第9話 蔓延する特別な力
「『授能』? その授能ってのはなんじゃ?」
「ひぐぅ〜痛い〜死んじゃいます〜こんな能力なんの役に立つって言うんですか〜こんちくしょ〜」
いつの間にか消え失せてしまった鉄球。そのせいで赤く腫れ上がった手の甲に息を吹きかけながら悲しい声を出すシュシュを尻目にユウは尋ねてみる。
「授能って言うのは授かった能力って書いて授能。文字通り、神様か聖霊様かもしくはこの星からか、何処から何を持って授けられたのかわからない特別な力のことなの」
「ほぉ〜特別な力か」
「……本当にわたしは何を持ってこんな持てもしない鉄球を出す能力を授けられたのでしょうか」
先程までの威勢とドヤ顔は何処へか、顎を机に乗せてふてくされるシュシュはぼやく。
「うん、特別な力よ。授能自体、世界を探しても持ってる人はそう多くはないもの。まぁ、シュシュちゃんみたいに本人にはまったく活用方法が見つからない能力を授かる人もいるし、このギルティアにおいて最近ではそんなに珍しくもないものになっちゃったんだけど……」
「なんじゃ、この国にはそんな特別な人間がおるんか? 姉ちゃんも持っとるんかいな? その授能っちゅうんを」
「あはっ、ないない。私が持ってるわけないでしょ〜。私なんてただのギルド管理協会に雇われた職員の1人だよ? 特別な力を持ってたらもっと違うことをしてるわよ」
顔の前で手を振ってからからと笑い、テレサは自分が特別かという問いを否定する。
「ギルティアで珍しくないっていうのはう〜ん……なんていうか授能自体、上級ギルドでは持っていて当たり前みたいな感じなの」
「ほぉ、そいつら強いんか?」
「強いなんてものじゃないわ。次元が違うっていうか、人間離れした人たちばかりだもの」
「さっき姉ちゃんはワシの力が36ちゅうたが、そいつらはどんなもんなんじゃ」
聞かれて、テレサはまた引き出しを探り、紐で結われた紙束をパラパラとめくる。そして、視線を斜め上に唇に人差し指を当てて悩むような素振りを見せた後、前のめりになって囁く。
「私が教えたって誰にも言わないでね。能力値の開示なんて情報漏洩、バレたらクビになっちゃうんだから」
「おう、無用じゃ」
「なんだか、あなたたち見てると応援したくなっちゃったわ。えっとね、一番力の値が高いのは上級ギルドグェン同盟のベラムさんね、力が……336。次いで同じく上級ギルドの英霊殿のオーディンさんが315ってところかしら」
まさしく桁違いの数値にユウは思わず息を飲んだ。
今のユウの能力値の10倍以上、もしも自分が元の姿のままだとしてもここまでの数値が出るだろうか。
テレサの言う人間離れと言う言葉はどうやら真実らしい。化け物じみた怪力を持つ顔も知らない猛者たちに畏怖を感じると共に血湧き肉躍る。まだまだ自分より強いやつはいるのだ、と。
「おっと、そろそろ雑談は終わりにしないと。ちょっと人が増えて混み合ってきちゃったみたい」
人混みに騒つくロビーを見渡してテレサはそっと紙の束を引き出しにしまう。
「それで……どうする? どうしてもって言うなら仲介料として3ソリドゥス貰えれば、私も頑張ってあなたたちを受け入れてくれそうなギルドを探してみるけど……あんまり期待しないでね」
ユウとシュシュは顔を見合わせてお互いにどうしたいか意思疎通を図る。
「ワシはいい。恥ずかしくて言えんかったが、元々金儲けができるっちゅう話を聞いてここに顔だしただけじゃしの」
「……なら、わたしもいいです。ユウちゃんと同じギルド入れないなら意味ないですし」
「なんじゃ、お前は紹介してもらった方がいいんじゃないのか? そのためにここまで来たんじゃろうが。別にワシと一緒におらんでもーー」
「ーーこんな無能のわたしが一人でやっていけるはずがないじゃないですか! 独りぼっちは寂しいじゃないですか!」
どうやらテレサに告げられたことが相当、尾を引いているらしい。若干の自暴自棄にも見えるが、本人がそう言うなら仕方がない。
「ちゅうことじゃ。世話になったの」
「お世話になりました!」
えらい騒がせてしまったと二人は頭を下げて、席を立ち座っていた椅子を綺麗に整える。
その姿を薄い笑みを浮かべて眺めていたテレサはそっと二枚のカードを金属製の入れ物から取り出して二人に差し出した。
「ふふっ、仲がいいのね。これは私の名刺。もしも気が変わったらまたここに来て。能力値は日々、変化成長するしあんまり気に病むことはないわ」
差し出されたカードには件のグリフォンが王冠を背景に雄々しく羽を広げたギルド管理協会の紋章とやはり読めもしない文字が書かれている。
「ここだけの話、紹介した人がギルドで活躍すると私にもちょっとした賞与が貰えるのよ」
二人がそれを受け取ったのを確認するとテレサはまた声を潜めて悪戯っぽく笑った。
そして、ユウたちの後方を手で示して視線を誘導する。
「懸賞金が目当てならあの掲示板を見るといいわ。多忙なギルドが一般に向けて募集をかけている依頼がいくつかあるから。そこで活躍すればどこかのギルドの目が止まるかもしれないし、いい機会になると思うわ」
度重なる親切に二人は再度、テレサに向けて頭を下げて感謝の意を示す。そして、言われた通り掲示板に向けて歩きだし、その場を後にした。
その背中を微笑ましく見送るテレサは手を振りながら、呟くように「頑張ってね」と心からの応援の言葉を漏らす。活気に溢れたロビー内の喧騒にそれはかき消され、二人に届くことはなかった。
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