エピローグ

 ヤハトラの神殿に……一人の少女が佇んでいた。

 ヤハトラの巫女ネイアの娘、セイラだった。

 セイラの碧の瞳は、神殿の闇と……その向こうに微かに映る、祈り続ける女性の姿を捉えていた。


「……ミズナ」


 セイラが闇の向こうの娘に声をかける。


「ソータが……もうすぐ、帰ってくると言うておった。ベレッドの雫を集める旅を終えて……」

“……”

「母さまは……最近ずっと調べ物をしている。ソータが海を越えて旅立つためにはどうしたらよいか……と……」


 セイラは俯いた。


「わらわに神殿を任せてくれるようになったのは嬉しいが、ソータがすぐに旅立つのは淋しい……。ミズナもそう思わぬか?」


 そのとき……水那の瞳がうっすらと開いた。


「――え?」


 セイラは自分の目を疑った。

 水那の瞳が淡く青色に輝いている。そして――唇が微かに動いた。


“……つるぎ……十馬トーマ……”




「――えっ……」


 ベレッドの神殿の螺旋階段を登っていたソータの、足が止まる。

 ハッとしたように顔を上げ、ソータは思わず振り返った。壁の穴から、遠く離れたヤハトラの方角を見る。


 胸の中にある勾玉の欠片から……懐かしい声が聞こえた。

 ――十八年ぶりだった。


『――水那……!』


 ソータの声が、ジャスラの白い空に舞い上がり……溶けて消えた。




                        ~ Fin ~




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