第五章:血の繋がりは祝福か、或いは足枷たる呪いか/02

 遥を連れて部屋を出た瑛士は、ひとつ上の三階フロアへ。その三階フロアの扉をいつものようにノックすると、少しの間を置いてから扉が内側から開かれて。半開きにした扉から蒼真が顔を出す。

「何でござるか瑛士氏、こんな朝も早くから……」

 出てきた蒼真はどうやら徹夜明けらしく、眼の下に濃い隈を作る大変グロッキーな顔色だった。心なしか顔がやつれているような気もするし、声には完全に疲れが滲み出てしまっている。

 まあ、蒼真が徹夜をするのはいつものことだ。文字通り日常茶飯事。彼の生活には基本的に昼も夜もない。

 そんな風に、今日も今日とて徹夜明けの超絶グロッキーな面持ちで顔を出した蒼真だったが――――しかし、来客たる瑛士が連れたもう一人の見慣れぬ少女。彼の傍らに控えた遥を一目見るなり、蒼真は血走らせた眼をクッと見開いた。

「瑛士氏、瑛士氏。こちらの大変可愛らしいロリっ……もとい、小柄で大変キュートなこの御仁ごじんは一体どなたでござろうか。まさか瑛士氏のお知り合いでござるか。羨ましいでござる、羨まけしからんでござる。詳細希望でござるよ」

「落ち着け蒼真、マジで一旦落ち着け」

 とすれば、蒼真は物凄い食い気味で問うてくるから、流石に戸惑った瑛士がひとまず彼を宥める。

 完全に興奮気味な蒼真をどうにか宥めてから、瑛士はこほんと咳払いをし。改めて遥を彼に紹介した。

「ババアが呼び寄せた、宗賀衆とやらのニンジャだ。これから先、例の『インディゴ・ワン』に関しての調査に協力してくれることになった」

「……長月遥です。以後、お見知りおきを。して、貴方は――――っ!?」

 瑛士の紹介の後、遥も彼の横で引き続き蒼真に自己紹介をするのだが――――しかし、蒼真がその半ばで遮るように彼女に全力で接近し。興奮気味に鼻息を荒くしながら、彼女の目の前に跪き。そのまま蒼真は戸惑う遥の手をがしっと両手で取ってみせる。まるで、姫君にかしづ騎士ナイトのように。

「ほほう、ロリっニンジャでござるか……よきかなよきかな。属性モリモリで実に拙者好みでござるよ」

「えっ……えっ?」

「おっとこれは失敬、拙者としたことがレディに対して名も名乗らぬままとは。拙者はソーマ・ザ・ウィザードと申す者でござる。長月氏、以後お見知りおきを」

「は、はあ……?」

 突然自分の前に接近してかしづいたかと思えば手を取られ、そしてガトリング機関砲が如き速度で次々と捲し立てられれば、幾ら遥が上忍とて戸惑いを隠すことなど出来ない。困惑し眼を見開く彼女は物凄い困り顔というか、蒼真に対して半分引いていた。

 瑛士はそんな風に、さっきまでのグロッキーな顔色は何処へ行ったのか……もう子供のようにキラキラさせた瞳で遥の戸惑い顔をジッと見つめる蒼真を見下ろしながら、やれやれと全力で肩を竦め。すると遥が横目に困り切った視線を向けてくるから、仕方なしに助け船を出してやることにした。

「コイツの痛いソウルネームとやらは覚えなくていいぞ、遥。本名は哀川蒼真、見ての通り大変濃いタイプのオタク野郎だが……ウデは立つぜ。その辺りに限っては俺が保証する」

「ちょっ、その言い方はあんまりでござるよ瑛士氏。拙者のソウルネームは文字通り魂の名なのでござるから。ミリィ氏がミリィ・レイスと名乗っているのと、本質的には同義なのでござるよ」

「だったら、もうちょいネーミングセンスを磨くことだな。何だよソーマ・ザ・ウィザードって、幾らなんでもダサ過ぎるだろうが」

「…………ダサいのは否定しきれないでござるな」

「だろ?」

「……あの、そろそろ本題に入って頂いても」

 阿呆みたいな会話を交わし、蒼真の注意を完全に遥から引き剥がした頃。まだ戸惑った顔をしていた遥にそう言われたところで、やっとこさ二人とも正気を取り戻し。とすれば蒼真は「おっと、これは失礼つかまつった」と言えば、漸く遥の手を離して立ち上がった。

「立ち話も何でござろう。ささ、お二人とも中へ。お茶ぐらいは出すでござるよ」

 その後で半開きになった扉の奥に戻った蒼真に手招きされるがまま、瑛士と遥の二人は彼の部屋にお邪魔することになった。

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