トト

keびん

第1話

少し前までこの時間から陽が登り始めていた。しかし、今ではまだ夜のままだ。

いつもの時間に、飼いネコが飯をくれとせがみ、起こしに来る。


うちは、タイマーで自動的にキャットフードが出てくるタイプの餌やり機を朝だけつかっている。だからいつも、それまでの時間を彼と共に過ごしてる。


いつものように彼を窓まで誘導し、網戸越しに外の景色を眺めさせる。といっても、この時期は真っ暗で、外の街灯ぐらいしか見えない。

夜風も冷たく、私としてはあまり開けたくないのだが。


彼は冷風を浴びながら縮こまり、カラスの鳴き声を聞いていた。

耳と顔がクリクリとそれぞれに動く。

私もその様子を見ながら夜明けを待つ。


うん。やはり夜はいい。これが安寧というやつか。

人のいる気配が無いので何も気にしなくて済む。非常にありがたい時間だ。


いやもう疲れたのだ。常識だの礼儀だの愛だの何だの。今の私においてそれは足枷にしかならん。やりたいようにやらせろ。

そういった底からでる叫びを、この夜が打ち消すのだ。


呆けている間にネコは向こうへ行ってしまった。どうやら待ちきれないようだ。

だが待っても出ないぞ。もう少しの辛抱だから耐えてくれ。


そうかもしかすると、私もネコと同じだったのかも知れない。

周りに縛られ、うんざりし、焦れったくなったのだな。うん。すまない事をしていた。


だが私一人の都合ではどうにも出来ないのだ。すまない。目をつぶってくれ。

私はあいつのように謝罪した。


クアァと近くでカラスが笑った。

ふいっと顔を横にやる。

おや、気づけば夜はもうとっくに過ぎていたようだ。

ゆっくりと向こう側から彩度が高くなってゆく。


さあて、今度は私の番かな。

そう小さく呟いた。

果たして私は、あいつの言い分に納得出来るのだろうか。

まあ、出きるだけ納得してやるよ。バーカ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トト keびん @momo10nanami03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ