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「へ? 何でですか?」
「いいから、早く!!」
鬼気迫る表情で言われては従わないわけにもいかず、ソフィアは慌てて雫の方に走って行った。
「な、なんなんですか黒川君……。そんなに慌てて」
雫の隣に来たソフィアが怪訝そうに雫を見る。そんな雫の視線はテトラに向けられていた。強く睨みつけている。
「ヨッス、雫! 久しぶりだぜ。元気だったか?」
テトラは相変わらずのニコニコ顔で雫に話しかける。
「……なんでここにいるんだ」
「そっちのが新しい仲間なんだろう? バンテージから貰った写真だけで探し出すのは苦労したぜ~」
「質問に答えてもらおうか、テトラ」
そう言うと雫はブレザーの上着の胸元から────拳銃を取り出してテトラに突き付けた。
「ちょ、黒川君!? ……おもちゃですよね? おもちゃですよね!?」
本物の銃など見たことがなかったソフィアであったが、雫の握りしめているそれがプラスチックではなく、金属で出来ていることは一目でわかった。わかっていたのだが、本物だと思いたくなかった。
「ソフィアさん、オレの後ろに来て。……なにもされてないよね?」
「は、はい……。お話して、飲み物奢ってもらったくらいですけど……」
「そ。ならよかった」
ソフィアは相変わらずニコニコしているテトラを見た。さっきまでの和やかな空間はどこに行ったのだろう。まさに一触即発な空気に変わっていた。
(こ、この人……。黒川君の敵だったんでしょうか……)
ソフィアはショックを受けていた。楽しくおしゃべりをしていた人物がまさか敵だったのかもしれないのだから。まんまと騙された自分もマヌケだが、騙してきた相手に対して怒りも確かに湧いてきた。
「ソフィア~。そんな目で見ないでくれだぜ? さっきまで楽しく過ごしてたじゃないか~」
そんな感情が目線に出ていたのか、見られていたテトラがそんなことを言う。
「ソフィアさん。コイツはクロックナンバーのメンバーだよ」
「クロックナンバー……?」
「ああ、そう言えば説明してなかったか……。ようはオレの命を狙ってる精霊のグループだよ」
「えっ? でも黒川君の心臓ってもう狙われなくなったんじゃ……?」
「そういう話だったはずなんだけどね。……だから今こうして本人に聞いてるんだけどさ」
雫は拳銃を構え直してテトラの頭を狙っている。にもかかわらずテトラは表情を崩していない。
「狙われなくなった? ……んん~。なんのことを言っているのかサッパリだぜ」
とぼけたように肩をすくめながらそんな事を言うテトラ。それを見て雫は舌打ちをする。
「ッチ……。お前だと演技なのかマジなのかわからん」
「あー、でもー……────」
雫の言葉を無視してテトラが話を続ける。
「『一週間後』くらいにそんな話が来るってのは聞いたような気がするぜ?」
テトラはニヤリと笑った。
「わ、私のこと、騙してたんですか!?」
今のやり取りで、テトラが確実に敵だということがわかったソフィアは語気を強めてそう言った。
「騙してなんかいないぜ。私は何も言ってなかったじゃないか」
「で、でも黒川君の友達って……」
「本当のことだぜ。なあ雫?」
「ヘッ。何が友達だ。ソフィアさん、コイツはクロックナンバーのナンバー二。つまり副長だよ」
「ふ、副長って……」
雫の命を狙っているグループの副長。つまりそれ相応の実力と立場があるということだろう。
「だーかーらー! 違うって言ってるんだぜ! 私は三番手か四番手! 副長はシルバーだって言ってるだろ!」
「そっちの事情なんて知るかよ。実質、シルバーのヤツが隊長じゃないか」
「お前それ、シルバーが聞いたらキレるんだぜ……」
納得していないのか首を振ってため息をつくテトラ。なにか深い事情があるようだった。
「……まあいいんだぜ。せっかく『人払いの神機』を使ったんだ。これからどうなるかは……、わかるよな?」
「あれ? そう言えば……」
ソフィアは辺りを見渡した。そう言えば昼時にもかかわらず中庭には自分たち以外の生徒がいない。そればかりか、窓から確認できる範囲の廊下にも生徒は歩いていなかった。
「ソフィアさん! 逃げて!」
「……へ?」
辺りを見渡していたせいで反応が遅れたソフィア。意識を雫の声に集中させたときにはすでに足元の地面が『光り輝いていた』。
「二名様ご案内、だぜ」
次の瞬間には三人の姿は中庭から消滅していた。
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