第五章:血の繋がりは祝福か、或いは足枷たる呪いか/04
「――――二人とも、僕を置いて何処に行ってたの」
それから少しして瑛士たちは蒼真と別れ、ひとつ下の二階フロア……自宅へと戻っていったのだが。玄関ドアを開けて部屋に戻るや否や、帰ってきた二人をじっと見つめる、膨れっ面の玲奈に出迎えられていた。
「ひどい。出て行くならせめてご飯は用意していって欲しかった。おかげで僕、お腹ぺこぺこ」
「あー……すまん玲奈」
どうやら、彼女はお腹が空いていたようだ。そういえば朝食を作っていってやるのをすっかり忘れていた。それは膨れっ面になって出迎えられて当然だ。
瑛士は悪いと詫びると、そのまま靴を脱いで家に上がり。遥にちょっと待っててくれと言ってからキッチンに立つと、手早く三人分の朝食を
瑛士と遥が帰ってきてから数十分後、ダイニング・テーブルに並ぶ朝食は……本日は和風の献立だ。白米があり味噌汁があり、サッと作っただし巻き卵に焼き鮭にといった、極々ありふれたメニュー。それが三人分、食卓に並んでいた。
「はむはむ」
「玲奈、美味いか?」
「うん。美味しいよ、マスター」
「なら良し」
「……本当に美味しいです。瑛士は料理がお上手なんですね」
「遥も気に入ってくれたようで何よりだ。今じゃ料理は半分趣味みたいなモンだからな」
「そうでしたか。私も料理を作るのはそれなりに好きです。宜しければ今度、何か私に教えて頂けませんか?」
「ん? 構わねえよそれぐらい。何なら逆に俺が遥に教えて欲しいぐらいだ」
「私で宜しければ、是非とも」
食卓を囲む三人、配置的には玲奈と遥が横並びになっていて、その対面に瑛士が一人で座っているといった感じだ。
そんな位置関係で朝食に箸を付ける三人が、和やかな会話を交わす。
玲奈はいつものように無表情のまま、でも僅かに嬉しそうな色を滲ませた顔で箸を動かしていて。遥も遥で薄く笑みを浮かべながら、目の前の食事に手を付けてくれている。
どうやら二人とも、今日の朝食には満足してくれたようだ。玲奈はさておき、初見の遥にもこれだけ喜んで貰えれば、瑛士としても作り甲斐があるというもの。夕食はどんなものを振る舞ってやろうか……と、今から思案に耽り始めてしまうぐらいだ。
「…………なあ遥、変な質問しても良いか?」
そうして三人で食卓を囲む中、瑛士はふとした折にある疑問を思い浮かべ。それを問うても良いかと、対面に座る遥に何気ない調子で訊いてみる。
「? 私に答えられることでしたら、構いませんが」
「良いなら聞かせて欲しいんだが」
「何を、でしょうか」
「あー……その、ニンジャって具体的にどんな武器を使うんだ?」
瑛士がそんな疑問を抱くのも、至極尤もな話だった。
遥が宗賀衆のニンジャと言われても、そもそも現実のニンジャがどんな武器を使って戦うのかが全く分からない。想像も出来ない。よくあるニンジャのように刀とか手裏剣とかを使って戦うのか、はたまた現代的な銃火器の類で戦うのか。それとも、もっと奇妙奇天烈で珍妙な忍法でも駆使するのか……全く想像できないのだ。
「私たちの武器、ですか」
質問された遥は、顎に手を当てて小さく唸ると、少しの間を置いてから瑛士の問いにこう答えてくれる。
「武器といっても、私たちは忍ですから……そこまで選り好みは致しません。
ただ例を挙げるとすれば、伝統的な忍者刀に
「カタナに手裏剣か。……なんつーか、イメージ通り過ぎて逆に拍子抜けするな」
「ふふっ、そうでしょうね」
一周回って意外そうな反応を見せる瑛士に、遥はクスッと笑み。そうしてから更に言葉を続けていく。
「勿論、瑛士や玲奈が使い慣れているような銃火器の類も使います。我々宗賀衆は冷戦時代に東側への潜入任務を主任務としていましたから……その頃の名残で、東側の兵器を基礎として修練を積みますね」
「なるほどな……」
「それと……少し余談ですが、宗賀衆の刀には高周波振動ユニットが装備されています」
「高周波、振動って?」
「つまりだ、宗賀の刀はSFとかでよく見るヴァイブロ・ブレードの類ってことか?」
意味が分からないといった様子で首を傾げる玲奈に続き、瑛士が訊き返すと。すると遥は「概ね、その解釈で問題ないかと」と肯定の意を返してくれる。
――――高周波振動刀。
英語で言うのなら、瑛士が言った通りヴァイブロ・ブレードだ。
これは書いて字のまま、振動する刀のことで。肉眼では捉えきれないほどの超高速で微細振動する刃は……普通では考えられないほどの切れ味と、それに伴う威力がある。SF映画やゲームなんかではよく見かける設定だ。それこそ、ロボットアニメに登場する実体剣の常套句と言ってもいい。
とはいえ、存在そのものは決してSFではない。対人戦闘用の刀剣類ではないが……医療目的だとハーモニック・スカルペル、超音波振動メスが実際に存在しているし、それ以外にも超音波振動の用途は結構多いのだ。
その超音波振動を刀身に発生させる為のユニットを組み込んだ日本刀、ないしは忍者刀の類が……宗賀衆のニンジャに与えられる刀なのだろう。
その切れ味と威力は、普通の日本刀の比ではないはず。一度その威力を直にお目に掛かってみたいものだ……と、瑛士は内心で何気なく思ってしまっていた。
「昔ながらの忍術だけでは、とても現代戦には対応しきれません。かといって、現代兵器に傾倒しすぎても何かと不便が多い。
…………故に我々は伝統的な忍術と、そして現代技術の双方を効果的に使いこなす必要があります。それを可能としたが故に、我らは忍として今も尚、こうして生き長らえているのです」
「なるほどな……ところで遥、もうひとつ訊いてもいいか?」
「何でしょうか?」
「影分身って……ひょっとして出来たりする?」
「…………無茶言わないでください」
「ですよねー」
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