第二章:プライベート・アイズ/02
三階フロア、蒼真の住居へと通された瑛士は、例によって六枚のモニタがあるデスクの前に座った蒼真がキーボードを忙しなく叩くのを背中越しに眺めつつ。目の前にあるモニタ六枚の……蒼真から見て真正面にある奴を、彼と二人でじっと見つめていた。
「例の組織、『インディゴ・ワン』のリーダー……ええと、デニス・アールクヴィストでござったか? どうやら
「出資者?」
「
「なるほどな」
「黒い噂の絶えない男でござる。残念ながら肝心のアールクヴィストも、その副官もまるで隙がなく、大した情報は得られなかったのでござるが……拙者が唯一見つけることが出来たのが、この霧島という実業家とアールクヴィストの繋がりでござる」
そう語る蒼真がキーボードの傍らに置いたトラックボール――大きなデスクトップPCに接続されている、まあマウスの親戚みたいな機器だ。それを操作して、正面のモニタにある男の写真を数枚、表示させる。
映ったのは、髪を金髪に染めた男の写真だった。パーティ会場での記念撮影だったり、或いは運営する会社のホームページから引っ張ってきた画像だったりと、その内容はバラバラだが……しかし一様に、染め金髪のそこそこ若い男が映っている。
――――
この男が例のテロ・グループ『インディゴ・ワン』、正確には同組織リーダーのデニス・アールクヴィストに出資しているという若手実業家のようだ。
若手というだけあって、顔付きは割と若い。年頃は二十代の終わり頃か……まあ三十代ぐらいだろう。写真で見る限りは顔付きも表情も爽やかで、まさに好青年といった感じ。同時に、だからこその中身の薄っぺらさも滲み出てしまっているのだが。
「にしても、違法な品ね……ってことは蒼真、やっぱり」
「瑛士氏の想像通り、麻薬に武器に人身売買のフルコースでござるよ」
「ま、貿易関係で裏のシノギっつったらそうなるよな」
蒼真の回答に、瑛士は至極納得した様子でうんうんと独り頷く。
…………まあ、本当に予想通りの回答だ。貿易関係の生業で、裏取引といえばそういう類だと相場が決まっている。お約束ではないが、敢えて訊くまでもなく分かりきっていたことだ。
何にせよ、この霧島啓一という男は見た目の爽やかさとは裏腹に、かなり黒いことに手を染めているらしい。少なくとも、瑛士の良心が痛むような相手ではなさそうだった。
「……それで? 出資者っつったが、なんでまた日本人の実業家なんて。アールクヴィストの野郎は日本を恨んでるんじゃあなかったのか?」
「
「……難儀なモンだな」
「全くでござる。度し難い話でござるよ」
小さく肩を揺らす瑛士に、蒼真は同意を返した後でこほんと咳払いをすると、明後日の方向に逸れかかっていた話を元の方向に軌道修正する。
「それで、この霧島という男なのでござるが。拙者の考えとしては、この男を糸口に探っていくのがよいと思いますぞ」
「だな。とりあえず、俺たちはまずコイツから調査を開始するとしよう。手掛かりらしい手掛かりは、今のところコイツしかないからな」
「そうでござるな。……霧島は三日後の二十時頃、南青山にあるマンションの最上階、ペントハウスに現れるらしいでござるよ」
「ペントハウス……?」
「別荘として購入したみたいでござる。どうやらそのペントハウスで、
「無駄口はその辺にしておけ、蒼真。……だったら、まずはそこから探ってみるとするか。或いはアールクヴィスト本人がひょっこり出てきてくれるかもだしな」
ひとまずの方針はこれで決まった。神出鬼没のテロ・グループ『インディゴ・ワン』を探る為に、まずはこの霧島啓一という若手実業家を追おうと、瑛士は胸の内で静かな決意を固めていた。
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