霊能力者紅倉美姫5 四角い土地

岳石祭人

前章 ある雪の日

 一月なかば。しばらくぶりに雪が降っていた。

 住宅街の一角にぽっかりと四角い空き地ができていた。周りを木の杭とロープが囲み、「危険ですから入らないでください」と板切れがぶら下がっている。

 近所のスーパーへ買い物に行くため毎日その前の道を通る主婦が、その空き地を眺めて突っ立っている学生服の男の子に目を止めた。

 ぼさぼさとけっこうな雪が降っているのに彼は傘も差さず、黒い髪の毛と学生服の肩にふさふさと雪を積もらせていた。

「父さん。僕はあなたを許すことができるだろうか?」

 少年……高校生ではなくまだ中学生のようだ……は、我知らず呟き、歩いてきた主婦の怪訝な視線に気付くときびすを返して歩き去った。

 主婦は空き地を眺めた。雪の積もってきた土にまだ重機の足跡が残っていた。つい一週間前までここには一軒の立派な家が建っていた。周りの住宅から半軒分広い敷地にずいぶん立派な塀が巡り、庭には植木職人に手入れされた立派な松の木が生えていた。記憶が定かではないが建ってからまだそれほどの年数は経っていなかったと思う。

 何故家主がこの家を手放して更地にしてしまったのか、別の町内からこの道を通るだけのこの主婦は知らなかった。

 近所ではその事情は知れ渡っていたのだけれど。

 このご時世、事業に失敗したかリストラでローンが払えなくなったか、そんなところだろう、気の毒に。と、主婦は大股でずいぶん先へ行ってしまった少年の後ろ姿を見送った。ますますぼさぼさと降ってきた雪が少年の姿を薄くおぼろにしていって、消し去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る