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「ま、眩し……! ……って、あれ?」
どこか身に覚えのある目眩と酔いの気持ち悪さを感じて、ソフィアは瞑っていた目を静かに開けた。
「えっ、えっ……。な、なんですか、ここ……」
ソフィアの目の前の景色は先程までいた塔音学園の裏庭とは一変していた。
茶色。
ひたすらに茶色の地面が広がっていた。
『地面』と判断出来た理由は同じようにひたすら広大に青空が広がっており、空と地面の境界が出来ていたからである。
「さ、砂漠……?」
ソフィアの記憶の中にあるテレビで見た事のある砂漠そのままであった。人工物など何一つ無い、砂で出来た大地であった。
「また面倒なところに…」
ソフィアは声がした方向を向いた。そこには雫がおり、憎々しげに辺りを見渡していた。
「く、黒川くん! ここってもしかして────」
「じゃじゃーん! 私のお気に入りの世界にようこそなんだぜ!」
ソフィアの言葉を遮って、同じく近くにいたテトラが両手を広げながらそう言った。
「……異世界だよソフィアさん。アナタは2回目……いや、神霊世界を入れたら3回目の移動になるのか。もう慣れた?」
雫がテトラから目を離さずにソフィアに訊ねる。
「い、いえ。まだ全然……。……と、というか!」
まだ目眩は続いていたが、ソフィアはなんとか気をしっかり持って発言する。
「な、なんで私たち連れてこられたんですか!?」
「さあ? 目の前の連れてきた張本人に聞いてみれば?」
雫にぶっきらぼうにそう言われ、ソフィアはテトラを睨む。
その視線に気付いたテトラはどこか寂しそうにソフィアを見つめ返した。
「そんな目で見ないでくれなんだぜ……。結果的に騙すみたいなことになったのは悪かったと思ってるんだぜ」
「だったらあんなに親しげにしないでくださいよ! ……友達になれると思ったのに!」
騙された事がよっぽど悔しかったのか、ソフィアも悲しそうな瞳でテトラに噛み付く。
「……別に友達にはなれるんだぜ?」
「黒川君のことを殺そうとしてる人と友達にはなれません!」
ソフィアが語気を強めてそう言った。
「お、おお……。そんな嬉しい事を言ってくれるのかソフィアさん」
緊張は解いていないが雫は少し嬉しそうであった。
「私は殺そうとした事は1度もないんだけどなぁ」
口元をへの字口にしながらテトラが頭をポリポリと掻く。
「だってさっき黒川君がクロックナンバーっていうとこの副リーダーだって……!」
「うーん……。そうやって何でもかんでも雫の言う事を信じるのはどうかと思うんだぜ? 自分の考えをしっかり持たないといけないんだぜ」
「そ、それは……!」
もっともな言葉にソフィアは何も言い返せなかった。
思えばここ数日は雫達の言葉を全て信じ込んで行動していた。雫がソフィアに対して嘘をついてなんになるのかと言われればそれまでだが、自分で考えて行動していたかと言われると肯定出来なかった。
もっとも、好奇心に突き動かされて、という意味なら自分の意志と言えなくもないが。
「ソフィアさん。まともに相手しなくていいから。精神的に揺さぶりかけてるだけだよ」
ソフィアの心情を察知してか、雫がそう言葉をかける。
「ほらほら〜。そうやってちゃんと考える時間をあげないのはよくないぜ?」
「ハンッ。お前がそんな事言うのかよ。1年前のお前に今のお前を見せてやりたいな」
「そんな事言われてもなぁ。『1年前の私』と『今の私』は別人だぜ? 忘れちゃったものはしょうがないんだぜ」
テトラは誤魔化すように明後日の方向を見ながら口笛を吹いている。
「よ、よくわからないですけど……。この間の人よりは話が通じる……?」
ソフィアは警戒を続けたままであったが、目の前の精霊が攻撃的な人物ではないのかもしれないと思った。騙されたとはいえさっきまで世間話をし、今もこうして会話をしている。何日か前、初めて異世界渡航をしたときに襲ってきたあの包帯の精霊とは違うようであった。
「おっ? このあいだのっていうと、バンテージのことなんだぜ? なんかいきなり襲い掛かったみたいで悪かったんだぜ」
「……いやまあ、私は危害を加えられてないですけど……」
やはり、この精霊は好戦的ではないようにソフィアは感じた。そう言えばさっきもソフィアが睨んだら悲しそうな顔をしていたような気がする。
(本当にこのセイレイさんは良い人……?)
そんな事をソフィアは思い始めていた。
だが
「よーし、じゃあ世間話もこれくらいにしてそろそろ『遊ぶ』んだぜ!」
そう言ったテトラがポケットから見た目がマニュキュアのようなものを一つ取り出す。そしてキャップを捻った。
「えっ?」
ソフィアが驚いてテトラの手元を見る。一瞬だけマニュキュアのようなものが光ったと思ったら次の瞬間には全く違うものが握られていた。
「今日のおもちゃはこれなんだぜ!」
そう言ったテトラの手には一目で武器とわかるものが握られていた。ゴルフクラブのような持ち手がついた棒の先に、棘の付いた直径二十センチの球体がくっ付いていた。俗に言うモーニングスターであった。
「クソっ! やっぱりヤル気なんじゃないか!」
「キャッ!」
雫がソフィアの手を掴んで自分の傍に引き寄せる。そんな雫の反対の手にはなにやらガラス玉が握られていた。
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