第11話 嘘は真実
「先生、真実にちゃんと目を向けてください。」
そう残して自殺した隣のクラスのマキちゃん。
あの子は救われないまま天国へ旅立ってしまった。
いじめられていたのに、いじめの濡れ衣を着せられた可哀想なマキちゃん。
誰も、私も、彼女に手を差し伸べる事が出来なかった。
誰も、私も、真実を見ようとしなかった。
だから、死んだ、マキちゃんは。
マキちゃんはいじめられていた。
原因は体育の創作ダンスの動きがキモかったかららしい。
最初にいじめたのは、クラスの中でも目立たないグループだった。
マキちゃんは元々そのグループだったのに、ちょっと目立つグループの子と仲良くなったから気に入らなかったらしい。
それを面白がった全く無関係の先輩が煽てたせいで悪化したらしい。
マキちゃんは、全校生徒にいじめられていた。
いじめの内容は、主にマキちゃんを悪者に仕立て上げるものだった。
「マキちゃんが私の財布からお金を取りました。」
誰かが教師に泣きつく。
それに他の誰かが「私が目撃者です。」と言う。
また他の誰かがいつの間にか仕込んだ五千円札をマキちゃんの財布から抜き出す。
これで完璧。悪者はマキちゃん。
マキちゃんの教師からの信用は最悪だった。
マキちゃんは何度かSOSを出そうとしたけど、誰も真剣に取り合ってくれなかった。
「マキちゃんがいじめをしています。」
誰かが泣きながら教師に相談した。
「私達が何度止めても、お金を取ったりSNSに悪口書き込んだりするんです。」
証言者は、マキちゃん以外の全校生徒。
「お前は退学だ。」
マキちゃんは退学になった。
その日、校長室から飛び出したマキちゃんは、「立ち入り禁止」のロープをくぐって、鍵を壊して、屋上に登り詰めた。
真っ青な空。
暖かい南風。
ジリジリと焼き尽くすような太陽は、きっと物凄く近く感じただろう。
柵を乗り越えてからは一瞬だった。
何の躊躇いもなかった。
後悔は、きっとたくさんあっただろう。
マキちゃんは地面とぶつかる瞬間まで生きてた。
だけど、次の瞬間、死んじゃった。
その瞬間まで生きてたのに。
生きてたけど、死んじゃった。
きっとマキちゃんは殺された。
「先生、真実にちゃんと目を向けてください。」
マキちゃんの死体を見た教師達は、マキちゃんの訃報を聞かされた生徒達は、何を思ったんだろう。
嘘を真実だと思い込んでた教師。
嘘を真実に変換していくうちにどっちが真実なのか分からなくなった生徒達。
マキちゃんが死んだ事だけが正しい真実だった。
マキちゃんが死んでも真実に気付けない残念な大人も居た。
生徒達が目を覚ました頃には、マキちゃんはもうこの世に居なかった。
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