『自宅を警備するだけのかんたんなお仕事です』――そう言って強制転移された先は魔王城でした
松本 せりか
第1話
あ~…城?
城…だよなぁ~、なんか西洋の城なんてTVでしか見たこと無いけど。最近維持できないって、欧州の貴族とかが売り出してる。
安いからって、うっかり買ってしまったら、やれ維持費払えだの、法律上、改装出来無いだの言ってくる、詐欺まがいのアレ。
しっかし、なんで俺、ここにいるんだ?
気が付いたら、俺はうす暗い石造りの建物の中にいた。
しかも、なんか薄ら寒い。まぁ、直前まで部屋で求人のチラシ見てたし、Tシャツとジーンズだけしか着てないからな。
天井にコウモリ張り付いてるし。
「どこから入ってきたのだ」
なんだか、かん高い声で怒鳴られた。
「あ~?」
振り向くと…そこに、変な生き物がいた。
なんだこれ?幼女?
なんかやたら露出度の高い(残念なことに胸はぺったんだ)紫の服を着て、同じ色の手袋はめて、小悪魔みたいな…あれ、角とか羽根とかしっぽとか…本物なのか?
ふよふよと飛んできたので、思わずしっぽを掴んでみた。
「ぎゃ~。何をするのだ。はなせ~」
あ…ジタバタしてる。なんだ?この生き物。
「ここ、どこ?」
一応、訊いてみたのだが。
小悪魔らしき生き物は、さっきまで掴まれてたしっぽを、自分で撫でてる。
「ここは、どこだ?」
少し大きな声で、俺は訊いた。
「大きな声を出さぬとも、聞こえてるのだ」
と言って、居住まいを正し…目の前の小悪魔は、胸を張って言った。
「ここは、魔王城なのだ。我が城へよく来たな」
「我が城?」
「そのチラシを見てきたのだろう?」
紫の瞳をキラキラさせて問いかけられた。
チラシ?そういえば、手に持ったままだった。そこには、こう書いてある。
『自宅を警備するだけの、かんたんなお仕事です』
それだけで、他は…連絡先ですら、書いてない。
見てただけで、就職するとも、なんとも言ってないのだが……。
「そなたは、何という名だ?」
「人の名前を訊くときは、まず自分から名乗れって言われなかったか?」
「我は魔王だ」
エッヘンって感じで、魔王は言う。
「なまえは?」
再度訊くと、なぜか魔王は俺から目を反らし、しっぽをふよふよ揺らし始める。
「……忘れた」
俺は、思わずジト目になった。 普通、自分の名前、忘れるか?
「し…しかたないだろう?
もう、何百年も誰も我が名を呼ぶものも、いなかったのだから」
少し、しょげた感じがした。寂しかったのか?
「俺は、
「ユーマか。良い名じゃのう」
なんか、可愛いな。キラキラした目で嬉しそうにされると……。
「…で?ここ…どこ?」
情に流される前に…と、本日、何度目かの同じ質問を繰り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。