第七章:兄と妹と、姉と妹と/01
第七章:兄と妹と、姉と妹と
何の前触れもなく、瑛士たちとアールクヴィストたちの間に突然転がってきた数個のスモーク・グレネード。そこから吹き出した白煙は瞬く間にパーティ会場全体を包み込み、とすれば煙に視界が奪われた会場に木霊するのは客たちの悲鳴だ。
「今が好機……!」
そんな煙に包まれた、視界の覚束ないパーティ会場の中で、瑛士は誰かに手を引かれていた。
「遥なのか……!?」
自分の手を引く、肩の出た青いパーティドレス姿の少女がコクリと無言で頷き返す。
瑛士の手を引いていたのは、他でもない長月遥だった。とすると、何処からか飛んで来たスモーク・グレネードは彼女が投げ込んだ物と見るべきか。
さっき逢った時はストレートロングの金髪だった遥、今はその金髪……ウィッグ、つまりはカツラだ。それはもう邪魔になるからと脱ぎ捨ててしまっていて、彼女本来の透き通る白銀のショートカットの髪が露わになっている。
「急ぎましょう、瑛士!」
「あ、ああ……!! 行くぞ、玲奈!!」
「…………あ、うん。マスター……」
手を離した遥に言われ、瑛士は頷き。とすれば傍らに立ち尽くしていた――――未だに混乱したままの玲奈の手を、今度は自分が引いて駆け出していく。
「逃げるな、ジークルーネっ!!」
とすれば、聞こえてくるのは銃声と叫び声。煙の向こう側からシュヴェルトライテがSFP9を……視界がほぼゼロの中、牽制程度に撃ちまくってきていた。
「嫌だね! 三十六計逃げるに如かず、だ!!」
それに対し、瑛士も右手で玲奈の手を引いて走りつつ……後方に向けた左手で1911をやたらめったらに撃ちまくって応戦。互いに当たりっこない牽制射撃、言い方を変えれば無駄撃ちを交わしながら、玲奈の手を引く瑛士は遥の先導で駆けていく。
「――――逃がしはせんよ」
だが、低い声で呟きながら、何者かが煙幕を超えてこちらに飛び込んできた。
「チッ……!」
飛んで来たのは、例の奇妙な長髪男だった。
長髪男は長い白銀の髪を靡かせながら、煙の向こうより現れて。そうすれば陣羽織のような藍色のロングコートの懐から短刀を抜刀し、右手で逆手に握り締めたそれで瑛士たちに斬り掛かろうとしてくる。
立ち止まった瑛士は舌を打ちつつ、咄嗟に玲奈を自分の背中に隠し。左手の1911を構え、長髪男に応戦しようとしたのだが――――。
「やらせない!!」
――――しかし、男と同様に短刀を抜いた遥が瑛士の前に躍り出て、飛び込んで来た長髪男の短刀と刃を激突させ、斬り結ぶ。
「瑛士、此処は私がっ!!」
「あ、ああ……! 遥、後は頼んだ!!」
正直に言ってしまえば、彼女に頼りっ放しになりたくない気持ちはある。
だが……今の瑛士は、まるで戦えない玲奈を抱えているのだ。玲奈の混乱っぷりは相当なものらしく、派手なガンファイアの応酬を経た今でも、その無表情な顔は何処か不安げに揺れていた。文字通りの放心状態だ。
これでは戦うに戦えない。そんな玲奈のこともあるからと、瑛士は素直にこの場を遥に任せ、自分は手を引くことにしていた。
「――――ほう、やはり先程の奇妙な女は
「兄さん……
白煙立ち込めるパーティ会場の大混乱の中、放心状態の玲奈を連れた瑛士が全速力で離脱していく。
そんな二人の気配を背中の向こう側に感じながら、遥は目の前の長髪男と短刀同士で斬り結ぶ。
不敵な笑みを湛えた、自らと同じ銀色の髪を靡かせるその男――――
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