ピグミの歌 (2)

 


 子供ができたと告げてからも彼の口数は相変わらずだった。私たちは拠点を持たず放浪の旅を続けていて、様々な地に赴いて彼は歌を歌い続けた。


 私は彼の後をいつも付いて歩く。昔みたいに振り返ってはくれず、目的地のない私たちは次の街へ続く街道を歩いていた。三者路に差し掛かった時、初めてクローサーの足が止まった。


「子供は……生むのか」


 私が彼に生むと告げると、眉をひそめた。歓迎してくれないのは知っている。彼は吟遊詩人で、子を持ってはいけないと言われている。子を持つということは欲求をコントロールする彼らにとって、生まれ変わりから逃れようとする輪廻の解脱から外れるという。子をなすとまた輪廻に戻るというのだ。


 彼はもう生まれてきたくなかったのだろう、子供が出来たと言っても喜ぶ様子はやはり微塵もなかった。


 旅をしていて初めて道を引き返す事をした。クローサーの歩くスピードは長年私に合わせてきたからか早くはない。だが少し急いているのか、私から逃げようとしているのかその足は目的を作って向かった。


 急ぐ彼を引きとめようと、私は彼の手を握りペースを落とさせた。クローサーは振り向かずただまっすぐ、視線を変えなかった。どこに向かうのだろう。


 もしこのまま崖に向かっていても私はあなたの後ろをずっとついて行ったと思うよ。私たちは家族だ。君の憎んだ家族とは違う。




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