第五章:血の繋がりは祝福か、或いは足枷たる呪いか/01

 第五章:血の繋がりは祝福か、或いは足枷たる呪いか



 ――――翌朝。

「待ってください、瑛士」

 午前八時を少し過ぎたぐらいのことだ。瑛士は朝も早々から自宅にしている二階フロアのひとつ上、三階フロアに住んでいる蒼真を訪ねようと、玄関に向かって歩いていたのだが……そんな彼を、背後から遥が呼び止めていた。

「改めて、泊めて頂きありがとうございました。一応、そのお礼を申し上げたくて」

 立ち止まって振り向いてみると、こちらにペコリとお辞儀をする遥が視界に映る。瑛士はそれに「ああ、気にするなよそれぐらい。寧ろ悪かったな、同じ部屋で寝泊まりなんぞさせちまって」と返した。

 ――――実を言うと、遥は瑛士や玲奈と同じ部屋で夜を越している。

 というのも、直前になって瑛士が部屋を貸す上でのある問題を思い出したが故のことだ。

 理由は単純。よくよく考えてみれば、幾らこのマンションに空室が浴びるほどあるといえ、面倒くさくて掃除もロクにしていない部屋ばかりだ。どう考えても埃まみれで使いものにならない部屋ばかりだし、実際に幾つか覗いてみたが、やっぱり埃まみれでとても使える部屋ではなかったのだ。

 そんな理由があって、結局遥には普段瑛士たちが住んでいるこの部屋、二階フロアに泊まって貰うことになったのだ。今日限りではなく、この先暫くは……遥が任務を終え、宗賀衆の里とやらに帰還するまで、遥は此処に寝泊まりすることになる。

 ちなみに――――これは殆ど余談みたいなものだが。何故か玲奈の強い推しで、遥は玲奈と同じ部屋の同じベッドで眠る羽目になっていたりする。

 まあ、瑛士の部屋で眠られるよりか色んな意味で安心だ。まさか客人をリビングルームのソファに寝かせるワケにもいかないと思い、実はちょっと悩んでいたのだが……玲奈と一緒なら解決する。

 解決するし、解決したのだが……問題は、遥が半ば玲奈の抱き枕状態にされていたことだ。

 すぅすぅと寝息を立てる玲奈に正面から抱きつかれる形でベッドに横たわる遥は、何というか物凄く複雑な表情で眠っていた。深夜に部屋を一度覗き見た時、遥が本当に微妙な顔で寝ていたから……瑛士はギョッとしたのを今でも色濃く覚えている。

 ――――閑話休題。

 とにもかくにも、そんな理由があって遥は今この場に居たのだった。

「瑛士はこれから、何処かに行かれるのですか?」

「大した用じゃない、すぐに戻る。……ん、ちょっと待てよ?」

「? どうしたのですか、瑛士?」

 言った後で何故か思案するように唸り始めた瑛士を見て、遥が不思議そうに首を傾げる。

 すると瑛士は数秒後、唸り終えたと思ったら「……よし、決めた」とひとりごち。その後で虚空を見ていた視線を遥に向けると、彼女にこんなことを問うていた。

「遥、今って暇か?」

「暇……ええ、暇といえば暇ですが」

「なら、今からちょっと俺に付いて来てくれ」

「構いませんが。……どちらに行かれるので?」

 話の意図が掴めず、尚も首を傾げる遥。瑛士はそんな彼女にフッと笑むと、続けて遥に対しこう告げていた。

「俺の協力者のトコだよ。折角だ、遥との顔合わせも早い方が良いだろ?」

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