主婦と主夫

「そういえば、真心さんのお父さんは料理はどれだけ?」

「お父さんは料理美味いよ」

「前に作り置きを食べさせてもらいましたけど、凄く美味しかったですよ」

「ふぅん、強敵ってわけか」


 レオンとドワーフから少し離れた縁側で真心達三人娘が真路の料理姿を眺める。

さて、そんな真路であるが手際はとてもよかった、何せ妻が帰らぬ人となってからは男手一つで刑事として職務を果たしながらも真心を育てて来た程のスーパー主夫だ。

 そんな真路はてきぱきと料理を済ませていく。材料はシャルルの所で獲れた夏野菜

スーパーでよく見る豚バラ肉と市販のルーどうやら真路は夏野菜を使ったカレーを作る事にしたようであった。


「そっちのシルキーはどうなの?」

「飯の番から掃除、洗濯から家の事なら何でもござれだよ」

「お~い、飯じゃなくて、酒のつまみ作ってくれよ、つまみ~」

「レオン、冷蔵庫漁りに行くぞ、たこわさかイカの塩辛くらいあるじゃろて」

「よっしゃ! トランプタワー10段目いったぁ!」

「凄いワン、ガーゴイル新記録だワン」

「そっちも強敵そうだね、周りは何か賑やかだね」

「……何かすまんな、真面目にやるときゃやる奴らなんだよ」


 真心が俊介に対するシルキーの料理の能力を尋ねれば返ってくるは自身満々の返答

実際、シルキーもまた真路同様に手際よく料理を進めている。

 シルキーはこの大きな日本家屋をなんと一人で切り盛りするやはりスーパー主婦。

そのスーパー主婦とは反対酒のつまみを作るように言うわ漁るわ、待つのに飽きるわで俊介のマモノ達はまとまりがなかった。

さて、そんな感じだが、シルキーは意に介さず自分の料理を続ける、手元を見れば。

鮎と思われる魚の他には夏野菜、そして油を入れた鍋に衣そして土鍋。

どうやらこちらは天丼を作ろうとしているようだ。


「安達、お前今ダンジョンランキングは?」

「8000台で止まってる、伊藤君は」

「同じくらいだ」

「あのマモノ達でいけるんだ」

「言ったろ、やるときゃやる奴らなんだよ、全員レベル3か4だからな」

「そういえばそうだった」


 ちなみにこんなまとまりのない彼らであるが、その実力は確かなようで俊介のダンジョンランキングは悪くなく真心とその実力が拮抗する程だ。


「皆様、食事の準備が整いました、坊ちゃまの分もあります」

「伊藤君、坊ちゃまって呼ばれてるんだ」

「まぁな、ありがとう、いただくよ、」

「お、なんだよ、今日は天丼か肉は……んだよ、とりまいっただきまーす」

「うぇ~、ピーマン入ってるワン……うぇ~やっぱ苦いワン、ほいドルイド」

「お前ら作った奴が目の前にいるのに文句か、文句があるなら自分で作るのだな」

「ふむ……拙者、天丼なるものは初めてでござる、中々……美味いで……もぐござ」

「口に入ってるのに喋るんじゃないニャ、いやしかし、これは美味いのニャ」

「衣が外れたっすこれ食いずらいっすねそれともあたしが下手なだけっすか?」


 世間話をしていればシルキーの料理が出来る、俊介の分もあると言って俊介に丼と箸を渡してから他の6人にも丼を渡していく。配られれば6人は思い思いの感想と共に食べていく。やや不満が多いと言った所だろうか、ガーゴイルは肉が入ってない事に落胆しコボルドはピーマンの天ぷら齧ってからドルイドの丼に押し付ける始末。

ドルイドもそんな二人にため息をつき文句を言ってから天丼を食べていく。

真心側のマモノ達、虎徹とシャルルには物珍しさもあってから好評、しかしでゅら娘だけは衣のことごとくがはがれてしまい、食べにくいという印象を持った。


「こっちも出来たよー、真心さん達も食べる? お昼まだだったでしょ」

「ありがとー、はい空ちゃん、菖蒲先輩」

「ご馳走になります」

「夏野菜のカレーですね……凄い、美味しい、甘口なんですね」

「僕は平気だけど妻が駄目だったんだ、それに真心さんも、だから基本甘口」

「おお、豚肉めっちゃ入ってるじゃん、こりゃサイコーだぜ!」

「あれ? ピーマンが全然苦くないんだワン」

「カレー味にしちゃうと結構誤魔化せるからね、何度この手を使ったか」

「ふむ、中々に濃い味付けだな、食べきれるだろうか……」

「ふぅむ、辛口でないからか不味い訳でないでござるが、一味足りぬでござる」

「吾輩は辛口も甘口もどっちも好きだけどニャ、こっちも美味いのニャ」

「あたしは断然こっちっすね、なんといっても食べやすい!」


 天丼が食べ終わってから数分くらいしたところに真路の作ったカレーも到着する。

こちらも真心達の分も用意していたのか真心達三人娘にも配られる。

 真路の作ったカレーは甘口、と言うのも真心が甘口しか食べられない、過去にさかのぼれば妻もまた甘口しか食べれなかったとしみじみと語る。

ガーゴイルは肉が入ってることに喜び、コボルドはピーマンを食べても苦味がしないのに驚く、そこには真路もとい世の中の主婦と主夫の苦悩が見えていた。

一報、ドルイドは小食なのか半分を残してしまう、虎徹は味が好みでは無さそう。

シャルルはどちらも美味いと述べる、最後でゅら娘は絶賛というのも衣がはがれる心配も無いし箸じゃなくスプーンなので食べやすいという理由でだ。


「さてと、食べ終わったな、一人ずつどっちが美味かったかを決めたら言ってくれ」

「はいはーい! シルキーに悪いがおっちゃんに一票だ、肉が美味かった!」

「僕もおっちゃんに一票だワン、ピーマンが苦くなかったんだワン!」

「私はシルキーに一票だ、カレーの濃い味は好みでは無かった」

「拙者も真路様には悪いでござるがシルキー殿に一票でござる、珍しい美味を頂けたでござるからな」

「ふむ、吾輩もシルキーに一票だニャ、夏野菜がコンセプトの勝負カレー味ではなく素材の味を生かした天丼がコンセプトに沿ってると思ったのニャ」

「あたしはもち真路様っすよ、食いずらいとかストレスフルっす、やっぱスプーンとフォークが楽っすよねー、箸だるい」


 俊介の号令から、それぞれの感想を述べながら一票ずつ入ってくる。

さて、全て聞き終わった時、二人は顔を見合わせる。

想っている事は同じであった。


「引き分け」

「だな」


 3対3、この勝負、引き分けに終わるのであった。

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