王家の宝玉
クロウに案内され、シロとクロは"カ・モギ博士"の家の中へ入っていった。
"カ・モギ"は植物型の生命兵器の専門家であったが、家の中にはそう特別なものはなかった。
いくつかの植物用コールドスリープ装置があるくらいだった。
大きなビーカーをひっくり返して被せたような装置の中には、朝顔が眠っていた。
おそらく、博士が何らかの実験の最中にコールドスリープにかけたのだろう。
朝顔はよくしゃべる植物で、うるさいから眠っていてくれると助かる。とシロは思った。
彼は「俺も眠い。」と言って、寝室のベッドに勝手に入って寝てしまった。
***
さて、クロとクロウは二人きりになってしまったのだが...。
どちらかと言えば、クロ王子の方が人見知りしそうに見えたし、クロウはあまり人のことなど気にしそうにないタイプのように見えたのだけれども、意外にも何か"もじもじ"としたのはクロウの方であった。
唐突のようではあるが、何か思うところがあったのであろう、
「なぜだか、君は他人のようには思えぬのだ。」とクロは言った。
それはその通りであり、クロウの本名は、クロウ・クーン・ジュノーというものであり、ジュノー王家の正統な末裔であった。
ただし、この世界では百数十年前にジュノー王国は滅亡しているのであるが。
クロウは、ジュノー王家の末裔であることを決して他言してはならぬと"カ・モギ"に厳命されていた。実際、クロウの両親はジュノー王家の末裔であるがゆえに殺されているのであった。
「おそらく、余は遥か未来へと転送されてきたのであろう。そして、君はジュノー王家にゆかりのある者なのだろう?」クロは聞いた。
クロウは何と答えていいか分からなかった。両親も幼い頃に死んでしまったから、自分と"ゆかりのある"という人物が目の前にいるということは彼にとって初めてのことであった。
クロは持っていたバッグの中から、ジュノー王家の紋章が刻まれた宝玉を取り出した。
「余はクロ・ト・ジュノーである。君の本当の名を教えてくれ。」とクロは言った。
少し間をおいて、
「...クロウ・クーン・ジュノーだ。」とクロウは答えた。
「では、我が王家に伝わる宝玉を授けよう。クロウ・クーン・ジュノー、我が末裔よ、きっとこの宝玉は、お前の命を助けるであろう。」
クロはオレンジ色に光る宝玉をクロウに渡した。
--- この物語は、クロウ・クーン・ジュノーの物語ではないため、この先の彼の運命はこの物語で語られることは無いのであるが、簡単に記しておくと、この十数年後にこの世界において"最後の戦い"と呼ばれる戦争が起こることになる。
クロウ・クーン・ジュノーは、ジュノー王家の生き残りとして担ぎ上げられ戦争に巻き込まれることになるが、この宝玉が彼の命を救うことになるのは確かなことであった。---
≪登場人物紹介≫
・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。
・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。
・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。
・ニジュウヨジ ・・・ オアシスにいたカモノハシ。アオの能力により少女の姿になっている。
・クロウ ・・・ 門番の少年。
・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。
・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。
・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。
・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。
・蒼井瑠香 ・・・ 医者。
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