第四章 ≪世界の物語≫

落ちた男

男は森の中にいた。


蛇について行っていたのであるが、途中ではぐれてしまい、あっと思った瞬間には既に落とし穴に落ちてしまっていたのだ。


落とし穴に落ちれば、異世界へ転送されるはずであるが、辺りは先程の森の中とさほど変わらないようであった。


ただし、落ちる前は夜であったが、ここはもう朝になっていた。



カモノハシが二匹、男に近づいてきて、


「穴に落ちた?」と聞いてきた。


「落ちた...んだと思う。だが、俺は異世界へ転送されたのだろうか、ここはさっきの世界とほとんど変わらんが...。」と男は答えた。


カモノハシは男をよく見て、


「ん~~~。落ちたみたいだぞ。」と言った。


「ところで何でこの森で来たんだ?」ともう一匹のカモノハシが聞いた。


「『森の向こうのバー』に行ったんだ。」と男は答えたが、


「いや、森に来た理由を聞いたんじゃない。森まで何に乗ってきたのかと聞いているんだ。徒歩か?」とカモノハシは言った。


「あ、ああ、森の入り口までは ' G.G.R・ネイチャー ' に乗ってきたよ。」


「あれは騎士にしか乗れんだろう。お前は騎士か?」


「まあ一応、騎士ではあるな。だがな。」男は答えた。


「そうか。俺たちもだ。一緒だな。」とカモノハシはやや嬉しそうに言った。なんでも他人と一緒であることを好む性分であるようであった。


「' G.G.R・ネイチャー ' か。一度あれに乗ってみたかったんだ。今度乗せてくれ。」


「それは構わんが、ここは異なる世界なのだろう?俺のG.G.Rはこの世界にも存在しているんだろうか...。」


「うむ。無いと困るであろうな。」カモノハシは言った。



***



男がこの世界に現れるほんの数分前、異空間の崩壊に巻き込まれた ' シロ ' こと ' ゲンカイ・ナダ ' もまた、この同じ世界のかなり近くに転送されてきていた。


「森か。ずいぶん遠くへ飛ばされたな。空間軸も時間軸もめちゃくちゃだ。空間軸はさほどでもないが、時間軸はだいぶ遠いな。」


とシロがそんなことを考えていると、男とカモノハシの会話が聞こえてきた。


シロが声のする方へと向かっていくと、シロに気付いたカモノハシが、


「ナ、ナ、ナ、、。」と言って、物陰に隠れてしまった。


男はカモノハシが突然隠れてしまったことに少々驚いた。


シロは男に向かって「なんだ人間か。こんなところで何をしてるんだ?」と聞いた。


「こんなところでって、俺は『森の向こうのバー』の大僧正に会いに行ったんだが、お前こそ何なんだ?」


「俺はシロだ。」と言い、「大僧正ってイチジ爺さんか?」


「爺さんて..まあかなりのご高齢ではあったが、、。」


「なあ、あの爺さん、将来 ' ヒトダマ ' になるんだぞ!すげえな!」とシロは言った。


ヒトダマ...か。男は子供の相手をするのはやめようと思った。



≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。


・男 ・・・ 謎の男。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る