雨蛙
「大僧正様を爺さんだとか、ヒトダマだとか、そういう言い方はいくらナダ殿といえども看過できないぞ!」物陰に隠れていたカモノハシが出てきて言った。
「そうだ!看過できないぞ!」もう一匹のカモノハシも出てきて言った。
「何だお前らは?」
「カ・モ・ノ・ハ・シだ!見れば分かるだろう!」カモノハシ達はかなり憤慨しているようだった。
「うむ、見れば分かる。」
「それより、カモノハシなら未来も見えるのだろう?あれはまさしく ' ヒトダマ ' であったぞ。」
「ああ、いや、俺たちカモノハシは未来も過去も、自分が生きている間のぶんしか見れないんだ。」
「そうなのか?全部じゃないのか?」
「そうだ。俺たちはほぼすべての ' 世界 ' と ' 平行世界 ' の ' 時 ' を見ることができるが、自分が生きている間のことだけだ。ん~...、大僧正様クラスの方はどうかわからんが...。」
「' 平行世界 ' ?」男が会話に加わってきた。
「ん、うん、野良騎士殿の言う ' 異世界 ' のことでもあるよ。」
「世界はたまに分離したり、合流したりするからね。分離したり合流したりするタイプの世界は ' 平行世界 ' って言うことが多いね。」
「って言うか、そもそも的にナダ殿が突然来たから、その時に世界が分離しちゃったんだ。来たのさっきだよね。ここは出来立てほやほやの ' 平行世界 ' なんだよ。」
「ああ、やはりここは異世界なのだな。困ったな。」と男は言って、かるくシロを見やった。
「む?俺が悪いんじゃないぞ、世界が勝手に分離したんだ。」
「あ、でも大丈夫だよ。何日かすれば、また合流して元に戻るみたいだから。」とカモノハシは言った。
***
「ところで、この世界に ' 蛇 ' は来ていないか?俺は白い蛇に連れられて歩いていたんだが。」男は念のため聞いてみた。
「『蛇殿』はいなくなったな。『蛇殿』は俺たちが見ることのできる範囲以外の時空軸へ行ってしまったんじゃないかな...。」
彼らがそんな会話を交わしていると、シロが纏っている砂埃でややうす汚れた衣から、雨蛙がピョコンと出てきた。
「あっ」とシロはつぶやいた。
その雨蛙は、お腹が青白く光っていた。
おそらく、あの石棺の森の中でシロのひたいにピョコンとくっついた雨蛙だろう。青白く光っているのは、' ホウセイの木の実 ' を食べてしまったのだろうか。
シロが纏う衣に隠れて、ここまでついてきてしまったようだ。
男はその蛙を捕まえようとしてみたが、雨蛙はすばしっこくて捕まえることは出来なかった。
そして、雨が一粒、二粒、三粒と降ってきて、やがてざあざあ振りとなった。
雨蛙は苔の生えた草むらの中へ逃げて行き消えてしまった、男は捕まえることをあきらめざるをえなかった。
≪登場人物紹介≫
・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。
・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。
・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。
・男 ・・・ 謎の男。
・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。
・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。
・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。
・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。
・蒼井瑠香 ・・・ 医者。
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