第二章:プライベート・アイズ/02

 三階フロア、蒼真の住居へと通された瑛士は、例によって六枚のモニタがあるデスクの前に座った蒼真がキーボードを忙しなく叩くのを背中越しに眺めつつ。目の前にあるモニタ六枚の……蒼真から見て真正面にある奴を、彼と二人でじっと見つめていた。

「例の組織、『インディゴ・ワン』のリーダー……ええと、デニス・アールクヴィストでござったか? どうやら彼奴あやつに出資していると思しき者を見つけたのでござるよ」

「出資者?」

霧島きりしま啓一けいいち、新進気鋭の若手実業家でござる。ここ五年、貿易関係のあれこれで一気にのし上がってきた実力者なのでござるが、違法な品も日本国内に持ち込んでは裏で大量に捌いていると、専らの噂なんでござるよ」

「なるほどな」

「黒い噂の絶えない男でござる。残念ながら肝心のアールクヴィストも、その副官もまるで隙がなく、大した情報は得られなかったのでござるが……拙者が唯一見つけることが出来たのが、この霧島という実業家とアールクヴィストの繋がりでござる」

 そう語る蒼真がキーボードの傍らに置いたトラックボール――大きなデスクトップPCに接続されている、まあマウスの親戚みたいな機器だ。それを操作して、正面のモニタにある男の写真を数枚、表示させる。

 映ったのは、髪を金髪に染めた男の写真だった。パーティ会場での記念撮影だったり、或いは運営する会社のホームページから引っ張ってきた画像だったりと、その内容はバラバラだが……しかし一様に、染め金髪のそこそこ若い男が映っている。

 ――――霧島きりしま啓一けいいち

 この男が例のテロ・グループ『インディゴ・ワン』、正確には同組織リーダーのデニス・アールクヴィストに出資しているという若手実業家のようだ。

 若手というだけあって、顔付きは割と若い。年頃は二十代の終わり頃か……まあ三十代ぐらいだろう。写真で見る限りは顔付きも表情も爽やかで、まさに好青年といった感じ。同時に、だからこその中身の薄っぺらさも滲み出てしまっているのだが。

「にしても、違法な品ね……ってことは蒼真、やっぱり」

「瑛士氏の想像通り、麻薬に武器に人身売買のフルコースでござるよ」

「ま、貿易関係で裏のシノギっつったらそうなるよな」

 蒼真の回答に、瑛士は至極納得した様子でうんうんと独り頷く。

 …………まあ、本当に予想通りの回答だ。貿易関係の生業で、裏取引といえばそういう類だと相場が決まっている。お約束ではないが、敢えて訊くまでもなく分かりきっていたことだ。

 何にせよ、この霧島啓一という男は見た目の爽やかさとは裏腹に、かなり黒いことに手を染めているらしい。少なくとも、瑛士の良心が痛むような相手ではなさそうだった。

「……それで? 出資者っつったが、なんでまた日本人の実業家なんて。アールクヴィストの野郎は日本を恨んでるんじゃあなかったのか?」

彼奴あやつが恨んでいるのは、あくまで組織を……『スタビリティ』を壊滅に追いやった日本政府。日本人そのものはどうでもいいのでござろう」

「……難儀なモンだな」

「全くでござる。度し難い話でござるよ」

 小さく肩を揺らす瑛士に、蒼真は同意を返した後でこほんと咳払いをすると、明後日の方向に逸れかかっていた話を元の方向に軌道修正する。

「それで、この霧島という男なのでござるが。拙者の考えとしては、この男を糸口に探っていくのがよいと思いますぞ」

「だな。とりあえず、俺たちはまずコイツから調査を開始するとしよう。手掛かりらしい手掛かりは、今のところコイツしかないからな」

「そうでござるな。……霧島は三日後の二十時頃、南青山にあるマンションの最上階、ペントハウスに現れるらしいでござるよ」

「ペントハウス……?」

「別荘として購入したみたいでござる。どうやらそのペントハウスで、彼奴あやつの関係者を集めてちょっとした会合を開くみたいなのでござるよ。言ってしまえば、お披露目ホームパーティみたいなものでござろうか。拙者にとってホームパーティなぞ、今までの人生で全く接点がなかったことでござる故、全く以て羨ましい限りでござる」

「無駄口はその辺にしておけ、蒼真。……だったら、まずはそこから探ってみるとするか。或いはアールクヴィスト本人がひょっこり出てきてくれるかもだしな」

 ひとまずの方針はこれで決まった。神出鬼没のテロ・グループ『インディゴ・ワン』を探る為に、まずはこの霧島啓一という若手実業家を追おうと、瑛士は胸の内で静かな決意を固めていた。

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