大捕り物土井泥助

「はぁっ、はぁっ、こんだけ逃げりゃ大丈夫だろ」


 肩で息をして整える泥助、彼の人生は決して楽な物では無かった。令和から数年で景気は回復し雇用体系も正常化し始めていた。それでも困窮する家庭はあったそれが彼の家である土井家であった。

 

 泥助は貧乏を引き合いに昔からからかわれていた、決定的なのは小学生の時の給食費を盗んだと謂れのない罪を擦り付けられてしまった事からだ、泥助はその事件を期に万引き、スリ、空き巣などを平気でやってしまう心の無い人間になったのだ。


 まぁ、こんなバックストーリーがあっても泥棒は泥棒なのだ、マモノ達は全力で襲い掛かるのだった。


「こんにちはだニャ」

「なにっ! もう追いついただと」

「吾輩の瞬間移動に勝る移動手段はないのニャ」

「くそっ!」


 シャルルの十八番、瞬間移動であっさりと泥助は補足され、来た道を逃げ始める。


「おっと、ここは通行止めでござるよ」

「くっそ、それなりに距離はあったはずなのに」

「鍛えてるでござるからな」

「こんの化け物どもめ!」


 虎徹に挟み撃ちにされてしまい、次は横へと逃げようと走る。


「くっそ、なんなんだよ、俺が何したってんだよ」

「簡単じゃないっすか、泥棒っすよ、ど・ろ・ぼ・う」

「う、うわぁぁぁ! く、首が取れてる」

「動いたら、あんたの首もこの通りになるかもっすねー」

「い、いつのまに、な、なんだよ、この犬ども、いや犬なのかこの大きさ」


 そして、逃げた先、そこには首を手でもてあそぶデュラハンがいた。

泥助は首が取れているデュラハンに驚き腰を抜かしてしまう、そして少し周りを見れば巨大な犬クーシーに囲まれていたのだ。


「なんなんだよ、俺の人生こんなんばっかだ、俺だって真っ当に生きたかったってのによぉ、貧乏が、全部貧乏が悪いんだよぉ!」

「あたしにそんな、叫ばれても困るんすけど」

「お、デュラハン殿が抑えたでござるか」

「後は真路様を待つだけニャ」

「お待たせ、どうやら捕まえ終わったみたいだね、っさ、土井泥助観念しろ」

「嫌だ……こんな惨めな終わり方してたまるかよ! 捕まるくらいならここで死ねばいいだけだ! 元の世界に強制帰還される筈!」


 おもむろに泥助はナイフを取り出し、自身の首へとそれを突き立てようとする。

その素早い動きに対応出来たのは真路だけであった。すぐに泥助の手首をひねり上げ、反対の手で頭を押さえつける、真路は凶器を持った人間相手に十年以上も戦い続けたプロである、これくらいの事は瞬時にやってのけるだけの力量がある。


「くそ、離せ、離しやがれよ!」

「それではいそうですかと離す刑事はいないよ、手錠をかけさせてもらうぞ」

「そうだ、これは暴力行為だルール違反じゃないのか!」

「大丈夫っすよ、既にあんた以外のメンバーは降参してるっすから」

「なんだよ、それ、うぅ、俺の俺の人生って……」


 泥助はただただ、項垂れ、己の人生を憂い続けるのであった。

こうして、泥棒相手のダンジョンバトルは幕を閉じるのであった。

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