空に誓う

@nakashima_aoi

第1話

 日差しが和らいで日中が心地よくなった季節。

 オープンキャンパスに大学祭も終わって、急に静けさを取り戻した大学の敷地を私は散歩していた。

 お気に入りのドーナツショップの紙袋を片手にどこか落ち着けるところを探していると、じっとイチョウの木を見つめている女の子がいた。


「……」


 どうにも微動だにせず興味深く?イチョウの木を見続けるちょっと変わった女の子は自分の友人である大空おおぞら緋那ひなのようにも見える。

 うん、今日の憩いの場所はあそこだ。

 そう確信して彼女に近づいて声を掛ける。


「ヒナ」

「……、あれ、チカいつからそこにいたの?」

「今来たとこだよ、ヒナ見かけてさ。あ、食べる?」

「ううん、いらない」

「ん、いらない日か」


 差し出した紙袋を引っ込めてチョコがたっぷりにコーティングされたドーナツを咥える


「ちなみに今日からの新製品で銀杏ドーナツなんてのもあるんだけどー」

「ぎんなんどーなつ」

「おっ、そっちは興味ありそう」

「…うん。うん…、いるみたい」

「じゃ、お一つドーゾ」


 まあこんな地雷商品一つしか買ってないわけだけど、それでも買ってしまうのは私のサガなのだ。

 私はそのまま地べたに座って、手の熱でチョコが溶け始めたドーナツを持ち替えながらかぶりつく。

 苦みの少ないとても甘いチョコレートはこの店の一番のお気に入りの一つだ。

 口の中で甘さが広まって、その後に僅かに混ぜられた塩味がさわやかな風味を醸し出す。

 チョコレートの甘さを引き立てるちょっと固めで水気の少ないドーナツは、上質な小麦粉で練られたモチっとした触感で溶けだしたチョコレートが更にそれに絡んで、とても美味しい。


「ん~~、うまい!」

「……美味しくない」


 そしてしかめっ面をしながらも謎のドーナツを食べきったヒナがじっとこっちを見てくる。

 なんだ私に惚れたか?


「口直しのドーナツが欲しいのだけど」

「えー、いらないって言ったじゃん」

「私が欲しいの」

「しょうがないにゃー、まあ私もそうなるかもって口直し買っといたけど」


 そういってこの店の人気定番ドーナツ、プレミアハニーワッフルドーナツを渡す。

 ああ…口直し別にしても食べたかったんだけどなあ…。

 ……まあ幸せそうなヒナの顔を見れたから良しとしよう。


「それで何してたの、こんなところで」

「ん、観察、イチョウの」

「銀杏拾いとかじゃなくて?」

「うん、観察」

「へー」


 そうして二人でイチョウを見ながら静かにドーナツを食べ続けた。

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