第6話 箱と中身

人は不思議だ。

顔なんてただの「外側」に過ぎないのに、みんなそれに拘る。

そして私は誰よりもそれに拘っている。



私はミサトちゃんの顔が好き。

ぱっちり二重で、丸顔で、肌は真っ白で。でも、鼻は小さくてちょっとだけ団子っ鼻。そこがいいの。

彼女に出会った時、「愛され顔」ってこういう人の事を言うんだなぁって思った。

自分の顔とは正反対のミサトちゃんを、私は好きになった。


私は私の顔が嫌い。

それちゃんと見えてるの?って言われるくらい重たい一重で、ホームベース型の顔で、肌は浅黒い土気色。鼻は団子っ鼻だけど、ミサトちゃんとは程遠い程主張が激しい。そこが嫌なの。


「私は一重の人って綺麗だと思うな。何かミステリアスだし、こういうメイクしたら似合いそう」


ミサトちゃんはそう言って動画投稿サイトのメイク動画を見せてきた。「一重を活かしたメイク」そんなタイトルだった。

他の誰かがこれを見せてきたら「嫌味?」って思っていたかも知れない。でも相手はミサトちゃんだったから、私は満面の笑みで


「ミサトちゃんが言うなら間違いないよね!」


その言葉を間に受けて歓喜した。



私はミサトちゃんが好き。

外見なんてただの箱に過ぎない。本当に見るべきなのはその中に入った「何か」だ。

私はミサトちゃんの箱を開いて、その「何か」を見ようとした。

あれ?見えない。真っ暗。

何も入ってないの?



ミサトちゃんと友達になって四か月程経ったある日。

「ミサトちゃんって、性格悪いよね。」

誰かがそう言った。


「分かる。いつもみんなの味方してるし、本当はどう思ってるのか分からないよね」

「優柔不断って言うか、日和見主義?」

「ほんとは誰の味方なの?」


『ねえ、ミサトちゃん。』


その日から、ミサトちゃんの箱の中はたくさんのガラクタで埋まっていった。



「私、あの子の顔に生まれなくて良かった」


教室に入ると、ミサトちゃんが椅子に凭れながら笑っていた。


「あんな顔でよく生きていけるなって思う」


ミサトちゃんの周りには、誰も居ない。

ミサトちゃんは、いつの間にか一人で誰かの悪口を垂れ流すようになっていた。


「一重で、顔四角くて、鼻大きくて」


ア。

ア?


それ、私の事?


ミサトちゃん。


どうしてそんな風にはなっちゃったの?


私の大好きなミサトちゃんは。


ミサトちゃんは――


✝︎


「次のニュースです。

昨日午前八時頃、●●県の高校生がクラスメイトを椅子で複数回殴打する事件が……

少女は『あの子の顔が嫌い、あの子を変えたお前達を許さない』と叫びながら他のクラスメイトにも暴行を加えたとして――」


翌日、私はニュースになった。




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