モグライダー Zeus

MCまいまいちー

第1話 丸亀製麺

男は地下奥深くに住んでいる。

その深さは100メートルにもなるだろうか。

地震が来ても大丈夫だ。


所がこの部屋はどう見ても地上60階建の最上階のセレブマンションにしか見えない。

窓は開く事は出来ず、厳密に言えば窓の様な所は高精度なディスプレイになっているのだ。


ある時は高層マンション、

ある時は砂漠のど真ん中、

ある時はアマゾンの奥地になるわけだ。


一度、東京のスクランブル交差点にした事があるが、あれは最悪だった。


この部屋には男に絶対的に忠実な家政婦がいる。メイドじゃなく家政婦である。

つまり、少し歳をとっている。

いや、歳をとっているという表現はおかしい。

何故ならば彼女はアンドロイドなのだから。


彼女を山田さんと呼んでいる。


本当ならばもっと若くて、信用しきれないくらいの美人でも良いのだが、山田さんの奥ゆかしい色気が変にリアルに感じてしまうのだ。

そう、山田さんは男の性欲処理をもこなすのである。

その場合男にとって、精神が赤ん坊になれる様な存在がベストなのである。


山田さんは電気により動き、3時間の急速充電により満充電となり、稼働状況にもよるがおよそ72時間の連続稼働が出来る。


他にはゴールデンレトリーバの雌犬がいる。

非常に賢く、また良く気がつき、男を完全なるボスとして認識している。

この犬はれっきとした犬であり、アンドロイドではない。

名前はジョディ。


男は彼らのお陰で寂しい思いをした事がない。


地下駐車場は、およそ一人が使うとは思えないほどの広さだ。

色々な車やバイク、自転車、その他の乗り物がある。


しかし、いつも男が乗るのは日本製の400cc、アメリカンバイクである。

それ程、体の大きくない男にはこの位のサイズ感が最も適しており、無理感がない。

大型バイクも、免許もあるのだが金銭的にも制限的にも縛りのない男には無理をして、足がつかないバイクを無理して乗るマインドにならないのだ。


男はヘルメットを被りバイクにまたがり、バイクを巨大なゴンドラに乗せた。

自動でゴンドラは高速に動き、近くの高級ショップビルの地下駐車場にリンクした。

この経路が存在している事はオーナーさえ知らない。

正に隠し通路である。


男は側から見るとごく普通に見える。

服装も腕時計もバカ高いものは何一つない。

それは車やバイク、自転車も同じだ。


男はよく晴れた気持ちの良い日差しの中の道路をバイクで走る。

特に目的など無い。

ただ走らせているだけだ。


バイクじゃなくて、ジムニーでジョディと出かければ良かったかな。

帰りはジョディの不満が爆発するだろう。


男は丸亀製麺が好きである。

吉野家も好きだが、今の気分はうどんなのである。

所が丸亀製麺はどこも人気で並ぶのが常である。

並ぶくらいストレスでも何でもないのだが、世の中色んなサービスがあり、男も丸亀製麺好きもあって興味本位で会員になってしまったのである。


丸亀製麺特別店会員


男は色んな会員証をもっているのだが、常に持っているiPhone XS Maxに登録しており、会員証そのものは持たない。


男はおもむろにビジネスビルの玄関口にバイクをつけた。

何だこいつ?の声が周りから複数人聴こえて来そうだ。

受付嬢にiPhoneで丸亀製麺特別店会員証を表示し、それを見せ、同時にバイクのキーを渡した。

受付嬢は手慣れた感じにスピーディにどこかへ電話する。

若い警備員がすっ飛んできて、受付嬢からキーを貰いバイクをどこかへやった。


男は役員用エレベーターの前に立つ。

周りからは、こんな成りの奴がなんでこんな所に立ってんだ?田舎者で間違えてるのか?的な目で男をジロジロ見る。


こんな面倒くさいなら普通に丸亀行った方が良かったかな。

男の脳裏に一瞬よぎるが、エレベーターのドアはすぐに開いたのでかき消された。


役員用エレベーターは役員室階に一足飛びに行くだけではなく、実はあるしかけが存在するのである。


秘密の地下3階。


そう、もう勘の良い読者の方は気づいただろう。

真のVIPとは秘密の地下が好きなんである。

その為にモグラとかモーラーと呼ばれているのである。


秘密の地下3階ボタンを押して、少し長めに下り、ドアが開いた。


裸の美女が出迎えてくれる。

そう、ここは会員制のサウナクラブなのだ。


客は基本的に真っ裸でハゲてデブった醜い姿を前も隠さずうろついている。


ロッカーに案内されると、さっきの受付嬢が化粧を直し、やはり真っ裸でやってきた。

『大野さん、今日も私、指名って事でいい?』

『ああ、そのつもりで来たんだ』


男の名前は大野でも何でもないが、周りにはそう言う事にしている。

男は周りのおっさん達同様、嬢に手を引かれて大浴場や、サウナ、各種変わり種風呂を周る。


男のパターンは大浴場にゆっくり入りあったまり、嬢に頭や体を洗ってもらい、リラックス泡風呂コーナーで嬢に首や肩をマッサージして貰いながらゆったりとしたR&Bを聞いて時間を潰すのが常だ。

本来なら彼女は嬢では無い。

あくまでも受付が本職だ。

しかし、ある日、男がめちゃくちゃに酔ってしまい、非常にピンチだった。

そこを助けてくれたのが彼女なのだ。

彼女は非常に美人で背も高くモデルの様だが、体は全身傷だらけなのだ。

彼女は親からの虐待によって施設に引き取られた経緯を持つ。

だが、彼女の詳しい話しは、また今度の機会としよう。


彼女の名前は樹里と言った。

樹里はマッサージするのをとうに飽きて、横に寄り添ってお互いの体や足やらの感触を味わっていた。


『ねえ、樹里、うどん食べない?』

『昼ごはんもう食べちゃった。これ以上食べたら太っちゃうよ?いいの?』

『樹里なら100貫デブでもいいよ笑』

『えー、なにそれー笑』


歳は相当離れているだろう。が男は樹里を愛してるし、樹里も男を愛していた。


真に愛してる故に結婚しないし、この距離を保っているのである。

男にも樹里にも一人の時間が必要なのである。


二人は浴衣に着替えてキャッキャしながら、冷やしとろたまうどんを食べたのであった。


バイクを走らせ、信号待ちの時、まるで新海誠監督のアニメ映画の様な綺麗な夕焼けが広がった。

首筋に樹里の匂いが残っている。


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