1話 ボランティア
俺が受験に受かってから通う事になった
電車を乗り継いで片道一時間半もかかる。勿論親はこの学校に俺が行くって行った事に対して反論した。
特に強い意志が無かった俺に対して、親は諭した。志道学園の偏差値は七十で県内でもトップクラスに高い。その為に塾の中でもそこまで優秀でも無かった俺が行って落ちこぼれる事も心配した。
それに、中学受験は本当であればする必要が無い。志道学園は私立の為、学費も高く、小学生時代の仲間達と別れて、態々受験をしてまで行く必要は本当であれば無かった。
更には滑り止めで受けて合格した学校には特待生制度があってそれは入試で高得点を取った人には授業料が免除されてお金が入ると言う仕組みだ。俺はその特待生に属していた。
だから、尚更親は俺に対して明確な意志の確認をさていた。
だけど、親は俺が受験勉強を頑張っていたのも知っていたし、俺の意志を頑なに否定するのも良くないと考えて合格を知った日から入学届けを出すまでの数日間俺に考える時間を与えた。
志道学園は男子校で中高一貫校だ、思春期に入る少年少女達にとってはその華の恋愛シーズンを棒に振ると言うの言わずもがなかなり痛い筈だった。
だが、そんな事は小学生の俺にとって関係無かった。まだ異性などにも殆ど関心は無く、友人に下ネタを言われるとちょっと恥ずかしくなるレベルで表面では異性に対する感情を否定していた。
それでも一応ネットで女優さんの裸画像を見て興奮する位のエロ少年ではあったわけなんだが、とにかく小学生だった俺は異性が思春期にいない事がどれだけのデメリットになるかなんて考えもしなかった。
そして、いつも落ち着きが無く、空気が読めない俺は少しクラスでは省かれていた為、どこか心の中でクラスの奴らに俺はあんなに偉い所に入ったんだぜ?凄いだろ?って見返してやりたい気持ちが大きかったし、クラスの中での居心地の悪さを俺は感じていた。
たったそれだけの理由……いや、それだけの大きな理由で俺は志道学園への入学を決意した。
親には良い環境で勉強がしたいと言う理由などを説明したが、それはただの当て付けに過ぎなかった。だが、親も悩んだ末に頑張って俺が掴んだ合格は運命だと信じて俺の志道学園への入学を受託した。
ただ、偉い学校に入ったからと浮かれずにその学校の中でも上位を目指すと言う事を心に刻んでくれと親には言われた。
まぁ、当然の事だ。良く偏差値の高い学校にギリギリで受かったからって調子に乗って堕落するパターンは良くある話だ。
学校の中でも中学受験をした友達は何人かいたが、この志道学園に通った生徒は俺だけだった。それも、俺の中では大きな自慢になっていた。
志道学園への入学を決意してから小学校の卒業式を終えて志道学園の入学説明会で資料と宿題を貰った俺は春休みに突入した。
家で、入学説明会の時に貰った宿題の一つである百人一首のプリントを暗記していると一通の電話がかかっていた。
誰から来たのかと思って固定電話の受話器を耳に当てると母方の祖母の優しい声が聞こえた。
「あ、バァバ?急にどうしたの?」
俺はその祖母には今まで海外に連れて行って貰ったりして色んな経験をしており、それで、俺は感謝と親しみを込めてバァバと呼んでいた。
「あのね?進。私の友人からの誘いなんだけどちょっと一週間位ボランティアに行ってみない?」
「ボランティア?」
唐突にバァバの口から飛び出した言葉に俺は頭に?印を浮かべる。本当は面倒くさいし、外に出るのがあまり好きでは無い俺はその話を断ろうとしていた。
「何年か前に東北地方で地震が合ったじゃない?そのボランティアに関わっている人が私の知り合いに居てね?良い経験になるから震災のボランティアに参加しないか?って」
祖母は、少し声のトーンを落として俺に電話で語りかける。震災のボランティア?実は何年か前に東北地方で大きな地震があった。
その地震の被害は大きく大量の被災者が出て何年も経った今でも復興が追いついていないと言う。当時は全国のニュースで大々的に報じられ、多くの人が涙を流した。
だけど、今は何年か経ってるからニュースなどは次第に少なくなって行き、話題になるのはその震災が起きた日位になっていた。なのに、何故今頃?と言う気持ちが俺の中ではあった。
何年か前とは言っても俺が既に小学生高学年に入った頃だっただろうか?ただ、正確に何年前か忘れる位の出来事位にしか俺は認識していなかった。
受験勉強の為にその地震の正式名称と時間を覚えたのはつい最近の事で、内容に関しては殆ど知らなかったし、興味も無かった。
それに、俺なんかがボランティアに行っても何の役にも立てないと理由を作って断ろうとも思った。普段ならば俺はそうやってその話を断っていたのだろう。だけど今回は何故か行った方が良いんじゃ無いか?と興味を持った。
「分かった。親と話して来るから待ってて」
暫くしてから親の許可を貰えた俺は宿題と筆箱と日記帳を持って祖母の家に下宿した。
祖母曰く、次の日には出発するそうだ。なんて急な話だ……とは思ったものだけど、俺の祖母は行動力だけで言えば誰にも負けないし、花道とお茶の先生をやっていて、元ホテル経営者なだけあって人脈はかなり広い。
祖母は言い出したら聞かない性格で孫である俺を非常に可愛がっていた。母親は三人兄弟だったが、その中でも末っ子でたった一人の女の子と言う事もあって可愛がられている。その影響で俺は祖母にとって命の様な存在な訳だ。
もう中学生にもなろうと言うのに未だ子供扱いしてくるのは少し腹が立つ。
次の日、朝五時には飯を済ませて車の中で祖母の友人を待つ。年寄りは早起きだと言うけれど本当だな。
まだ行く手段を聞いていなかったけれどどうやって行くのだろうか?
「お待たせ!その子が進君?宜しくね」
祖母の友人が次々と車に乗り込んで来る。みんな遠慮など一切無い。
俺を含めて合計五人が入った車少し狭く感じる。それに、俺を除くと全員六十歳を超えている為、まるで老人ホームだ。
だけど、全員好きな事をやって行きているせいか、清々しい笑顔で活力に漲っていた。今から被災地にボランティアに行くと言うのに誰も暗い顔をしていないのはまだ心の幼い俺にとって不思議な事だった。
運転は、ボランティアに直接関わっている黒髪を後ろで結んだ小太りの人が良さそうなおばあちゃんが担当する事になった。
「じゃあ、行くわよー!レッツラゴー!」
そのおばあちゃんは六十歳を超えているとは思えない程はきはきとした口調で車をスタートさせて祖母を含む祖母の友人達と話を始めた。
俺まだ、名前も聞いていないし、一切会話に入り込める気がしない。取り敢えず宿題の百人一首をやるかと思って百人一首のプリントを取り出すと一人の少し肌の焼けたシミだらけの丸い顔をした朗らかなおばあちゃんが反応した。
「私ね、難波潟 みじかき葦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや って言うこの歌が好きなのよね」
「へ、へぇ、そうなんですか」
まだ俺も覚えていないのに何か入って来た……この歌は恋愛の歌らしく、そこからおばあちゃん達のガールズトークが始まるのだが、聞くに堪えなかったので俺は話題を変える。
「あ、あの、東北地方まではどうやって行くんですか?」
「このまま車で行くよ?」
「え」
俺は返って来た予想外の答えに驚き固まった。
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震災のボランティア経験は作者自身も体験した事があります。
これは主人公の心の考え方を改める設定ですので、あまり深く捉えないでください。
この描写によって、不快な思いをされた方々申し訳ありません。
もう少しボランティアの話が続きます。許して下さい。
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