恵憂の恥ずかしさ


 失敗した。お兄ちゃんに好きになってもらいたくて。告白したのはまだいい。

 

 でもキスは。


 もうまとも人お兄ちゃんの顔、見られないよ……。


 そうやって部屋に引きこもってたらお母さんが来た。めっちゃ怒ってた。

 事情を話したら、深い溜め息をついて

「引きこもってても辛いだけよ」

って1言だけ言って私のことは諦めてくれた。


 部屋で悶々と考える。恥ずかしくてベッドにダイブする。枕に向かって「にゃーーー」って叫ぶ。

 でも恥ずかしさは消えない。むしろ増していく。ファーストキスがお兄ちゃんて、かなりブラコンだよね。お兄ちゃんは初めてだったのかな? そこを考えると胸がもやもやする。12歳だもん。好きな人くらいいるよね。でも引っ越してきたからその人ともお別れになっちゃたんだろうな。


 お兄ちゃんが他の人を好きなんて考えたくない。


 だから1歩踏み出してみよう。


 リビングに降りていく。お母さんとお兄ちゃんの話し声が聞こえる。

 なんてバカなことをしてしまったのだろう。お兄ちゃんが我が家に来て初日なのに、お話もしなかったなんて。そのためにお母さんは食事の時間まで決めてくれたのに。

 恥ずかしくてこっそりリビングに入る。もちろんお母さんもお兄ちゃんも気がつくけど。でもやっぱり恥ずかしい。

 顔を上げられなくて下を向いたまま、でも意地でお兄ちゃんの隣に座る。お兄ちゃんの隣は譲りたくない。

 そしたらお兄ちゃんが、ぽんぽんって頭を叩いてからさらっと撫でてくれた。

 それが本当に嬉しくて。私の顔を見ていたお母さんがにやにやしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る