異世界極道 俊介組
『りょ、料理? ですか』
モニターの向こうの少女、真心がとぼけた声を出すのに、少し微笑む。
先ほど料理で勝負しようと宣言した少年、俊介である。
俊介の部屋は純和風であった、畳に襖、床、古き良き日本家屋という者だ。
「そうだ、条件は異世界で獲れた食材を必ず使用する事、審査員はお互いのマモノの代表3名、料理をするのはトレーナー自身か代役、料理は一品コンセプトは――安達が決めていいぜ」
すらすらと条件や審査員、そして料理のコンセプトを決めていこうとする。
最後の料理コンセプトは大体、相手に選ばすのが俊介のやり方だ。
『えっと……夏野菜を使った料理で』
「了解だ、開始は明日の昼にでもするか会場は俺のダンジョン、どうだ」
『構わないよ、楽しみにしてるね』
「こちらこそ、それじゃ通信終了だ」
真心はそもそもの料理勝負を拒否する事なく、俊介との勝負を受け、楽しみにしてるの言葉を最後に通信が終了した。
「兄弟! 次の相手はクラスメイトらしいな、腕が鳴るか!」
「レオンか、まぁな」
俊介が通信を切れば、控えていたであろう男が話しかける、黒服にサングラスの大男、レオンと呼ばれた彼は俊介の補佐役であったりもする。
「坊ちゃま、今日のお夕飯は唐揚げとハンバーグどちらに?」
「ハンバーグが食いてぇ」
「了解いたしました」
レオンに続き静かに襖をあけて入って来たのはこちらも黒服を来ている女性。
銀髪をポニーテールに結った切れ長の目が冷徹な印象を与える女性だ。しかしその印象に対して放った言葉はあまりにも庶民的な質問であった。それに答えた後に俊介は机の上に教科書とプリント、ノートを出し始める。
それは真心がわざわざダンジョンバトルを利用して終わらせた宿題であった
「そうだレオン、何か用事があって来たんじゃないか?」
「うんにゃ、遊びに来ただけ」
「遊びたいなら、ドワーフかコボルドの所でいいだろうが」
「兄貴、兄貴、兄貴ィー! このガーゴイルが遊びにきやしたぜ!」
答えた後、再びレオンに向き直った俊介は何の用事できたかを尋ねればただ遊びに来ただけとレオンは答える、嘆息しながら俊介は他の遊び相手の所に行けばいいと言うのにと言った矢先、更に襖を勢いよく音を立て開き入ってくる者が一人。
灰色の肌に長い耳、背中から蝙蝠の様な羽を生やしたこれまた黒服の男であった。
「乱暴に扱うな、立て付けが歪むだろうが」
「すんませんっす! っさ、何かして遊びましょうや!」
「遊ばん、まだ夏休みの宿題が終わってないんだよ」
「そんなのドルイドに任せればいいじゃないっすかー、アイツ頭いいし」
「ガーゴイル、私任せにしていれば親分の為にならないのだよ」
「うっげぇ!?」
「ドルイドも来たか、何があった?」
「またコボルドの奴が他の組の奴らと抗争を」
「僕、悪くないワン! 兄貴を馬鹿にしてたあいつ等が悪いワン!」
「そうか、で、そいつらは?」
「勿論、けちょんけちょんにやっつけて、街の外にほっぽったワン!」
遊びに来たガーゴイルを夏休みの宿題が終わってないのを理由に断ればそんなものは他のマモノに任せればよいと言えばその他のマモノたるドルイドが来る。
身長は170程度、白色の肌に緑の瞳に緑の髪をしたこれまた黒服を来た偉丈夫だ。そしてそれに首根っこを捕まれた顔こそ犬で手足も犬の様に見えるが二足歩行が出来るように発達した黒服の小柄な少年がいた。
「親分、用事があって来たぜ」
「ドワーフ、お前も遊びに来た……訳じゃねぇみたいだな」
「おう、街に入って悪さしようとしてたゴロツキを締め上げたんでね、報告に」
「そうかご苦労、そしてお前ら俺は今から宿題あっから、解散しろ解散」
「わかったよ」
「うっす!」
「かしこまりました」
「了解だワン!」
「邪魔しちまったな親分」
「おう…………どうしてこうなったんだかな?」
最後に入って来たのは赤髪に顎髭を蓄えた壮年の男である。男性にしては小柄であるがその筋肉はすさまじく来ている黒服が今にもはちきれそうであった。そして彼の報告を聞き労わった後、全員解散するように命令する。
俊介はこの異世界において、向こうの世界で言うヤクザと化していた。
俊介はこの世界に街を作ったお誂え向きに近くに国もあったのでそこに従属する形を取っていたりもする。そしてその中心に自分の住む日本家屋と地下に広がる地下迷宮を作り上げているのだ、ちなみに街の住民はこの世界の存在が大半だ。
俊介たちはそんな住民達を外から来る悪徳商人や犯罪組織などから守る役割を持っている。そしてその謝礼にお金や何かしらの食材を貰い生活しているのだ。
「俊介様、お夕食g……」
「今、宿題やってんだよ! 誰が入っていいっつった!」
「ひぅ、わ、私はただ、坊ちゃまにお夕食を……」
「あ、シルキー、す、すまん、な、泣くなよ」
宿題を苛立ちながら片づけていたという最悪なタイミングでシルキーは入ってきてしまい俊介が恫喝する、怯え涙目になるシルキー俊介はそれを宥めつつ食事にする。
「美味しいですか、坊ちゃま」
「ああ、美味しいよ、シルキーの手料理が一番だ、ああ、これが幸せって奴だなぁ」
「ありがとうございます、大げさでは坊ちゃま?」
「数か月前まではこんな些細な幸せも得るのに苦労してたんだよ」
俊介は生活の大半をこのダンジョンで過ごしている。父は浮気し女と逃げ、母親は男をとっかえひっかえで碌に俊介の世話をしないネグレクト状態、それゆえに貧乏生活が常であったが、高校に入る時に神様に見定められ、このダンジョン生活を始めてからはそれなりに暮らせている。
「明日は料理で勝負するんだ、夏野菜を使ってさ、シルキー頼むぜ」
「はい、お任せください坊ちゃま」
こうして、夏休み最後のダンジョンバトルは始まる
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