バトンタッチ

勝利だギューちゃん

第1話

「やあ、久しぶり」

聞き覚えのある女の子の声に、振り返る。


「その声は、川田さん・・・川田知恵さん?」

「そうだけど・・・泉くん。ひょっとして、眼が・・・」

「うん。見えなくなってしまった」

「そうなんだ・・・」


失礼とは思いつつ、川田さんに顔を近づけた。

かなり近い。


「ここまで、近づけば、少しだけ見える」


川田さんが、申し訳なさそうにしているのが、わかった。

やめてほしい。

逆に辛い。


「泉くん、どこ行くの?」

「家に帰るけど・・・」

「この近くだよね」

「うん」


川田さんは、僕の手を取った。


「川田さん?」

「送って行くよ」

「いいよ。この近くだし」

「でも、もう遅いし・・・」

「だめ。私が送るの」


言いだしたらきかない。

昔から、変わっていない。


仕方なく、送ってもらった。


「ありがとう。わざわざ」

「いいよ。気をつけてね」

「川田さんも」

「うん・・・」


しばらくして、川田さんが声をかけてきた。


「そうそう。もうじき君の誕生日だね」

「そうだけど・・・」

「素敵なプレゼントがあるんだ。楽しみにしててね」

「・・・うん・・・」


数日後


僕は病院にいた。


「先生、手術って・・・」

「さっき、病気で亡くなった女の子がいてね。君に眼を譲ると言って亡くなったんだ」

「なぜ、その人が?」

「それは、内緒にしておいてくれって・・・」

「そうですか・・・」


何も言えなかった。


しかし、僕は光を取り戻した。

青空がこんなに眩しいとは、知らなかった。


手術の日。

奇しくも僕の誕生日だった。


そして、退院するその日、一通の手紙を受け取った。

見覚えのある筆跡・・・


【泉くん


君がこれを読んでいるということは、視力を取り戻したね。

そして、私はこの世にいないね。


私からのプレゼントは、受け取ってくれた。


私ね、高校の頃から、今の病気だったんだ。

でも、それなら自分の好きに生きたいと思ったの。


だから、君には私の分も生きて欲しい。

そのための、プレゼント。


なので、活かさないと、許さないからね。


私が唯一、好きなった男の子へ


川田知恵】


その場に、泣き崩れた・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バトンタッチ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る