ファンタジーみたいなリアル異世界

kentoさん

第1話 魔女と森と異世界人


「!?ネリア様、今のは一体?」



昼下がり、いつもの様に紅茶を飲みながら最近発表された魔術理論から目を引くものが無いかとリストを流し読みしてた時の事だった。


普段は人も寄り付かない森の中から、魔術師ではないセラですら感じ取れる魔力の流れの乱れを感じ、思わず視線を窓の外に向ける。



「ああ、とんでもない魔力だ。あんな魔力、相当な儀式魔術でも用意しない限りまず発生しないだろう。」


「儀式魔術....もしや、この場所を探し当てられた可能性が?」


「いや違うな。私の張り巡らせてる結界は、そもそも魔術で探せる様なものじゃない。何より、魔力の乱れが一瞬だけだったから儀式魔術だとしても失敗している可能性が高い。」



どんな魔術なのかは一瞬で判断するのは不可能だが、もしさっきの魔力の乱れの原因が儀式魔術だとしても、成功しているならあんな爆発した様に一瞬だけ魔力が揺らぐのではなく、段階を踏んで高まっていくかあのレベルの乱れが暫く続く筈だ。



「なるほど。しかし、如何なさいましょう?仮に失敗していたとしても、魔術の影響が森に及ぼされていれば今後の生活に支障をきたす可能性もあります。」


「そうだな。ふぅ....仕方ない。一応調べに行ってみるとしたいんだが、恐らくさっきの衝撃は魔獣達も感知して興奮してるはずだ。だから、夜になったら発生元に向かうとしよう。」



興奮状態の魔獣との戦闘なぞ、魔術師がやる様な事じゃない。


なので、ここは大人しく明日まで待つことにするが家の窓から森の観察をする事は怠らない様にする。




ーーーー



学校の教室に座っていたはずの僕は、一瞬視界が真っ暗になったかと思うと森の中で尻餅をついていた。


訳の解らない状況にただ混乱して、行動方針が固まるまでの30分間ずっとその場で体育座りをして俯いていた。


その後、もしかしたら僕が一瞬で移動した訳ではなく、頭をぶつけるなりして記憶が飛んだしまった線を考えついたけど、頭を触ってみても一切の外傷はなく記憶喪失の線は薄くなった。


振り出しに戻った事に落胆し、その拍子に天を仰いでみると空には太陽らしく惑星とそれより抑えめに輝く道の惑星が並んでいる事に気付いてしまった。



「もしかして、この森は地球とは違う場所にある森....?」



正直、自分が一瞬で地球とは違う惑星に飛んできたなんて幼稚園生が言いそうな事を考えるなんて正気とは思えない。


けど、見た事がない異常な物が存在している時点で大人しく認めて気持ちを切り替え、次の行動に移すしか道はなかった。









その場でジッとしていても助けが来ないことはパンク寸前の頭でも考えついたので、その辺に落ちていた石で木の幹に傷をつけ、最初の地点に戻れるように印を付けながら周りの探索をしてみることにした。


ただ、目に入るのはいつまで経っても木ばかりで、広葉樹らしき木は葉の大きさが大きいのだけど、型が僕の知っているどの木にも該当しなかったりするのもこの場所の異常さを裏付ける要因になった。



「村とか、山なら山小屋とかあればいいんだけど....。」



そんな希望的観測ですらない独り言を呟いてしまう。


木に囲まれている所為で見通しが非常に悪く、そもそもこの森が平地に広がっているのか山の中に広がっているのかすら判断出来てない。


だから、下手をすれば(そもそもこの惑星?に人が居ない可能性を除いて)森周辺に人が住んでいない場合も十分あり得てしまう。


そうなってしまうと僕はサバイバル生活を強いられる事になってしまうけど、元々体力な自信がない僕じゃ3日と持たない内に野生動物辺りに食べられてしまいそうだ。



「太陽が傾き始めてる....。進もう。」



僕が気がついた時は昼過ぎだった様で、あれから数時間しか経ってないのに目に見えてわかるほど太陽らしき惑星が傾いていた。


僕は諦めず、完全に暗くなる前にせめて人の痕跡だけでも見つけられないかと歩き続けた。







結局暗くなってもなんの成果もなかった僕は、仕方なく木のそばに腰を下ろして野宿する事になった。


ただ、野宿と言っても持ち物が精々今来ている学校の制服しかない僕はブレザーを毛布代りにしているだけで地面にそのまま座って木に寄りかかっている状態だった。


今に至るまで、野生動物の類とは遭遇しなかったからもしかしたら危険な動物はいないかもしれない、何て考えていたけど何処か遠くから唸り声が聞こえる気がする。


水も食べ物の無く、僕にできる事は朝までジッと息を殺して待機するしかないけど、幸いにも気温は日中とそこまで差はなく過ごし易かったのは良かった。



「そういえば、僕以外のクラスメイトってどうなったんだろう。」



地面に座り、これからの行動方針を考えているとふとそんな事が頭をよぎった。


僕がこんな場所来る前は、学校の教室にいた訳だから仮に教室から森へ移動したとして、周りに誰一人クラスメイトがいないのは違和感があった。



「そもそもみんなは教室から移動しなかった。それか、『僕とは違う場所』に移動した、の2択になるのかな。」



一応、森の中の別の地点に移動した可能性も考えてみたけど、だとしたら誰かしらと出会っていてもおかしくは無かったし、足跡一つ見つけれなかった辺りからその可能性は考えなかった。


教室から移動しなかった場合、僕だけピンポイントで移動させられた事になる。


でも、それだと理由がサッパリで考えるだけ無駄な気がしてきた。


そんなこんなで思考がまとまらず、思考に没頭していると、パキパキと木の枝が折れる音がしたかと思うと丁度目線の先から、月明かりに照らされて猪?が姿を現した。


猪は鼻を動かして、まるで様にその場をぐるぐると回っている。


どうやら、僕は木の陰に隠れていたのと、制服の色が黒っぽかったおかげで20mくらいの距離でも見つかってない様だった。


このままやり過ごせれば....何て考えたけど、猪は僕の匂いを辿っているのか少しずつ近づいてくる。



(このままじゃ見つかる!)



そう思って、木の陰から出ようと体を動かそうとした時だった。



『いや、動かないでくれ。下手に動かれるとあいつも動くからな。』



何処からともなく現れたそんな声に、思わず叫びそうになると察したのか両手で後ろから口を塞がれた。



『バカ!見つかるだろうが!いいか?あの猪はな、普通のより何倍も素早いし力強いんだ。咄嗟に動けない君じゃ即死もあるんだぞ?分かったか?』



小声で、でも焦る様に僕にそう言ってきたので僕は頷いて理解した事を伝える。



『よし。なら、君はそこで動かずにしていろ。アレの処理は私が引き受ける。』



手を離された僕は、声の主を確かめようと振り返ってみたがそこには誰も居なかった。


僕以外の人に会えた事に安堵はしたけど、声の人が“普通の猪より何倍も素早いし力強く”なんて言っていたそれがその間にも近づいていて、距離は10mを切っていた。



『ブォーオォ!』



ついに気づかれてしまい、猪は僕の想定よりかなり速い何てレベルではなく、地面を人蹴りしただけで半分の距離を詰めた。



「すまない!少し遅れたが無事な様だな。」



さっきの声の人なのか、茶色の上着を羽織った人が僕と猪の間に跳躍して割り込んで来た。


僕が声を上げるよりも早く、その人はそのまま真っ直ぐに猪に向き合うと、パチンッと指を鳴らした。



『ブフォ!?』



僕が座っている場所まであと数メートルにまで迫っていた猪は、その一瞬で断末魔の叫びと共に破裂したように肉塊になった。



「ま、手持ちの術式だけで組んだ即席なら上出来か....。おい君、大丈夫か?」


「はい、怪我はないんですけど....その...今のって.....」


「無論魔術だが?む、暗くてお互いが見えないな。ちょっと待ってろ。」



その人は、ゴソゴソとベルトに着いていたランタンを外し、スイッチを入れて明かりをつけた。


明かりに照らされたその人はどうやら女性だったようで、長い茶髪が目を引くいわゆる“美人さん”なのだけど、僕の頭はそれどころじゃない。



「えっと、その、何が何だか....。」


「ん、君の髪色と瞳の色....ああ、なるほど。これまた難儀な要件に巻き込まれた様だ。」


「あの、すみません?僕、全く状況が理解出来てないんです。」


「いやいや仕方ない。大方、気が付いたら森の中って状況だったんだろ?にしても、良く昼間に襲われなかったな。運が良いと言うか何と言うか。」



状況を言い当てられ、驚いた顔した僕に苦笑いを浮かべたその人は少し何かを考える動作をして、すぐに考えがまとまったのかこちらに向き直った。



「よし。君、うちに来い。アテもなく彷徨い続けるくらいなら、私が保護してやる。それに、君は私に腐るほど質問があるだろうからな。」


「本当にいいんですか?」


「ああ、構わないさ。街では性格が悪いだ何だ言われる私だが、目の前で人が見殺しにされかねない状況なら助けるさ。それに、個人的に君に興味があるからね。」



こうして、僕はこの人から情報を得て、いい加減溜まりに溜まった疑問たちを解消すべくお世話になる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る