3.ラティブについて聞かなくては
ハールのレッカの城に行くと、なぜかホムラが俺を出迎えた。
「おーっ、ソータ! よく来たな!」
「へっ? 何でホムラがここに? デーフィに戻ったんじゃなかったのか?」
ホムラは40歳近くなっていて言うなれば中年のおっさんなのだが、相変わらず豪快でパワフルだった。
海の仕事の引退なんて、まだまだ先かも知れない。
「セッカがソータはラティブに向かうって連絡を寄こしたからよ。俺も行こうと思って」
ホムラの肩にはサル顔の鳥オリガと、オリガの子供のカリガが乗っかっている。これでセッカと連絡をとったのだろう。
「何でまた……」
「あっ、ソータだ。いらっしゃい」
レッカの息子のエンカも姿を現した。エンカもすっかり大人になって、漁では中心になって頑張っているらしい。真っ黒に日焼けしていた。
……というか、二人並ぶと背がでかすぎて俺の小ささが際立つんだが……。
「ソータ、今度はラティブで雫を集める旅をするんだろ?」
「違うぞ。それもしないといけないが、まずは人助けだ」
「人助け?」
二人の後をついて居間に入ると、ゆったりと椅子に腰かけていたレッカが俺の姿に気づいて立ち上がった。
「お久しぶりです、ソータさん」
「久しぶり。前は本当に世話になったな」
俺は、最初にハールを巡って雫を集めていた。そのときはレッカの城でも休ませてもらったり食べさせてもらったりしていたから、レッカにはかなり世話になっている。
それ以来だから……確か、4年ぶりぐらいか。
そのとき、レッカの奥さんのキラミさんがお茶を持って現れた。
「あ、お久しぶりです。以前は本当にお世話になりました」
俺が頭を下げると、キラミさんはにっこり笑った。
「いえいえ。――それにしてもソータさん……今おいくつでしたっけ?」
「ん? ……27かな……」
「えーっ!」
エンカが大きい声を出してまじまじと俺を見た。
「俺よりもガキに見えるよ。っていうか、全然変わってない気がするんだけど! 化け物!?」
「……エンカ」
キラミさんがエンカにゴスッと拳骨を食らわした。
「言葉を選びなさい」
「イテテ……」
ははは……ここの家族、相変わらずだな。
俺は苦笑しながら
「ネイアによると『勾玉の加護』らしくて……」
とだけ答えた。
俺の体内にある勾玉が成長を少しゆっくりにしているらしい。
……まぁ、若いに越したことはないからな。
水那がずっと20歳のままなのに、俺だけ中年のおっさんになるのも嫌だったし。
何十年も経ってやっと救い出したはいいけど、年の差のせいで愛想尽かされたらどうしよう……とか、実はそんな変な心配もあったから、俺にとってはありがたいことだった。
「さて……ソータさん」
キラミさんが部屋を出て行くのを見送った後、レッカが俺の方に振り返った。
「ラティブに旅立つ前にどうしてもお話ししておかなければならないことがありまして、こうしてお呼び立てした次第です」
「いや、俺も聞いておきたいことがあったから」
「なあなあソータ、人助けってなんだ?」
エンカがあどけなく聞いてくる。
何と言うか……エンカは父のレッカより、叔父のホムラに似ているような気がするな。
まぁそれはいいとして、協力を仰ぎたいし、ちゃんと説明しないとな。
俺は三人に、アズマとシズルから聞いたことを話し始めた。
アズマとシズルはラティブの領主、ルフトの使用人の子供だったのだが、この使用人は二人が10歳の頃に亡くなってしまったらしい。
ルフト夫妻には子供がいなかったので、夫妻は双子を養女にして育ててくれたのだそうだ。
二人が14歳になった頃……ちょうど俺がヤハトラに来た頃にあたるらしいが、ルフトの奥さんが亡くなり、それと同時に双子のフェルティガが発現した。
本来なら双子はヤハトラに行くべきだったが、ルフトは美しく成長した双子を手放すのが惜しくなり、双子には
「ヤハトラに連れて行かれたフェルティガエは一生地下で働かされ、虐待されるのだ。わたしの元に隠れていなさい」
と嘘を教え、見つからないように二人を地下に閉じ込めたらしい。
双子も最初は、お義父さんが守ってくれてるんだ、と思っていたようだが、どんどん二人を見る目つきがおかしくなり、監視も厳しくなっていく。
そしてある日、ついにルフトが双子を拘束し、無理矢理襲いかかってきたそうだ。
双子が美しかったからなのか、フェルティガエの子供が欲しかったからなのかはわからない。
とにかく、双子は
そのときに匿ってくれたのが、ベラという女性だった。
ベラはレジェルという幼い娘とともに、領主屋敷の近くの崖の下にひっそりと暮らしていたらしい。
ベラは
ベラは透明な珠を大事そうに抱えていた。そしてその珠から俺がデーフィの祠に来たことを察し、俺にこの珠を渡さなければならないという話をしていたそうだ。
しかし娘がまだ小さいため、隠れ家から動けずにいたらしい。
ベラは二人にヤハトラに行くよう何度も説得したが、何を信じたらいいのか分からなくなった双子はどうしても首を縦に振らなかった。
そうして……双子の逃げた形跡を追ったルフトは、隠れ家への隠された道を発見し、ついに四人が見つかってしまう。
いくら
ベラは透明な珠の力を借りて双子を逃がしたが……ベラとレジェルは恐らくルフトに捕まってしまった、ということだった。
双子はこの一連の出来事の恐ろしさに加え、透明な珠の力をモロに浴びたことで記憶を失い……彷徨っている所を、カガリに拾われたそうだ。
そして二人の記憶の中に残っていた、『祠』『透明な珠』という言葉から、カガリはラティブの祠に辿り着いたという。
「ふーむ……」
話し終えると、レッカが腕を組んで深い溜息を漏らした。
「双子の記憶からもう8年も経っているから、今のルフトの状況を知りたかったんだが……」
「噂では、それまでラティブの流通を管理していたルフトが一方的に高圧的な要求ばかりするようになったらしく、民の反感を買っているということです」
レッカは溜息をついた。
「僕がソータさんに話しておきたかったことというのも、実はこれで……。どうやら反乱軍が形成されつつあるという話ですね」
「そっか……そんなにマズい状況なんだな」
前の旅ではすぐに進路を北に取ったから、全然わからなかった。ラティブの領主屋敷は、最も西にあるからな。
でも、闇はラティブの祠で回収できているはずだし、その場所ならデーフィの祠でも回収できるだろう。
闇が蔓延しているという訳ではないはずなんだが……。
いや、問題なのは、やはりその透明の珠――ジャスラの涙だろう。
どういう経緯でベラが持っていたのかは分からないが、ルフトの手に渡ってしまったんだろうか。
……でも待てよ? ジャスラの涙はフェルティガエにしか扱えない。
ベラを脅迫して使わせているとしても、ベラのフェルティガは
ひょっとして、前にカガリがしたように闇を悪用しようとしているのか?
しかし、ジャスラの涙は勾玉の力を込めなければ闇を操ることはできない。
巫女であるネイアすら知らなかった五つ目のジャスラの涙に、勾玉の力が宿る訳がない。
「――とにかく、行ってみるか」
ここで考えていてもわからない。まず、現状を見てみないと。
「そうですね。他国のことですが、ソータさんが向かわれるのならハールとしても無視できません。ですから、ホムラとエンカを連れて行っていただきたいと思いまして」
「え……いいのか?」
「おう! 任せとけ!」
「ホムラだけだと暴走するかもしれないからね。俺も行くよ」
ホムラがどんと自分の胸を叩く横で、エンカがニッと笑った。
「ありがとう。……よろしく頼む」
俺が頭を下げるとレッカがにっこり笑って俺に頭を下げた。
「こちらこそ、弟と息子をよろしくお願いします。護衛としては優秀だと思いますが、何しろ……何をするか分からない人たちなのでね」
レッカがそう言うと、ホムラとエンカが「大丈夫だって!」と呑気に笑っていた。
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