
「うわぁお!?」
バンテージは慌てているケインに目を付け、持っていた長刀で斬りかかった。
「死ね」
バンテージの言葉と共に振り下ろされた刀がケインに当たる。
だが、聞こえたのは肉と骨を切る音ではなく、ガキンという金属がぶつかる音であった。
「あっぶなー……。セーフセーフ。シャムちゃん、サンキュー」
バンテージの刀はギリギリのところでバズーカのような巨大な銃によって受け止められていた。
ケインの神機、『シャム』の出現がギリギリで間に合ったようである。
「運がいいな、アルノード。だが、その重そうな物を持ってどこまで攻撃に耐えられる?」
そう言うとバンテージは凄まじい勢いで何度もケインに斬りかかった。ケインはなんとかシャムを振り回して攻撃を弾いている。
「ハァハァ……。バンテージちゃーん……。いい加減素顔見せてくれないかなぁ。絶対可愛いでしょ、君。……ハァハァ……」
「黙れ。私の名前を呼ぶな」
すでに息を切らしているケインであるが、バンテージに向かって軽口をたたく余裕はあるようだった。
だがバンテージはお構いなしといった様子で攻撃の手を緩めない。
そのとき
「ケイン君、伏せて!」
「ほいきた!」
「チッ……」
突然横から勝平が現れ、右腕の巨大なスパイクをバンテージに向かって突き出した。邪魔をされたバンテージは舌打ちをしながら勝平の攻撃を弾き、後ろにバックステップをする。
「サーンキュー、勝平。助かったぜい……」
「攻撃全部捌くのは流石だけど……。無理しないでねケイン君」
「いやあれはしょうがないっしょ……」
ケインが肩で息をしながらバンテージの方を向いた。
刀を構えなおしたバンテージは、まだだいぶスタミナにもまだ余裕があるように見えた。
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