朱色の鯨

葵流星

朱色の鯨

今日、友達が死んだ。

昨日、彼は顔色が良くなかった。

それに、なぜか手に包帯を巻いていて痛々しかった。

彼は、僕の通う大学の校舎から飛び降りた。

僕と彼は最近忙しくて大学で会うことは少なくなっていた。

それも、彼が死ぬ約一か月前からだった。

彼は、バイトをしていたのでそのせいだと思っていた。

バイトの愚痴を言うことは多く、とりわけ年上のバイト従業員が心底嫌いだった。

けれど、そのバイト従業員は無断でバイトを休み橋の下で死んだと言っていた。

彼は、そのことを心なしか少し嬉しそうに話していた。

バイト先にも警察がやってきて彼女のことを聞きにきて実際に話したと言っていた。

でも、そんな彼がなぜ…。

確かに人の不幸を笑ったがそこまでひどくはないはずだった。

もとより、橋の下で死んでいた人がそういう人だったからだ。

警察は、おそらくまた彼のバイト先を訪ねるだろう。

そう思い、帰り道によって見たがまるで友人の死などないように店は営業していた。

ネットサイトの評価は橋の下で死んだ彼女のことについても書かれておらず星1のレビューだけが少しあるくらいだった。

今度、死ぬのは店長だろうか?

そんな不謹慎なことを考えながら求人ポスターの貼られている店内に入る。

あまり掃除の行き届いていない店内だと彼は言っていたが客として店に入る分には問題がなかった。

特に用もなく店内を歩いて出ていった。

まだ、警察は来ていなかった。

それもそのはずで、彼は飛び降りた後すぐに救急車に運ばれて病院へと向かった。

それから、まだ数時間である。

人だかりの中、友人を確認した私は何とも言えないような気分で彼を見送った。

実のところ彼が、死んだのかはわからない。

けれど、死んでしまったような気がした。

店を出た私は借りているアパートへと向かった。

途中、何度も通話アプリを確認するがそこに彼からのメッセージは来ておらず、憂鬱だった。

友人は他にも何人かいるが事故後彼らと少し話したのが最後だった。

もしかしたら、誰かに殺されたのではと…。

けれど、そんな私には調べる手段が無かった。

とても彼が自殺するとは思えない。

何度も反芻するがやはり事実は変わらない。

疲れた私は気分をそらすためにゲームを始めた。

主人公には、「「はい」」、「「いいえ」」の2択しかないのにどんな会話をしているのだろうかと?

もはや、文を読む気を無くした私は新しいゲームを探すことにした。

とはいえ、新作情報はあまり無かった。

通販サイトのオススメ商品には合コンで使える王様ゲームの方法とか、そのような物がおすすめされていた。

ぶっちゃけおすすめされた漫画のサンプル見たが全然面白くなかった。

しばらく、動画サイトをはしごしたが良いものはなく掲示板のスレのまとめを見ていた。

サイトの広告が邪魔だったりいろいろなサイトに飛ばされるたびページを戻りながら面白いのを探していた。

何を思ったのか途中から動画サイトの実況者のスレに飛び、気がついたらホラー系のまとめに行っていた。

とりあえず、戻ろうかと思ったその時ふと目に留まったバナーがあった。


「「恐怖 自殺者 急増 命令 実行 ゲーム」」


というものだった。というよりもあまり覚えていなかった。


ページには何日、何するというだけのが書いてあってどれも簡単そうに見えた。

この命令を実行するのがこのゲームのプレイヤーの役目だった。

命令はゲームマスターから午後23時に個人個人にそれぞれ発行されるのだと言う。私はプレイヤー募集中のリンクに触り、ゲームへと参加した。

リンクのページはSNSアプリですでにアカウントを持っていた私は案内されるままゲームページを開いた。

ゲームの同意をためらいもなく押して、ゲーム画面へと着いたがそこは真っ暗だった。

すると、白い文字が表示された。


「貴様は負け組だ」


「出来損ない」


「貴様は醜い」


「太っている」


そう、連続で表示された。

私はイラつきいつからあったのか文字入力ができるところに「お前のが方が太っているだろうゴミメガネ」と返信した。


「気持ち悪い」


「嫌われいる」


「頭が悪い」


「どこにも居場所がない」


「産まれなければ良かったのに」


「死んでしまえばいいのに」


「消えろ」


「お前なんか生きている価値がないんだよ」


「邪魔なんだよ」


「なんだ、まともに会話もできないのか?」


「もう話しかけるなよ」


なぜか、ノートパソコンの画面にはありもしないそんな文字が見えたような気がした。


小一時間ほどこういったやり取りしていたのだろう。

画面に文字があるが動かなかった。


「この世界には救いはない、だが死後の世界には選ばれた者だけが生きていける世界がある。」


「しかし、それには正しい方法があり私はそれを知っている」


「選ばれた者になり世界へと行きたいですか?」


「はい」


「私に従いますか?」


「はい」


「赤いボールペンで右手のひらに7f46と刻み写真にとり私に送りなさい」


「はい」


「命令 午前4時に起き、映画シャインを見なさい」


「はい」


僕は赤いボールペンで7f46と書き、写真を取り管理人と思われる人に送った。

午前4時、僕は管理人の言うとおりに映画を見た。

次の日から、命令が届くようになり専用のアプリをインストールした。


「命令 大鷲製薬のエナジードリンクを1本飲め」


「命令 冷たい水を身体にかけ10分耐える」


「命令 裸になり鏡に背を向けて10分その場に立つ」


「命令 RTYPEを3時間連続でプレイする」


「命令 右目を開け机の上に針をおき、10分以上見つめる」


「命令 ゴキブリの形を黒い折り紙で指定する方法で13匹作る」


初めてから、8回目の命令だった。

「命令 ボールペンを割り、中の赤いインクを左腕にかける」

そういうのだった。

アプリを閉じようとすると音が鳴り、スマートフォンの画面に目を向けた。


「この世界には迷える人が居る」


「しかし、私一人では救えない」


「手伝って欲しい」


「はい」


「あなたは選ばれし者である可能性が高い、あなたは命令をすることができる権利を与える。ただし、まだ1回だけだ。そして、この命令は正しくなければならない。」


「命令 これから命令を一日に一つ出す」


「はい 命令 朝の4時におき、13日の金曜日を見る」


「命令 黒いボールペンで死と50回白い紙に書く」


「はい 命令 太幸製菓の激辛チップスを飲む」


「命令 部屋で横になり天井を30分見つめる」


「はい 命令 裸になり10分座禅する」


「命令 どこかの屋上に上る」


「はい 命令 飲み物を4時間飲まない」


「命令 手に彫刻刀で鯨の形を左腕に刻む」


「はい 命令 女子に話しかけ怒らせる」


朝起きると左腕がなぜな痛かった。

けれど…楽しかった。

左腕には鯨があった。


「命令 DDLCをクリアするまでプレイする」


「はい 命令 裸になり鏡と向かい合い笑う」


「命令 この歌を覚える」


「はい 命令 体の毛を剃る」


「命令 命令する権利を失うことを宣言する」


「はい 私は命令する権利を失いました」


僕は命令する権利を失った。

少し寂しかった。


「あなたは命令を失いました。しかし、命令に従いました。あなたには勇気があります。これからは私に従いなさい」


「はい」


「命令 鬱夫の恋をクリアするまでプレイする」


「はい」


「命令 今日は部屋で裸になり生活しなさい。食事はしてはなりません。」


「はい」


「命令 宙に右手で死と左手で自由と3時間書き続けなさい」


「はい」


「命令 次の命令まで起きていなさい」


「はい」


「命令 屋上に上りなさい」


「はい」


「命令 ホームセンターで紐を買いなさい」


「はい」


「命令 新しい靴を買いなさい」


「はい」


「命令 新しい服を買いなさい」


「はい」


「命令 要らない物を捨てなさい」


「はい」


「命令 午前5時に映画リングを見なさい」


「はい」


「命令 リンクのサイトで動画を見なさい


「はい」


「命令 次の言葉を聞きなさい」


「はい」


「あなたは選ばれました。しかし、まだです。あなたは24日後に死ぬことであの世界へと行けます。命令をやり遂げなさい」


「はい」


「命令 朝4時20分におき、線路へ向かう。」


「はい」


怖くなった私は家を飛び出し他の県で写真を撮った。

アパート、大学、実家からも離れているそんな場所だった。

ふと、誰かが居るような気がした。


「命令 次の命令まで誰とも交流しない」


「はい」


「命令 自分は鯨だと誓う」


「はい 自分は鯨です」


「鯨は傷ついていた、あなたはそのあの世界で鯨を癒すことで迎え入れられる。あなたは朱色に染まりなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 朝4時におき、この映像を見なさい。身体をカッターナイフで一回切りつけなさい」


「はい」


「命令 高いところから飛び降り、命を捧げなさい」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朱色の鯨 葵流星 @AoiRyusei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る