プロローグ

 ジャスラの最も西に、険しい山々と鬱蒼と生い茂る樹木、広大な海を背景とした、大きな屋敷があった。

 ――ラティブの領主、ルフトの屋敷だった。


 そしてその地下のある一室には、一人の女性と二人の娘が閉じ込められていた。


「……母さま」


 長女のレジェルが心配そうに母に寄り添う。


「もう……フェルティガを使うのはやめて」

「駄目よ……」


 母のベラがゆっくりと首を横に振った。

 その身体は傷だらけで……座っているのもやっとな状態だった。


「何があっても……あなただけは守らなくては」

「でも、このままじゃ、母さまが……」


 レジェルが泣きそうになっている。幼い妹のミジェルも、ぐずりながら母に纏わりついている。


「あなたが、発現しさえすれば……これが……」


 ベラが震える手で懐から透明な珠を取り出した。


「きっと……力になる」

「だって、私には……」


 何の力もないかもしれないのだ、とレジェルは言いかけたが、そのことだけを気力に今まで生きている母には、何も言えなかった。

 ベラは珠を再び懐にしまい、目をつむった。


「そして……これをあの方に、渡さなければ……」

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