勇者狩り〜天空の暗黒城と魔王の花嫁〜

古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中

第1話 勇者狩り【1】


 影が薄い。

 と、言われて生きてきた。

 幼馴染のワイズとリズ、ユエンとエリンが御伽噺の勇者に憧れて旅をしているという男に『パーティを組まないか』という話を本気にしてから半年。

 幼馴染組唯一の男であるミクルは——荷物持ちになっていた。




「おもい……」

「大丈夫? ミクル……」


 ワイズ。

 明るく元気で気遣いも出来る。

 金髪碧眼で、村で一番可愛く器量もいいと評判の女の子だ。

 武器は剣を使う。

 正直勇者を目指すという男……リーダーよりも腕が立つ。


「ねえ、リーダー。やっぱりミクル一人にこの荷物は多いよ。わたし、自分の分は自分で持ってもいいでしょ?」


 リズ。

 ワイズの妹だ。

 姉に劣らず愛らしい容姿。

 武器は短剣。

 素早い攻撃で敵を翻弄する。


「ダメよ、二人とも! ミクルは軟弱なんだから! ……もっと男らしくなってくれなきゃ……旅に出たのに軟弱なままなんて、村に帰って馬鹿にされるのはミクルなんだよ!」


 ユエンズ。

 村長の娘だ。

 最年長でみんなの姉御的存在。

 他人にも自分にも厳しいから、勘違いされやすいが、本当は誰より心配性。

 身長と胸が小さいのを気にしている。

 前衛が多い為、職業は弓師。


「ま、魔道士見習いのミクルに筋力付けさせようってのも、全員分の荷物を持たせるのも、さすがにどーかと思うけどね。ねえ、お兄さん、なんでミクルにばっかりこんな事させるわけ? 軟弱なのは否定しないけど、移動中ずーっとこれじゃあモンスターに襲われた時すぐ戦闘態勢には入れない。効率悪いと思うんですけどーぉ」


 エリン。

 村に捨てられていた赤ん坊。

 村長のところに引き取られて、ユエンズと姉妹のように育てられた。

 肌が浅黒く、瞳も片目が禁忌の紫色。

 なのに珍しい光属性の魔力を持っている。

 なので強制的に回復士。

 本人は「ガラじゃないのに……」といつもこの職業以外を選べず肩を落としている。


「だ、大丈夫だよ、おれは……重いけど……も、持てないわけじゃ、ないから」

「そーう?」

「辛くなったら言ってね!」

「そ、そうよ。鍛える事は必要だけど、無理は禁物なんだからね……!」

「ユエンズ言ってる事矛盾してない?」

「し、してないわよ!」

「…………」


 まただ。

 ミクルは勇者志望を自称する男の視線に気付いていた。

 幼馴染たちに囲まれて、話しかけられるのは勇者志望の男、リーダーでなくミクル。

 幼馴染なのだから、彼女らが気楽に話しかけてくるのは無理もない。

 しかし、この男はそれを面白くなさそうに見てくる。

 その視線を浴び続け、ミクルの中の疑念が確信に変わりつつあった。

 この人は——リーダーは、ミクルの幼馴染たちを……拐かそうとしていただけなのではないか?

 若く可愛らしい彼女たちを村から連れ出して、娼館に売り払おうとか、酷い事をしようとしていたのではないか?

 次の町は少し大きな町、エルール。


(エルールに着いたら……村に帰ろうってみんなに言おう)


 村長たち、彼女たちの家族たちは十五を過ぎたら一度だけ旅をして世間を知る事は村の掟にある。

 だから、心配だが送り出す。


『ミクル、エルールだ。エルールまで行ったら帰ってこい。あの勇者志望だとかいう男は信用出来ないからな……』

『は、はい、村長……』


 娘可愛い村長や、ワイズたちの両親にもそう頼まれている。

 この町までは村からほぼ一本道。

 少し遠いお使い程度と思えばいい。

 ユエンズに話せばすぐに話はまとまるだろう。

 宿に着いたら……そう、思っていた。


「あ、そうだ。みんな、この町には温泉があるんだぜ」

「「「温泉!?」」」


 リーダーの言葉にワイズとナージャとユエンズが嬉しそうな声を上げる。

 宿の隣には温泉があり、その温泉には美肌の効果があるんだとか。

 得意げに言うリーダーにすっかり三人はその気になっている。

 唯一あまり興味なさそうにしていたエリンも、ミクルとみんなを見比べていた。

 これは、入りたいんだな。

 うん、と頷くと、少し嬉しそうな顔をした。


「あ、じゃあ、おれ先に宿にみんなの荷物運んでます……」

「え? そうか? まあ、隣だしな。ミクルも荷物を置いたら来るといい」

「はい……」


 何より足が痛い。

 リーダーがやけに嬉しそうな笑顔だったので、ますます疑念は確信に近付いた。

 だが、ここで気にしておくべきはリーダーの笑顔の『質』であるべきだったのだ。

 宿に女子四名と男二人の部屋を取る。

 荷物をそれぞれの部屋に置いて鍵を掛けた。

 温泉……ミクルも足がパンパンだ。

 何しろ全員分の荷物を運んでいたのだから。

 無自覚に胸が踊り、隣の温泉へと向かおうとした。


「よう」

「?」


 宿を出た途端に数人の男たちが待ち構えており、ミクルへ「お前がミクルか?」と問うてくる。

 左右を確認するがミクルという名の人物は……というよりもミクル以外の人物は、近くにいない。


「……あ、え、だ、だれ……」

「へへ……」

「!」


 ブォン、と振り下ろされた鉈を、右に倒れるようにして避ける。

 男たちは、馬を連れてきてそれに乗ると、今度は剣を抜いた。



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