ケットシーの弁論

「虎徹様、二名ほど、この城の正面100mに立っております」

「ふむ、何奴でござる?」

「一人は執事服、一人は百合野様でございますね」

「ふむ、シスタ殿、真心様を呼んできて貰えるでござるか?」


 翌日の朝、ダンジョンバトルの終わりが告げられていないが為に城壁に虎徹とシスタは立っていたが、そこに凛子、そしてミレーユが二人だけで立っていた。

他のサキュバス達には帰ってもらい、自分たちは真心に会いに来たのだ。

 虎徹も敵意は無さそうであるが為に真心を呼ぶようにシスタに頼む。

そうすれば二人は安住城の天守閣に通されその場で話をする事になる。


「……おはようございます、真心さん、昨日は見事だったわ」

「いやぁ、私じゃなくて虎徹とケットシーが全部やったんですけどね」

「ええ、昨日の夜ケットシーがうちに来て降伏勧告をして来た時にそう言ってたわ」

「それじゃぁ、なんでまだここに?」

「挨拶とフェアリーを一度だけでもね」

「ああ~、この時間は果樹の収穫の時間だから会えないですね」

「それは残念ね、なら帰るとするわ、次は毒や夜襲でなく正々堂々戦いたいですね」

「…………はい、それでは」


 真心は最後の凛子が残した毒や夜襲に顔を曇らせる。真心は元来正々堂々を好む。

更に言えば暗所恐怖症の為、夜襲などもっての他だと思った。

 少しケットシーと虎徹を諫めるべく、天守閣に二人を呼ぶ。


「今回はお疲れ様ケットシー、虎徹」

「っは、お褒めの言葉ありがたく思うでござる」

「ですニャ、でも真心様はちょっと不満げみたいだニャ」

「うん、毒とか夜襲とかは少しやり過ぎじゃないかなって?」

「ござ…………」

「真心様、差し出がましいとは思うだけどニャ」


 虎徹が言葉を濁す中、ケットシーは重々しくもその口を開く。


「真心様にとってこのダンジョンは所詮暇つぶしの遊び場程度かニャ?」

「そ、そんなことは」

「そんなことないと言うなら、必死に戦った吾輩らを諫める事は無いと思うニャ」

「…………」

「真心様には向こうの世界があるニャ、しかし吾輩らにはこの世界こそがすべてニャその事を今一度お考え頂きたいのニャ」


 真心はケットシーのその言葉に唇を噛む事しかできなかった、心の中ではまだそう思っていたのはケットシーの言う通りだったかもしれない、エルザが居ないのにエルザ達フェアリーを賭けの対象にするような勝負をしようだなんていったのがいい証拠だ。真心はケットシーの言葉を胸に刻み、もっと真摯にこの世界に対して向き合おうと思う。


「ごめんなさい、それとありがとう、私もっと貴方達の事を大切にしたい、これからもまた何か違うって言うかもしれない、でも一番大切なのは貴方達の事だよ」

「何を言うニャ、真心様が吾輩達を大切に扱ってる事くらい、分かるニャ」

「そうでござる、それと拙者とて毒などでなく一騎討ちにて武威を示す方が性に合うと言うものでござる」

「う~ん、そもそもこういう戦いをしないで済めばいいんだけどね」

「そうでござるな」

「そうだニャ」


 三人はそんな理想論を最後に述べて、この場をお開きにするのだった。



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